~最終回~ ページ4
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「瀬野君は、なんでミズって名前にしたの?」
私がそう尋ねると、彼は自分のチャオにミズと名づけた理由を話してくれた。
…正直、信じられなかった。
彼が話してくれた内容が、私の幼い頃の体験そのままだったから。
私は幼い頃、ミズを助けようとして溺れかけたところを――そう、今まさに目の前を流れるこの川で溺れかけたところを、ある少年に助けられた。
あの後少年に会うことは無く、私は遠くへ引っ越した。
だから少年の名前は聞けなかったけれど、彼の話が本当なら、今目の前にいる彼が――彼が、あの時の。
「その女の子って、もしかしたら」
…
…
俺は、昔ココで溺れている女の子を助けたことがあって、その子の育てているチャオの名前がミズで、その後チャオを育てるコトになったときにその名前を勝手にとらせてもらったコトを話した。
水月は、目をまん丸にしながら聞いていた。うん、なんか少し様子がおかしいような。
「瀬野君」
「うん?何?」
水月は、じっとコチラを見据えて言った。
「その女の子って、もしかしたら」
「うん」
「私のコトかもしれない」
「…は?」
と、思わずさっきよりも間抜けな声を漏らしてしまった。
あのときの女の子が。今目の前に居る水月だって?…。
まさかぁ。
「し、信じられないかもしれないけど、でもホントに私身に覚えがあるのっ」
もしかしたら、ちょっとバカにしたような態度が俺の顔に出ていたのかもしれない。
バカにした覚えは無いが、なにぶん突拍子も無いは話だったから…。
主張する水月は、なんだか少しムキになっているように見える。
「んー、じゃあ証拠はある?」
「証拠は…ないけど…」
あからさまにしゅんとなる水月。
神様、もしかして俺は間違ったコトをしてしまったでしょうか。
「…そうだ、あの女の子のチャオは、白半透明チャオだったんだ。水月のチャオも白半透明なら、俺も信じるかも」
白半透明は、相当珍しい。
少なくとも俺はあの時以来、白半透明チャオには出会っていない。
「あ…うん」
なぜか水月はバツが悪そうに、隣で寝転んでいた水月のミズを抱き上げて、俺に渡した。
ちなみにウチのミズは、さっきからなにやら俺の服の裾を引っ張っているが、今はかまってる場合じゃない。
この『ミズ』が白半透明なら、本当にあのときの女の子は水月かも…。
期待を寄せ、俺はミズの観察をはじめる。
あの時は透けてると言っても、本当にうっすらとだった。俺は水月のミズを持ち上げたり後ろで葉っぱをぷらぷらさせたりして、注意深く観察した。が。
「…透けてない」
水月のミズは、透けていなかった。
普通の、真っ白なチャオだった。
「あの…。その子、子供の頃は透けてたんだけど、大人になったら、普通の、真っ白な色になって…。信じてもらえないよね…」
ますますしゅんとなる水月。
神様、俺はまた間違えましたか。むしろアナタの仕業ですか。
俺がいるかどうかわからない神様に苦情の念を送っていると、
「・・・でも、あの時瀬野君が言ったコトなら覚えてるよ」
はて、自分はいったい何を言ったっけか。
「えっとね…」
と、そのとき、俺の手から離れた水月のミズが突如眩い光に包まれた。
「わっ」
「きゃっ」
一瞬だけ眩しさで目を瞑り、次に目を開けた時、水月のミズが薄い壁…のようなもので覆われていた。
ミズを覆うものは時間が経つにつれそのぼやけた輪郭をはっきりさせていく。同時に、桃色に色づいてゆくのもわかった。
「み、ミズ?どうしたの?」
水月が心配そうに見守る中、俺はこの現象を分析していた。
実際に見たことは今まで一度も無いが、コイツは間違いない。
「転生だ…」
「転生?」
チャオは死ぬとき、灰色の繭に包まれて消えるのだと言う。
しかし、育て主に懐いていれば…。桃色の繭に包まれ、再び生命を授かり生まれてくると言う。
ミズが完全に繭に包まれ、そしてその繭が消えたとき。俺たちの目の前から水月のミズはいなくなっていた。
そして――かわりに一つの卵があった。
――数分後、卵から一匹のチャオが生まれた。