3 二部
二部―3…灰色の世界…
…暗い路地を、ただ1人、歩いている影があった。
スペルはもう眠りに着いた頃合いで、僕もそろそろ眠りに付こうかと目を閉じようとした瞬間、
まるで舞台が移ったように、この場所が見えたのだ。
…暗くても分かる。明るい雰囲気を、周りに出している様な、そのチャオ。
スペルの親友、フリア=ダーメイト当人だ。走っている。
もう、日が変わるというのに、一体何をしているのだろうか。
ストップウォッチのようなものを見てから、すぐさま歩いて、駆けてきた道を逆戻り。
それを何度か繰り返し、もう一度走り出そうとした時だった。
「よお、こんな時間で何やってんだ?」
「金持ちそうなチャオじゃねえか。」
「…誰だよ。俺はお前らなんて知らないね。」
「しかも生意気。」
予想だが、ここらの不良グループではあるまいか。
けらけらと笑う三人組は、フリアを一瞥する。
「人質に取ったら高く売れるな、こりゃ。」
「…近場のバカにんなこと言われちゃ、そろそろ俺も末期だろうぜ。」
「…増援を呼べ。」
ウォッチを上に放り投げて、相手の棍棒を軽く避けると、空中に陣を組んだ。
その回り込んだ勢いで、はたまた右側から相手の2人目が突撃。「魔法」発動失敗。
…多勢に、無勢。
「こいつ、白魔導師だぜ!」
空に投げたウォッチが、地面に落ちた。
ところで。
レイユとルーンから別れ、昼間だというのに帰宅したスペルは何をしていたかご存知だろうか。
読書である。
そこで、僕は不可思議なコトを知ってしまったのだ。
つまり。
「え?深夜にフリアが…え、何コレ!?」
これは現在だ。
今朝、目覚めたスペルは、初めてこの現実に気付いたみたいで、そう、つまりは。
「僕」と、記憶を共有し、更には意識をも通じ合えるようだ。
「こ、こっち!?」
左右を見渡して、道を確認すると、登校途中だというのに、スペルは寄り道をした。
いや―彼の考えている事は分かる。手に取るように、では無く、文字通り「頭に浮かぶ」。
辿り着いた場所には、深夜のままのフリアが、沢山の人間に囲まれていた。
「フリア!!」
「スペル…?来るな!危ねぇ―」
「まだ喋る余裕があるようだな。」
その中の1人―僕からすれば、空ではなく、スペルの目から見ているような感じであったが、それにしても、どす黒く、それでいてぎらついている目。
途端に浮かんだイメージは、僕とスペル分を合わせても、同じ答えしか出ない。
悪人。
「何してる!さっさと逃げろ!」
「面倒だ、そちらの小僧も同様にやってしまえ。我らの実力ならば、軽い。」
「”旱”の盗賊団を舐めてもらっちゃ、困るね。」
「三人衆まで呼び寄せられるなんて、本当に面倒なヤツだよ。」
無我夢中になって、スペルは前に足を踏み出した。走り出す。
まるで、自分が走っているみたいに。自分と言うのは、僕だ。
気が付けば、目の前の沢山の人間の大半は、壁に打ち付けられていた。無理もない。スペル=イフォーリアは「魔法」の腕前は天下一品なのだから。
そして、怒りの感情を露にした。
「こういうのは―卑怯って言うんだぞ!」
「おやおやぁ、とっても勇敢なんだね、ボク?」
「橋田。からかうのもいいが、コイツ、結構な腕だぜ。」
三人衆と見える、先の悪人の前に護衛する中の、唯一の女性が、スペルをたしなめた。橋田、という女性だろう。
それを静止したのが、男の、若い男だ。もう1人の男は年老いて見える。
悪人は―
「その通りだ。お前等、手加減は要らん。スペル=イフォーリアだ。」
「こんなヤツが?」
「じゃあ、手加減無しでいかせてもらうわぁ。」
「魔法」だろうか。
氷に見える、女性、橋田の右手から撃たれた物体は、スペルを一掃するかのように放たれた。
いや―正確に言えば、向かってきた。
とっさに避けるが、眼に見えて状況は不利だ。
「こっちだな、小僧!」
「スペル!!」
フリアが叫ぶ。スペルは―
「僕」の叫びに反応して、空に飛んだ。
足、透明な影の無い、空気がぼやけている何かに、スペルは乗っていた。
「(キミ―誰?どこから話しかけてるの?)」
スペルも気が付いたようだ。
―そうさ、スペル。今はそんな事を話し合っている場合じゃ、無いだろ?
「何かヤバイッスよ、お頭!」
スペルの目付きが変わる。悪人が構えを取る。
「フリア!何でもいいから避けて!」
「はあっ!?え、おい、ちょっ」
「おお、あの力は…何と言ったかのう。」
我武者羅に駆け出すフリアは、何とか「魔速」で、スペルの射程距離から離れた。
今から放つ「魔法」は、スペルが読書をした結晶といっても過言ではないだろう。
禁断の「魔法」でも、世界を吹き飛ばす「魔法」そのものすら存在しないが、彼の放つ「魔法」は確実に、地上の敵は力を失う。
三陣魔法。
「イービル・クライム!」
明らかに不意打ちだった。
陣を組んだその手から放つのだろうと予測していたためか。
地面から、渦巻く黒い光が、塔のごとく、段々と積み重なっていく、そして、建設中の建物のように高く。