3 一部
―ああ、これが運命というモノなのだろうか。―
新学期が始まって、早くも2日が過ぎた。いつも通り―の世界なのだが、さて、僕からしたらこれはどう見るべきであろうか。
日付けは生まれた時から愛用しているモノで相違無い。
しかし―
「魔法」とは、一体、何なのだろう。
…考えるのも面倒になって来る一番の原因は、恐らく、という予測も要らず、目の前のチャオにある。
そのチャオとは…。
「あんたねぇ…何回遅刻したら気が済むの!!」
『運命 の 十字架』
THE DESTINY CROSS
3…灰色の世界…
…状況を説明した方が分かりやすいと思うので、話して置く。
休日にルーン=クエイトなる、学校一とも云われる美少女と、公園前で待ち合わせていたスペルは、遅刻の無くして、待ち合わせ場所に到着した。
遠巻きからだと、ルーンしか見えない。その見えない場所にいたのが、この、
「遅刻よ遅刻!重罪の上から三番目に値するわ!」
厚かましい扱いを、主に男子層(特にスペル)へと向ける学校一の凶暴女。
レイユ=パーディソン。
「ルーン、何でレイユが…?」
「えっと、実はね、」
「そんな事はどうでも良い!さっさとどっか入って、調べるんでしょ!」
行動が早い。スペルはそんなレイユに振り回されるのだが。
いつまで経っても説明が無さそうなので、先に断っておく。
…レイユは、面倒事が大好きなのだ。
近場の喫茶店に入るなり、スペルは飲み物を注文した。せっせとウェイトレスが承る。
傍目から見れば、両手に花状態だろうが、何にせよ無理がある。
「んじゃあ、早速見せてね、ルーンちゃん。」
「は、はいっ!」
何をそんなに張り切っているのか。スペルには分からない様で、頭上のそれ…フローリングが、疑問符に変化している。
ビニール袋とは遠く掛け離れた、お洒落なポーチから取り出したのは、チャオの手には余る、本だった。
「説明するね。」
「うん。その前に…えーと…レイユ?席を外―」
「却下。」
どうやらスペルの言う事は耳に入らないらしい。いや、既に周知の事実か。
「うんと、スペルお兄ちゃんを狙っていた組織は…黒魔導師の組織だと思うの。かなり大昔からある…名前までは分からないけど…。」
「確か、黒魔導師だったよ。それも、”長”だったから…組織だね。」
確認するように促して、更に頷いて見せ、ルーンは続けた。
「『運命の十字架』を捜して…人間の滅亡を目論む集団。」
「何その、ナントカの十字架って?」
「強力なエネルギーを秘めてる魔具みたいなもの。」
フォローに入ったルーンの頭の良さを褒める余裕も、スペルには失われていた。
ところで、組織の名前をスペルは忘れてしまったのだろうか。何か言っていたような気がした。
「でね、構成は分からないけど、その組織はとても大きい。権力も持っているそうなの。」
「じゃあ、国と繋がってる可能性が高いわね。案外、”長”っての、国王かも。」
「でもね、黒魔導師側の組織に対立して、十字架を破壊しようとしている組織もあるの。それが、」
「白魔導師の組織?」
頷くルーンだったが、予測出来ない訳では無かった。昔からそうだったから。
何がそうだったかと言うと、黒魔導師と白魔導師は、昔から対立している。
国が白魔導師を尊重しているのだから、黒魔導師は居ない…という訳でもない。
言い換えれば、犬猿の仲、というヤツだ。
「過去の一例を参考にすると…。」
ぱらぱらーっとページを捲って、
「一般民のすぐ近くに存在しているケースが多い、って書かれてる。」
「へぇ…。そうねぇ、捜し物をするなら森の中だし?」
それは違うような気がするけども。
なぜか納得しているスペル。これで何か分かったのだろうか。
「…組織は国に殲滅させられたらしいんだけ「最近になって蘇ったって訳ね。」
自分の意見を通すところはレイユらしい。
しばらくの間、時間が止まっていたようだった。ウェイトレスが飲み物を持って来たときも、ただひたすらに考えているだけだ。
―ったのだが、僕には、スペルが何を考えているのか、分かった。
亡き主人が、この復活した組織に関連しているのでは―そう考えているのだ。
「あのさ、黒魔導師の組織、とかじゃ長いじゃん?何か呼称作らない?」
「『黒側』と『白側』?」
「じゃあ決定で。学院のみんなにも分からないだろうしね。それなら。」
提案したのはスペルで、決定したのはレイユだ。
かくして、レイユに最大の決定権がありそうだが、ここは置いておく。
『黒側』と『白側』に決定した。正式な名前は何だっけ。
…既に時刻は昼間を回ったようだ。考えたり喋ったりしているだけで、時は過ぎる。
今朝に見た青の光も、気が付けばどこかへ消えてしまっていた。
気が付けば、の話で、スペルは気が付かない。そういうヤツなのだ。
「んじゃあ、また明日ね!ちゃぁんと遅刻しないように来るのよ!いいわね!」
「してないんだけどなぁ…。」
「じゃあね、お兄ちゃん。」
「うん。またね。」
二部へ