~第四回~ ページ2
ベッドから降りようとしたとき、床に何かが転がっていることに気づいた。
そして、それが未だ夢から覚めずにすうすうと寝息を立てている、ミズであることにも気づいた。
普通の色、いわゆるピュアと呼ばれる種類のこのチャオとは、俺が五歳の頃からずっと一緒に暮らしてきた。
十年近く暮らしてきた間に、ミズはコドモから、ニュートラルノーマルタイプのチャオへと進化を果たした。
外見は、ノーマルタイプに進化したため(おまけにニュートラルだから)あまりコドモのときと変わりはしなかった。手足と頭の先が緑がかったのと…まぁ、ほんの少し大人っぽくなったような気がする。
でも、行動はまるで昔と変わっていない。
寝るときはよく俺のベッドに潜り込んでくるのだが、寝相が悪いのか翌朝には床に転がっている。だが、俺の記憶上、コイツが俺より先に起床したという事実は無いはずだ。
体が柔らかいからかもしれないが、よくそれで起きないな、と始めは感心すらしていた。まさかそれが毎日ずっと続くとは思わなかったが。
今となっては、
「おい、起きろ」
と、ミズの体を揺すって目覚めに導いてやるのが、俺の朝の日課になってしまった。
小学生時代、あまりに気持ちよく寝ていたもんだから起こさずにそのまま学校へ行ったのだが、俺が帰ってくるなり泣きながら飛び込んできた。俺が帰ってくるまでの間、泣きじゃくっていたのだと母親が言っていた。
どうやら俺が勝手にどこかへ行ってしまって、もう帰ってこないのだと思ったらしい。それ以来、ミズを起こさずに学校へ言ったことは一度も無い。
ミズが、俺にどこにも行ってほしくないと思ってくれているのなら、それは勿論うれしいのだが、だがしかし。
「チャオ…。チャオ~?」
こうして起こしてやるたびに、ポヨをぐるぐるさせて『気持ちよく寝てたのに、何で起こすんだよコノヤロウ』的な目で俺を睨みつける様子を見ていると、なんて我がままなんだとため息の一つもつきたくなる。
起こしたら起こしたで睨みつけてくるし、起こさなかったら起こさなかったで喚くし。
「はぁ。…まったく…」
ぶつぶついいながら、俺は階段を下りてトイレに向かった。
…
現在時刻は十時十分。
俺の傍らでぷよぷよと浮かぶミズを連れて、玄関に向かう。
靴を履き、玄関のドアを開けようとしたとき、
「出かけるのー?」
と、リビングにいる母親から呼びかけられた。
テレビに映っているのは、今流行の韓国ドラマ。
「ちょっと、チャオの木の実買いに行ってくる」
行ってらっしゃい、と言って、再び韓国ドラマ観賞に戻る。見るのはかまわないが、人のテープに間違えて上書き録画するのはやめてほしい。
そんなことを考えながら、玄関を出る。
今から向かうのは、ミズを育て始めた時から通っている、チャオショップ。
チャオの卵は勿論、木の実から遊び道具まで、いろいろ取り揃えている便利な店である。
九月といえど、まだ暑い。チャオショップを目指し歩き出した俺とぷよぷよ浮かびながらついてくるミズに、太陽は容赦なく日光を浴びせ続けた。