9 二部
二部―9…決勝…
「フラインド・セレモニー・クラッシュ・セコンド!」
カカッと、二陣を組むと、槍を中心にして緑の波動が飛び散った。
波動だ。まるっきり、波動である。
「二陣魔法で、何かを中心に風属性の力を巻く効能を発揮する…「魔法」だよ。」
そうですか。おそらくスペルは、余裕なのだろう。
だから、僕に説明している暇があるのだ。
やっとの事で、スペルは右手をすっと出し、唱え始める。
「フラインド・セレモニー・クラッシュ・セコンド。」
「はああっ!」
風属性の巻いた力は、逆回転のそれに巻き込まれ、相殺する。
慌てたフランスは、一歩退き、槍を構え直した。
「同じ「魔法」で来る…なるほど。」
「フラインド・セレモニー・クラッシュ・セコンド。」
両手を使い、片手ずつで同じ「魔法」を唱えたスペルは、
驚くフランスに微笑みかけると、両手を交差させた。
魔力の中心にフランスの「フローリング」を指定する。そして、
「ごめんね。」
放った。
風で運ばれるようにして、渦に優しく撫でられる様にして、
場外落ち。フランスの敗北だ。
「勝者ぁ!スペル=イフォーリア!!」
やはり、会場は沸いた。
「あんなんで、大丈夫だったかな。処置はしたつもりだけど…。」
大丈夫だったと思うよ。
控え室に戻る間、スペルは相手の心配ばかりしていた。
だが、その戻る間に、次の選手が前からやって来たのである。
「次の試合では、あれほどの加減をしたら、本気でお前を“消滅”させる。」
「え…えっと…。」
「デイクライム=ラザ=フィレアだ。決勝で待ってろ。」
やけに冷酷、そして冷静沈着な奴が、そう言った。
「ふう…。あれ?」
控え室にあったのは、一通の手紙。
スペル選手へ、と書かれた、一通の手紙。
それを手に取ったスペルは、中身を読み始めた。
「…パルアが…人質に取られた…って書いてある…。」
でも、さっきまで会場の応援席にいたと思う。
と、僕が言っても、スペルは聞かずに、控え室を飛び出した。
「次の試合まで、間に合わなくなるよ!」
「パルアを見捨てて、試合に出るなんて…出来ないよ!」
会場を走って出て行く彼は、手紙に書かれている場所に、急いでいた。
あまり遠くは無い。会場の裏の…古くなった工場跡地だ。
だけど、僕はそれより、これが罠ではないかと疑っていた。
「ここだよね?」
おそるおそる、工場跡地の中に、足を忍び込ませた。
「来たな、スペル=イフォーリア。」
「誰?パルアは?」
工場跡地には、穴だらけで密閉された空間では無いものの、声は響いた。
その声は、多分だけれども、チャオだろう…と、僕は予測した。
すたっという、着地する音がして、スペルは振り向いた。
「いない。元からお前を呼び出す罠。」
やっぱりだ…。
「だが、お前が来なかった場合は、奴らを誘拐するつもりだったが。」
「それで、僕に用があるの?何?」
「私は暗殺者…要するに、殺し屋というヤツでね。情報はシークレットなのだよ。」
確かに、それらしい風貌をしている。
黒いフード付きのマント。赤く光るような…眼光。
「僕を?」
「殺しに来た。大人しく身を投げれば良し、さもなくば…、」
「嫌だ。また戦うの?何で?戦って何の意味があるんだよ!」
彼は叫んだ。そうだ、彼は人一倍優しく、そして戦いは嫌いだった。
しかし、暗殺者は、さすがその道のプロ。動じずに答える。
「私はそれを生き甲斐としている。それに、戦わずならお前は死に急ぐだけだ。」
「戦うのが嫌だから…嫌だから、そんなもの、失くそうと思ってたんだ…なのに、何で!」
「スペル、危ない!」
僕は、とっさに叫んでいた。
その声は現実のものとなり、そういえばさっきも声が出ていたような気が…。
という考えている暇は無く、暗殺者から赤い何かが飛んで来た。
ところが、スペルはそれを呪文の一節も唱えず、軽く撥ね退ける。
「…さすがは。」
「ルーイン・デ・アーク・ミゼリアム…、」
「その「魔法」は知り尽くしているぞ!」
暗殺者はすっと移動して、スペルの背後に回った…。
が、炎の吹き出た攻撃は、スペルには通じず、呆気なくそれを避ける。
予想通り、といった様に、暗殺者は呪文を唱えた。
「フレイム・ヴォルグラ・ステイシアム!」
三陣魔法だった。だがしかし、スペルの呪文は、まだ続いている。
「ナイト・オン・イフリート・ミッドナイツ…、」
炎の塔…火柱は、どん、どん、と音を立てて、スペルを攻め込む。
しかし、全く通用していない。
今のスペルは、今までのスペルの〝相手を傷つけない〟感情を、全く抑えていた。
「グラン・ボルテクス・デスティニー・クロス!」
「フレイム・ヴォルグ―「ヘヴンズ・イービル・フォース!!」
随分と長い呪文の後、スペルの「魔法」は発動した。
ルーイン・デ・アーク・ミゼリアム・ナイト・オン・イフリート・ミッドナイツ・グラン・ボルテクス・デスティニー・クロス...ヘヴンズ・イービル・フォース。
僕には意味の無い文章の様に思えたが、それでも、
相手には効果覿面だった。
そして、戦闘は終わった。