~第一回~ ページ4

…そして先ほどのシーンに戻る。

今日ほど数学の授業時間を楽しく過ごせた日は、俺の今までの経験には無い。授業が終わるのを惜しんだほどだ。
なんたって俺の隣では天界から舞い降りた一人の天使が、見るだけで血液がサラサラになるような笑顔を振りまいてらっしゃるのだ。
『可愛い』を十乗ぐらいすれば表現しきれるだろうか、その横顔を眺めていたら授業はあっという間に過ぎてしまった。
授業終了のチャイムがなったと同時に、案の定というかお約束というか、転校生水月栞の周りに人だかりができた。
女子はともかく、男子の中には殺気に近いものを纏って来るヤツもいた。当然のことながら矛先は水月栞の隣の男子生徒に向けられたものと思われる。

「水月さん、趣味は?」
「んー、お料理とか…お裁縫とか、かな?」

女子生徒のその質問を皮切りに、マシンガンのように四方八方から質問が浴びせられる。

――好きな食べ物は?

――前はどこに住んでたの?

――誕生日は?

――血液型は?

――スリーサイズは?

水月栞は、一部の質問を除いて嫌な顔ひとつしないで微笑みながら答えていた。
ちなみにその一部の質問をした不届き者は、早々に女子生徒たちによって輪の外に放り出された。俺の一つ前の席が空いた。
しかしまぁ趣味が料理と裁縫とは、なんと家庭的な。大和撫子ここに現存す。

すっかり「水月栞への質問タイム」となった休み時間もあっという間に過ぎ、気づいてみれば横で傍聴してるだけで終わってしまった。
まぁたとえ質問を持ち合わせていたとしても、女子軍団のマシンガン質問攻めに割り込む技術など俺には無い。弾の切れないマシンガンだ、恐ろしい。

教室に入ってきた教師の顔をみて、次の授業は国語だということを思い出した。
国語の教科書を取り出し、また真ん中に置く。それに気づいた水月栞が、また小動物のような目でこちらを覗き込み、

「あの、また見せてもらえますか?」

えぇ、もちろんです。

見てはいないが、朝のニュースでの俺の今日の運勢はきっと最高だったに違いない。
指定のページを開きながら、俺は思った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第183号
ページ番号
4 / 18
この作品について
タイトル
わたあめ
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第183号
最終掲載
週刊チャオ第189号
連載期間
約1ヵ月12日