Violet Pen's 4

チャオとの別れよりおよそ一年という月日が経過していた。
人々の生活は以前と何ら変わりないものの、どこか退屈で、それでも楽しい生活を送っている。
中央街の大観衆ホール。
そこの控えに、一人の男が立っていた。
男はさきほどから落ち着きが無い。
緊張する……
そして、男は壇上を登っていく。
大観衆が、目の前に現れた。


「どうもみなさん、チャピルです」



「国を引っ張る新たなリーダー!?」
という一面大見出し記事で、新聞に書かれてあった。
苦笑いして、まあ、せいぜい頑張れと、某は無精ひげをいじりながら思う。
あれから、一年。
多分、あいつらはここに来るだろう。
という事は、俺が一番乗りだ。
さて、一番最後の連中は飯を奢らせてやろう。それがいい。
ピリリリリ、ピリリリリ。
携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし…」
「某か。今、冬木とDXと、それからホップと大観衆ホールにいるんだが、お前、どこにいるんだ?」
………。
出遅れたぁぁぁぁ!!!



電話が切れた。
何だろう。某、何かあったのだろうか。
「どうだった?」
DXが尋ねてくる。とりあえず、首を横に振っておく。
壇上ではチャピルが長々と演説している最中で、冬木はうなずきながら聴いていた。
「それにしても、まさかこんな事になるとは思いませんでしたよ」
「俺もだ」
ホップ=スターが一年前を懐かしみながら、今という時間をかみ締める。
「チャオたち、今頃何してるんだろうね…」
「変わりない生活を送ってるだろう」
「ですね」
自然に笑みがこぼれた。
別れの辛さは、時間と共に薄れていった。



「ふう」
演説は終わった。
後は投票だけである。
だが、横目で見たところ、須磨らはどうやら自分の話を聞いていなかったようだ。
薄情者め、と、苦笑しながらチャピルは思ってみた。
コツ、コツ、コツ。
びくっとした。
なぜ、あの音が?
チャピルは思わず辺りを見回す。いや……
これは、靴の音だ。
では、誰か来たのか?
さて、誰だろう。



ぜえ、ぜえ。
走って来たが、どうやら演説は終わっているようだった。
次々と人の波が会場から溢れて来る。
その中を一人、逆走する。
そういう連絡は初めからしておけっての。
ざっと、広く開いた空間に出る。離れたところに、あの三人がいた。
思わず笑ってしまう。
某は、歩き出した。



ぱあん。
驚いて、一同は壇上を見る。
某が来た事に気付いたのは須磨だけで、すぐその音が響いたからだ。
「なんですか?」
「分からない」
ホップ=スターの疑問に、冬木が答える。
「何が、起こってるんだ?」
「いや、…?」
某が来た事に気付いた一行は、しかし壇上から目を離さなかった。
予想外にも、それは本当に予想外の方向からやって来た。



「久しぶり」
その小さな姿を見て、須磨は感動があふれてくるのを感じ取る。
その小さな姿を見て、一同は驚愕する反面、笑いが込み上げてくるのを理解した。
チャピルと共にやって来たそれは、紛れも無く、チャオであった。
「元気だったか」
質問ではなかった。確認だった。
須磨の問いに対して、当然のごとく、チャオは答えた。
「もちろん」



紫色のペンを置いて、彼は大きく伸びをした。
さて、最後はどうしよう。
しかし、それは自分の役目ではない気がした。
物語を創ったのは自分だが、その自分でさえ材料を提供したに過ぎない。
…彼らにとっては。
そして彼は、椅子から立ち上がって、コーヒーを入れ始める。
結局、彼らにとっては、どちらが幸せだったのだろうか。
分断された世界。交わりあった世界。
その答えは誰にも出せないだろう。
なぜならば、答えとは観測者によって変化するからだ。
彼は入れたコーヒーを静かに飲んだ。
苦かった。
そう、このコーヒーと同じだ。
このコーヒーも、自分にとっては苦くとも、他の誰かにとっては苦くないかもしれない。
だとしても。


そういう結末になったのならば、それは元に戻っただけなのだろう。
小さなチャオが、そう明言したように。
『別れなんてものは一瞬で、そうなれば出会う前に戻るだけだ』
つまりは、そういう事なのだ。
再び静かに椅子へ腰を下ろすと、彼は紫色に光るペンを持った。
このペンも、誰かにとっては光ってないように見えるのか、それは疑問だ。
にやりと笑って、彼は思った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第280号
ページ番号
4 / 5
この作品について
タイトル
Violet Pen's
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第280号