―第一章"三つ巴の意志"・その1―
―――――第一章―――――
鳥の鳴き声と共に朝が訪れる。
目を開けると、そこにはいつもと何ら変わらない白い天井が広がる。
少年は体を伸ばし、素早く着替えると部屋のドアを開け、階段を降りて行った。
僕の名前は風見 澄(かざみ きよし)高校一年生。
ここは東京某所の住宅街の僕の家の僕の部屋。親二人と居候チャオ一匹の三人+一匹暮らし。
これからも幸せに暮らしていくんで、宜しくお願いします…。
完。
じゃなくて。
時は西暦20××年。遺伝子工学が発達し二種以上の生物の遺伝子情報を合成し、新種の生物を創り出したり、
古代の生物の現代への復元が当たり前になってきた近年。
遂に古代に生存した伝説の動物「CHAO―チャオ―」の復元に成功した。
が、当時の生存したという情報は壁画等のみ。遺伝子の元が全く見つからなかったのである。
なので完全に「新しい生物」つまり人工生命体に属すので古代生物の復元とは言い難いのだが、
恐らくはほぼ再現されているので特に問題は無い。
現在、チャオは大量に「生産」され、その高い知性と可愛らしい外見で人間の良きパートナーとして社会に出て活躍している。
だが最近ある問題が起きている。「Capture」という能力をご存知だろうか?
チャオが他の生物の遺伝子情報を取り込んで、自分の特徴にするというチャオ独自の不思議な力だ。
恐らく、古代のチャオが持っていた能力をそのまま復元してしまったのだろう。
問題は「Capture」能力そのものでは無く、その中でも異常な、常軌を逸した「Capture」能力を持ったチャオ達だ。
その能力は「Capture」の常識を覆し、遺伝子を持たないただの「物質」の「Capture」さえ可能にするものもある。
ほとんどのチャオは温和で平和的なのだが、異常な能力を持つチャオには何故か凶暴性の高いものが多い。
ここ数ヶ月に、そのチャオ達に人間が襲われるという事件が起き始めた。
って問題があるんだけど、家のチャオとは全くの無関係だから僕には関係無い。
今日も僕は朝食を早々と食べ終え、学校へ行く。
すると、いつものように居候チャオ・ニュートラルノーマルの「クルト」が玄関でじゃれてくる。
「澄、今日も学校?たまには遊んでよー」
どうやら彼は学校が義務的なものとは知らないようだ。
いや、自由な彼らには「義務」という概念は無いのかも知れない。
毎朝この調子だ。
「あー・・・じゃあ"だるまさんがころんだ"しようか。クルト鬼ね」
クルトは嬉しそうに頷き、後ろを向いて「だーるーまーさーんーが」と言い始めた。
今だ、靴履いてダーッシュ!
僕は急いで家の門をくぐり、クルトの目の届かない所まで走った。
いつもこんな方法でクルトを撒く。後で怒られる、と見てる人は思うだろう。だがしかし、彼には致命的な弱点がある!
それは"物忘れが酷い"ということだ!恐らく帰る頃にはもう忘れているだろう。
あ、もちろん休みの日にはちゃんと遊んであげているので心配はいらない。
・・・クルトと出会ったのは土砂降りの雨の日だった。
帰り道、舗装された道の真ん中にポツンと一つの小さな影があった。
チャオだ、と分かりはしたのだが、自分にはどうすることも出来ない。
僕は動物を飼うのは苦手で、昔から何も飼わずに過ごしてきた。
そしてチャオブームが到来しても、僕はチャオを飼う事は無かった。
そのチャオは僕に話しかけてきた。雨音で聴き取りにくいはずなのに、その声は妙にはっきり聴こえた。
「・・・君は誰?僕はクルト」
僕は見向きもせずに通り過ぎようとした。僕は本当はチャオを飼いたかった。
でも僕が生き物を飼うと悲惨な目にあわせてしまうことが多い。
だから飼えない。
そう思って通り過ぎようとした。
が、クルトと名乗るチャオは僕の脚にしがみついてきて離さない。
その小さな腕の小さな力で必死にしがみつく。
僕は一瞬振り払おうと思ったがクルトのあまりの必死さに戸惑い、
とりあえずクルトを両手で掴んで離し、クルトごと雨を凌げるように傘を持った。。
そして言った。
「僕はね、君を飼えない。僕が生き物を飼うと必ず酷い目にあわせてしまうから・・・」
するとクルトは事も無げに言った。
「なら友達は?飼うんじゃなくて友達になるのは?」
チャオと友達になる、なんてことは考えたこともなかった。
そうだ。チャオという生き物は人間に匹敵する知能を持っているんだった。
自分で考えて行動することも出来る。僕が迷惑をかけることもない。
なら答えは一つだ。
僕は喜んで答えた。
「うん、いいよ。クルトは・・・住むところがないのかい?なら家に来るといいよ。
僕は一人っ子だからさ、別に困ることもないんだ」
するとクルトは嬉しそうな表情を浮かべて僕に再びしがみついた。
そして彼は我が家の「居候」となったのだ。
今日も退屈な授業が終わり、学校の下の商店街を通り電車に乗って家がある住宅街へと向かう。
ハズだったのだが。