2 二部

二部―2…追跡と警告…

 「イフォーリア、また遅刻か。」
 「いえ、「不審者」に襲われてたので…。」
 「はぁ!?」

騒々しくなった教室の前半部分で、人間である教師に事情を説明しているスペルは、どことなく爽快な表情であった。
なるほど…と、何に納得したのか教師は、スペルを席に戻るよう指示すると、自習と黒板に弄り書き。
そのまま、教室を飛び出して、どこかに行ってしまったのを都合よく考え、スペルは自席に座った。

 「スペル?!」
 「あぁ、レイユ。おはよう。あ、もうこんにちはだね。」
 「ああ、そうだけど…何があったのよ?」
 「俺も聞きてぇな。」
 「俺も俺も!」
 「別に…たいした話じゃ無いよ?」


…可愛げな表情を歪ませて、企むような笑みを見せたスペルは、囲んでいる2匹に向かって目配せをする。
なにやら、本当に「不審者」らしい言動と態度に、少しながらも恐怖を覚えている自分に恥じながら、目配せを終えた。

 「君達は…黒魔導師?」
 「そうだが。何か問題でも?」
 「いや、僕は白魔導師だから、一応。君たち、何で僕を狙うの?」
 「ふん…教えられんな。」

その言葉を聞くなり、不審者から興味を外したようにして、彼はそっと歩き出す。
学院の方向へ明らかに向いているその目線は、不審者に対して、軽蔑しているようでもあった。
そんな表情のト書きを、不審者も感じたのだろう、

 「生意気にも抗うか、ガキめ。」
 「僕はガキじゃ無い。君たちの方がガキじゃあないかな。こんな幼い子供に、2人で掛からないと勝てないなんて。」
 「あんだと、てめぇ!?」
 「落ち着け…。どうやら、問答は出来ぬらしい。力付くで、奪命だ。」

しかしながら、スペルは微動打にしなかった。それどころか、挑戦する目付きを見せている。
これには、不審者組、腑に落ちなかった。
「魔法」専門学院生徒、4年生ともあろうものならば、警戒するのは必然と言える。しかし、高々2年生。そう警戒は必要無く思われ、”長”もそう思ったから2匹しか付けなかったに相違あるまい。
その2年生が―「挑戦」、だ。黒魔導師は、元より強き「力」を、白魔導師よりも持ち合わせている。
―「白書」に則り、「魔法」を行使する白魔導師と対照的な黒魔導師の司るは「力」の法―
それが2匹もいて、相手は1匹。なおかつ相手は子供。警戒する事はない。僕でさえ、今まで見てこなかったらそう思ったところだ。
…今まで見てこなかったら。

 「本当はケンカしたくないんだけどなぁ…。」
 「かかれ!」

と、咄嗟にスペルは右手を前に突き出して、五芒星を描くようにすると、左手をその中心部へと殴りつけた。
…そう、「魔法」だ。「魔法」の発動は陣に魔力を込めて、解き放つ事によって発動される。
この場合、2年生だからして、スペルの使用できる「魔法」の種類はそう多くない。が、あの家にある書斎…本の数から言って、読書好きなスペルの性格を計算に入れれば…。

―黒魔導師2匹くらい、丁度良いハンデと確定出きるだろう。

かくしてスペルは、余裕の笑みで黒魔導師を縛り付け、学院にやって来たと言う。


 「へぇ…ケンカ嫌いのあんたがねぇ…。」
 「すごいんじゃねぇか、それ。もしかしたらお礼状とかもらえるかもよ!」
 「貰えないと思うけどなぁ…。」

という経緯で現時点へ戻る訳である。
それにしても…と、フリアが話題を切り替えた所で、鐘が響いた。

 「(…あれ…。でも…結局、何で僕を狙ってたのかな…。)」

疑問が頭を駆け巡っていたが、その事実は未だ先にある。


 「…それでさぁ…。」

レイユの厳つい口調がスペルの聴覚に突然入って来たので、驚いた彼はぴょんと飛び跳ねた。
呆然と彼を見るレイユは、「何やってんだコイツ」みたいな目でスペルを見る。

 「な、な、…どうしたの、レイユ?」
 「それで、あの黒魔導師は何を気にしてたのかってこと!」
 「え、いや、何でもないんじゃん?無差別かも。」
 「それは無いでしょうよ。あんたが元から狙われてたんだから。」

既にそんな事を話す時刻は放課後に回っていたので、彼は愚か、フリアだって、僕だってその話をぶり返すとは思っても見なかった。
彼女は元より家柄が良いせいだろうか。それとも、人間と近く触れ合っているからだろうか、疑り深い。
なので、スペルが「何でも無い」と言おうにも、見抜けてしまう。
もちろん、彼女を含めるクラスメイト達には、告げてない事がある。

『運命の十字架』だ。

書物の中では数々の場面で伝説化され、手に入れた者は神の如し力と、運命をも変える意思を手に入れる事が出きる。
その十字架を、奴らは狙っていた。その奴らとは、「黒魔導師」の組織と思われる団体の事だ。

 「怪しいわね…。彼ら、あんたの持つ”何か”を狙ってるのかしら…。」
 「ぼ、僕?僕何も持ってないよ。」
 「だろうね。こんなボケてるし。」

何一つ嘘なんて付いていないが、真実を告げていないことから、スペルはどこか罪悪感を感じていた。

三部へ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第231号
ページ番号
4 / 19
この作品について
タイトル
運命の十字架
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第230号
最終掲載
週刊チャオ第256号
連載期間
約6ヵ月2日