7 一部
僕の読んだ中でも、一番の面白さ、そして独特さを誇った小説があった。
それは、有名ではない。全くといっていいほどの無名だ。
でも、僕はその小説が大好きだった。ついにボロボロになって読めなくなった本なんて初めて見たくらいに。
なぜだろう。彼と一緒にいると、僕のしてきた全てが、「なぜ」と考えさせらる。
その中でもやはり、一番を誇る「なぜ」は、ここに僕がいる事。
つまり、僕がスペルと同じ、意識にいる事。
まさかそれが。
こんな「序盤」に分かるとは。
さすがの彼も、思いもしなかったけれど…。
『運命 の 十字架』
THE DESTINY CROSS
7…苦悩…
今朝の新聞一面は、「MBS特殊部隊!?」であった。
要すると、
「私たちの活躍が載ってるみたいだね。」
教室で、わずか一日、溶け込んでしまうまでかかった日数であるが、その「一輪の花」、頭に花の飾りをつける美少女、パルア=イフォーリア。
それを聞いて、たじろぐのは、スペル=イフォーリアである。
「レイユゥ、そんなに怒らなくても…。」
「いいえ!このあたしを差し置いて楽しそうに、しかも〝二人で〟何してたのよ!」
レイユ=パーディソン、スペルの学友であったりもするのだが、いかんせん、性格がアレであったりもする。
抽象的?余計なお世話である。
「スペル、お前も毎日大変だなぁ。」
「フリア!そんな事言ってないで助けてよー!」
もちろん、2−1は今日も平和に過ごせている。
マジリアース・バトル・セレンツィア。その開催日を明日に備えていても。
かの大会は、各選手、選手とはこの場合、各学年1名であるが、この学院では違う。
学院から合計3名選び、地区、学院を含め5校からなる地区で対戦、次いで優勝者には、優勝校当クラスへの、副賞が与えられる。
選手は課題を越え、課題を越えるのが速かった選手が優勝となる。
…と、説明を受けた。学院長がそういっていたのだ。間違いはあるまい。
「お兄ちゃん!」
放課後の事だ。
「こんにちは、ルーン。」
「大丈夫!?何とも無い?」
かなりの勢いをもった険相で言われたので、スペルは一瞬どきまぎとしたが、
それでも正しく返答する。おそらくは昨日の事だろうから。
「何とも無いよ。うん、大丈夫?」
「ス、スペル?そちらの可愛い子はどなた?」
「あ―…ルーン=クエイトです。それじゃあね、お兄ちゃん。」
「う…ん。またね。」
パルアを見るなり、最初の険相が嘘の様に消え去り、ルーンは背を向け、学院を後にした。
さらに首を傾げるスペルだったが、むろん、パルアも負けていなく、
二人して首を傾げるという異様な自体に陥った。ものの、救世主が現れた。
「スペルくーん?」
「ひょえわっ!?」
考え事をしているところへ突然のハイテンション。
リーリア=ベアルなる近所の方が、やって来た。通りの向こうから。
「ど、どなた…?」
「あらら、初めまして。リーリア=ベアルです。よろしくね。」
にっこりと微笑みかけられたので、今度はおどおどせずに、会釈するパルア。
さて、問題はこれからだ。
何せ、リーリア=ベアルなる近所の方は、かなりの「魔法」の使い手と知る。
スペルの記憶にあるから、であった。
だから、パルアの不思議な「魔法」に感づくか―と思いきや、
「じゃあねっ!また今度会いましょう!」
「ああ、うん。」
波瀾万丈、千客万来、と表現すべきだろうか。
「ふう…。」
「スペル?」
家に帰るなり、溜息をつくスペルを気遣い、パルアが確めた。
「え?え?あ、何?」
「どうしたの?今日のスペル、ちょっと変だよ?」
「あ、うん。…分かってるんだけど…。うん。」
しきりに頷くだけで、ちらりともその断片を見せない。
仕方ないとパルアは思い、それきり彼を気にかけておきながら放っておいた。
彼は、そういう性格なのだ。
「(僕の力じゃ、ほとんどの人も、守れない。)」
夜の睡眠時間、普段なら寝ているところを、スペルは考えていた。
何をか。昨日の出来事についてである。
パルアがいなかったら、正直、人質が無傷っていう事は無かったろう。
「(僕の力じゃ、あの人の夢をかなえられない。)」
思い悩む彼の表情は普段と変わりない。だが、明らかに何か違っている。
「(僕は―)」
ところで。
スペル=イフォーリア、彼の「魔法」の強力さは、見ての通りだが…。
実際のところ、彼の主人はかなり強かったらしい。
それはもう、スペルよりも遥かに。パルアよりも遥かに。
とてつもなく。強かったという。
だが、思い悩んだところでどうにもならない。
彼はそれを知っているのだった。