~第三回~ ページ1
「あ、もう帰らなきゃ」
空が朱に染まった夕暮れ。風に乗って流れてきたメロディーは、現在時刻が午後五時であることを告げていた。
少年はすっくと立ち上がり、お尻をポンポンとはたく。
「じゃあね」
笑顔で手を振った後、少年は一目散に駆け出してしまった。
「あ、まって」
少女の呼び止める声は少年に届かず、少年はそれから振り返ることはなかった。
――名前、聞きそびれちゃった。
少年の姿が見えなくなってまもなく、ぐっすり眠りこけていた少女のチャオが目を覚ました。
目をこすって、ハテナマークを頭上にポヨンと浮かべるチャオの姿に少女は安堵し、それは微笑みとなって顔に表れた。
「帰ろっか」
「ちゃお」
少女はチャオをひょいと抱き上げ、家路に着いた。
誰もいなくなった河川敷の夕空が夜空に変わるのは、それから暫く経ってからだった。