~第三回~ ページ1

「あ、もう帰らなきゃ」

空が朱に染まった夕暮れ。風に乗って流れてきたメロディーは、現在時刻が午後五時であることを告げていた。
少年はすっくと立ち上がり、お尻をポンポンとはたく。

「じゃあね」

笑顔で手を振った後、少年は一目散に駆け出してしまった。

「あ、まって」

少女の呼び止める声は少年に届かず、少年はそれから振り返ることはなかった。

――名前、聞きそびれちゃった。

少年の姿が見えなくなってまもなく、ぐっすり眠りこけていた少女のチャオが目を覚ました。
目をこすって、ハテナマークを頭上にポヨンと浮かべるチャオの姿に少女は安堵し、それは微笑みとなって顔に表れた。

「帰ろっか」
「ちゃお」

少女はチャオをひょいと抱き上げ、家路に着いた。
誰もいなくなった河川敷の夕空が夜空に変わるのは、それから暫く経ってからだった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第186号
ページ番号
10 / 18
この作品について
タイトル
わたあめ
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第183号
最終掲載
週刊チャオ第189号
連載期間
約1ヵ月12日