8 一部
ついに始まるという、マジリアース・バトル・フィレンツィア。
会場は都市中心の大都市で、一番大きい会場である。
スペル=イフォーリアは、怪訝な面持ちをしているが、とりあえずは大丈夫だろう。
会場に立つ、9人…いや、9匹の選手。
たった今、その大会の幕が開かれる。
時刻は9:00ジャスト。
始まった。
『運命 の 十字架』
THE DESTINY CROSS
8…制限時間…
「さあ、始まりました、第三十五回!マジリアース・バトル・フィレンツィア!」
と、司会がいきり立って叫ぶ。
「司会はこの私、ランドビル=ナチスが努めます!」
と、司会のチャオは、席に座って、マイクで叫ぶ。
「まずは、出場選手の紹介です!!」
僕の視線から見れば、目の前にいるのは偉そうな人間なのだが。
上を見れば、多い…多すぎる。人間だらけ。
彼は意外にも緊張しているようだ。
「東「魔法」学校出身、パワー溢れる鬼のチャオ、赤にきらめく姿は…。」
省略させて頂くが、その合間に説明を行おう。
選手は課題を与えられ、クリアした4人のチャオが、決勝進出する。
つまり、課題の時点で9人中、5人は落とされる訳だ。
舞台は、そう。
電脳空間で行われる。
「「魔法」専門学院出身、クールな外見、そして黒の内に秘められた魔力!デイクライム=ラザ=フィレア!」
もうそろそろ、スペルの紹介の出番である。
彼は緊張はしているが、そもそも彼の魔力は大抵に措いて上回る。
何を、といわれれば、大抵の生徒を、というべきだろう。
だから、緊張する必要は無い。楽勝だ。
「同じく「魔法」専門学院出身、大人しい割合、その力はとんでもないぞ!スペル=イフォーリア!」
「ええっ!?」
という、パルアの驚いた声が聞こえたような気がした。
いや、実際驚いているはずだ。何せ、パルア=イフォーリア、苗字が同じなのだから。
レイユ=パーディソン、フリア=ダーメイトの学友も来ている。
一緒にいるはずで、説明を受けているだろう。何かしらの。
ルーン=クエイトはどこへいるのやら…。
「以上!出場選手の紹介は終わりです!」
「(やっと終わったね。早めに終わらせようか。)」
だね。それが良いと思う。
僕が返事を返すなり、スペルは課題に耳をこらす。
「出場選手には、課題を与えます!」
―電脳空間に散りばめられた5つの宝石、「マッドネス」を、集めて戻ってくる。
―戻って来る方法も探さねばならず、障害は存在し、途中で落とされない様に警戒する。
―残った4名で決勝トーナメントを行う。
「以上です。それでは、レディー?」
もう始まるのか。僕と彼は緊張を抑え、構える。
「ゴー!!」
会場は一気に、歪んで変わった。
隣にいたはずの仲間はいなく、どうやら電脳空間に移動―
―え?
手足が動く。僕の思い通りに。
首も動く。辺りは…一部屋だった。
しかもそこは、僕の部屋…そう、僕自身の部屋だった。
スペルの意識の中、では無く。
僕の体。僕の意識。僕の部屋。
「な…何で…?」
僕は…僕は…。
元に戻ってしまった。
「あら、おはよう。」
「母さん。今まで僕はどこにいた?」
「はい?」
明らかに僕の母親は訝しんでいる。
今まで僕はここにいなかったはずなんだ。
僕は行方不明では無かったか。
「いや?昨日もちゃんと学校に通っていたし…。」
「今日は休み?何曜日?」
「日曜だけど…。」
「ここはステーションスクエアであってるよね?」
「そうよ。どうかしたのかしら?」
「出かけてくる!」
母親の「止まれ」の合図にも、僕は耳を貸さず、家を飛び出した。
そこは、まるっきりスペルたちの街では無く、僕のいた街。
ステーションスクエアだった。
「どうなってるんだ…?」
人間たちの雑踏がやけにうっとうしく感じた。
確かに僕はいたはずだ。
マジリアース・バトル・フィレンツィア。電脳空間に移動。
それとも、あれは夢だったとか。ありえないと思う。
夢…だとしたら長すぎる。大体、妙な夢だ。
そこで、僕は幼い頃の経験を思い出した。
あれは、どうやって行ったんだっけ?
思い出せない。そこにはやっぱりチャオがいて。
僕の事を勇者と偶像視していて。
…ステーション・スクエア。
かつてソニックたちが大活躍した街。
パーフェクト・カオスと呼ばれる水の化け物が暴れた街。
僕の生まれた街。
育った街。
ダメだ、スペルたちは絶対にいた。夢じゃない。
勝手に僕の夢にするな。
こうなったのも、何か理由があるはずなんだ。
「魔法」…誰の「魔法」だ?どんな種類の?
パルア…異世界?
そうだ、パルアは別の…、違う世界のチャオだ。
こっちの世界…そう、世界が2つあると考えてはどうだろう。
パルアのいた世界と僕のいる世界は同様だ。
いやいや、待て。
この世界に、かなり不可思議な事は存在するが、「魔法」は無い。
だとすれば…。
「パルアの仲間たち…と対立していた組織…。」
確か、ケルビムの一味だっけ。
探そう。どこにあるかは分からない。けど。
「何もしないなんて事は出来ない。」
この時、僕は知らなかった。
ポケットに、銀色の宝石が入っている事に。
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