9 一部

パラパラ―…カーテンが風に煽られる。
ここは、僕の部屋だ。

あるはずだ。スペルとの繋がりが。
スペルの世界とのつながりが。
彼は現状を理解出来ていないようで、呆けているが、今はそんな時間は無い。

 「あの…何でそんな勝ちにこだわるの?」
 「優勝して、みんなを喜ばせてやりたいだろ?」

僕がそう言うと、スペルはぱあっと明るくなった。



     『運命 の 十字架』
     THE DESTINY CROSS



9…決勝…

あった。

ただ、これで本当に帰れるかどうかは分からない。
何せ、何も書いていないから。
何も書いていない本を、どうやって使うかなんて、誰にも分からない。そうだろ?

 「これ。〝白紙の本〟―って僕は呼んでる。叔父さんからもらったやつだよ。」
 「白紙…。うん。貸して。」

大きさは大して無い。ハードカバーだが。
その本を開くなり、スペルは1ページ目から全く進まず、黙って読んでいた。

 「何か書いてある?」
 「すごい…こっちの「魔法」…?…「天術」…。これなら!」
 「出来る?今すぐ。」

頷いたスペルは、白紙の本を閉じて、目を瞑った。
次に、彼は目をゆっくりと開いて、本も開いた。

 「風の転生・世を漂う自由なる風よ…。」
 「(?)」

僕には意味が分からない。
風の呪文で、役立つのだろうか。

 「これで、向こうと繋がった。行くよ。」
 「…うん。」

僕が肯定した瞬間、


場所が移って、ピピーという笛の音で迎えられた。
さきほど…といっても、僕がスペルの中にいた時。
今も、そう、スペルの中にいる。
僕は、戻って来れた。

 「これで最後です!4人目は、スペル選手!」

どわああああっと、会場が沸いた。

 「決勝トーナメントは1時間後、行われます。それまで、ごきげんよう!」


会場に出入りは無く、正午の時刻となっても、食事は売店で済ませるようだった。
最も、スペルも学友たちのところに行って、食事をとっている。
一番初めに反応したのは、もちろんパルアだ。苗字の事で。

 「スペル!何で私とセカンドネームが一緒なの!?」
 「い、いや、僕にも分からな…。」
 「やるじゃない。てっきり、もう諦めちゃったのかと思ったわよ。」

レイユがおちょくる。
こうした日常の雰囲気に溶け込みながら、スペルは別の事を考えていた。
僕の叔父、スペルの主人、フェーマ・マジシャンの事を。
きっと帰ってくるよ、と僕が言うと、

 「(…そうだよ、ね。)」

少しだけ、元気を出してくれた。


学友、フリア=ダーメイトは、どうやらデイクライム=ラザ=フィレアが残った事が気に食わない様子だった。
ルーン=クエイトは、笑顔でスペルを出迎えて、パルアと楽しげに話している。
本来は、マジリアース・バトル・フィレンツィアとは人間の合間で行われる競技だ。
が、チャオの浸透と、「魔法」の只ならない才覚で、それを試したがる人間がいた。
それが、発端だという。

 「あ、もうそろそろ時間だ。」
 「頑張ってね、お兄ちゃん。」

ルーンが手を振って応援、他の友達も、それぞれ、十人十色の応援を示してくれた。


 「それではあ!一回戦を始めます!」

ランドビル司会者は、大きな声でそう叫ぶと、選手の名を示した。
会場の大画面には、舞台そのものが写され、試合が観戦出来る。
というのは、さっき見た。

 「一回戦!西「魔法」大学、〝緑の海神〟フランス=バチュアル!」

応援側や、出身校に関係なく、会場が沸いた。
競技そのものを楽しんでいる…そんな感じだ。
そして、司会者の解説より少し早く、スペルは歩き出した。

 「対するは、「魔法」専門学院、〝天空の守護者〟スペル=イフォーリア!」

思ったのだけど、緑の鉄壁とか天空の守護者とか何で決めてるんだろう。
響きかな、とか考えていたら、スペルがあははは、と苦笑いしていた。

 「両者、構えて!」
 「スペル=イフォーリア…聞いた事の無い名前だな。初参加か?」
 「ええ、はい。よろしくおねがいします。」
 「へえ。いい目をしてる。だが、負けるつもりは無いぞ。」

構え、から、勝負の始まりまでの間、フランスはスペルに話しかけた。
優しいスペルは、対する相手がさほどの実力を持っていないと知りながら、それでも。
対等な相手として、答える。

 「お手柔らかに、お願いします。」
 「始め!!」

先手をしかけたのは、フランスで、僕は相手の異名が的確な事を知った。
スペルの天空の守護者は分からないが、フランスは、

 「トライデント!」

と言う様に、まるで踊るようなさばきで、大気から三つ又の槍を創った。
彼は相変わらず避けるだけだが、いかんせん、スペルの事だから…。

相手をあまり傷付けずに勝とうとしているに違いない。

 「攻撃はしないのか?」
 「…。ええ、苦手でして。」
 「なら、終わらせてもらう。」

くるくると、小さな手で大きな槍を回して、空中に飛び上がった。
魔力を集中させて、飛び上がる。「魔力集結」の後に、飛躍させたのだと思う。
空中に飛び上がった、などと解説しているが、あまり大したことじゃ無いよ。

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このページについて
掲載号
週刊チャオ第256号
ページ番号
18 / 19
この作品について
タイトル
運命の十字架
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第230号
最終掲載
週刊チャオ第256号
連載期間
約6ヵ月2日