8 三部
三部―8…制限時間…
黒い檻のチャオを指差すと、風の人は叔父さんに尋ねた。
すると、叔父さんは杖をひょいと振って、赤いチャオから宝石を奪い取ると(3つだった。)、恐ろしい速さで檻を解いたチャオのところへ移動した。
「俺はフェーマ・マジシャンと呼ばれてるが。俺に楯突こうと言うのか?」
「い、…お前、本当に…。」
「証拠を見たいのならば俺と戦えば良い。」
やはり、おそろしい速さで、赤いチャオは逃げて行った。
「叔父さん、聞かせてください。」
「向こうへ行く方法?お前はこっちの人間だぜ?そんでも行くのか。」
「当然です。僕は向こう…で、彼の役に立ちたいですから。」
僕は断言した。
しばしの沈黙の後、フェーマ・マジシャンは、
「良いだろ。ただ、滝。こっちを任せた。」
「了解しましたよ。彼女たちが気になるんでしょう?」
マントを翻すと、僕の叔父さんは、歩き出す。
ミスティックルーイン奥地…大森林の方向へ。
僕も、その後を追った。
「あいつは元気か?」
「…はい。」
「あれほど興味深い逸材はいまい。貴様も〝盟約主〟なら、あの天才の力となれるだろう。」
意味が分からなかったが頷いた。
見れば、大森林は燃え盛っている。
「ははは…あいつら、かなり本気だな。」
「あれの力は必要だろう。むしろ、あれの力無くしてはいかん。立、」
と、その体の無い、叔父さんから発せられるだけの声は、
叔父さんの名を呼ぶと、命令する。
「凍結しろ。」
「かしこまりましたっと。お手の厳しい事で。」
彼の主人、フェーマ・マジシャン、十翼のリーダー、僕の叔父。
4つの異名を持つ、日高 立は、大きな杖を空高く掲げて、唱え始める。
「潜在する氷期・大輝の氷河・大いなる氷結…その次なんだっけ?」
「呪文を忘れるな。」
「へいへい。じゃ、行きます。永久凍結…「コキュートス」!」
杖を振り下ろし、燃え盛っていた大森林が、一気に凍結した。
ここから眺めると、かなり綺麗であるその氷。
一気に、視線がこっちに集まった気がする。
「気付かれたか。」
「わざとだろう、立。」
「行くぜ。」
「え、はい。」
って、飛び降りるんですかー!?
大森林は既に凍結していて、滑ることこの上無い。
目の前に来る人間を気絶させは気絶させ、奥地まで余裕で来てしまった。
さすがは彼の主人。
「さて、ここに封印されてるな。」
「何がですか?」
「かつて猛威を振るわせた、伝説の悪魔…ルシファーだ。」
「本体はこのエリアにいんのに。魂だけ解いたって意味ねって。」
その宮殿の様な、遺跡の様な、そんなものの上にいる、黒いチャオに、
杖から吹き出す冷気の渦、氷の力を使い、
狙いを定め…撃つ。
が、軽々しく防がれたそれは、逆に弾き返ってきた。
「やるね。」
「!立、退け。」
僕には、その声の主が、微笑んだ気がした。
「“崩壊”だ。」
「イービル・クライム!!」
遺跡を囲うほどの大きな黒い渦が、湧き出した。
建物や塔や、そういうのではなく、渦だ。竜巻だ。
凍結された箇所は全く動じず、内の黒いチャオは、黒く見えるチャオは、
白くなっていた。
「標的…体だけの分際で、生意気な。」
「おうおう、久し振りだな。ミドラウス。それに、こっちもか。」
「………あ…なたは…。」
そこにいたのは、小さいのにかなり強い、彼。
“崩壊”の呪文を発動した張本人。
「スペル!」
「えっと…誰ですか?」
「ははは…とりあえず、スペル、黒の奴らを追い返す。それから、だろ。」
僕の叔父が言う。スペルの主人が言う。僕とスペルは、頷いた。
「『完全なる天成』、それに力の持ち主までやって来てくれるとは。」
「ミドラウス、永久凍結されたくなけりゃ、退け。」
「出来るか?私はフェニックス並の炎の使い手だぞ。」
「やっぱなあ…。」
はあ、と溜息を付いた叔父さんは、スペルを見て、次いで僕を見た。
「スペル、お前はこっちの、こいつの指示に従え。」
「え?あ、はい!」
「シエル、行くぜ。」
「了解した。」
凍て付く様な、青い翼。
それを背に、僕の叔父さんは、飛んだ。
羽ばたいて、白いチャオの元まで。
「えっと…。」
「僕は、君の中にいたやつだよ。スペル、今、宝石はいくつ?」
「1つだけど…。」
「ここに4つあるんだ。早く戻ろう。時間が無いと思う。」
はっ、と気付いた様に、スペルは驚いた。
だが、主人を見捨てて逃げる訳には…という表情に、僕は感嘆した後、
「大丈夫。叔父さん…君の主人なら、きっと戻って来る。そう言ってたから。」
「君のオジサンなの?」
「そうだよ。今は、戻る方法を…そうだ、“崩壊”の呪文で出来ない?」
「無理だと…。」
「僕の家に行こう!きっと、何かあるはずだから。」
でも、さすがに歩いて行ったんじゃ間に合うはずがない。
だから、僕は提案した。
ワープなんていう便利な「魔法」は無いけど。
風で飛ばしてもらえば良い。
「大きな風。こっちの方向に。」
「分かった。ルーイン・デ・アーク・ミゼリアム…イービル・ストーム!」
風が、僕らを運んだ。