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…
園長室で本を読んでいた園長先生は、驚きました。
部屋の外が騒がしくなったと思ったら、いきなり、
バン!
と乱暴にドアを開け、息を切らしたチャオが入ってきたのですから。
「先生、大変チャオ~!」
「どうしました?」
チャオは、必死に何かを説明しようとしていますが、呼吸が乱れて上手く喋るコトが出来ません。
園長先生は、とにかくまずは落ち着くようにと、深呼吸を促しました。
チャオの背中をさすって、チャオの呼吸が落ち着くまで待っていた園長先生ですが、一つ怪訝に思うことがありました。
「(これは……)」
ついこの間まで、この子には小動物のパーツは無かった筈です。それに…
「(それに、このパーツは…)」
園長先生は、はてなマークを3つも4つも浮かべたい気持ちでしたが、それらはひとまず置いておくコトにしました。
今考えなくても、すぐにこの子から事情が聞けるでしょう。
ようやく落ち着いた呼吸を取り戻したチャオは、部屋に入ってきた時と同じぐらい大きな声で叫びました。
「ユー君がいなくなっちゃったチャオ~!」
…
チャオは全部話しました。
数日前にユニコーンと出会い、過ごし、そのユニコーンが突然消えてしまったコト。
「せんせい、ユー君はどこにいっちゃったチャオ~」
チャオはもう泣き出す寸前です。
園長先生は数秒考え、言うべき言葉を見つけ、そして言いました。
「ユニコーンはあなたの中にいますよ」
その言葉の意味を汲み取ろうとしているチャオの前に園長先生は、チャオの体が全部写る大きな鏡を置きました。
チャオは、自分の姿を見て呆気にとられているようでした。
「あれ…これ…」
「あなたは、ユニコーンをキャプチャーしたのです」
園長先生はそう言って、鏡をどけました。
そして、まだよく理解できていないチャオの目を見据えて、言いました。
「あなたはユニコーンを体の中に取り込み、ユニコーンの力を手に入れたのです。ほら、このたてがみなんて、そっくりでしょう」
園長先生は、チャオの頭に生えた立派なたてがみを、ふわふわと手で撫でました。
「そうチャオか…。で、でも先生!ユー君はどこに行っちゃったチャオ!?」
「…ユニコーンは、あなたの一部となったのです――残念ですが、もう戻っては来ません」
金槌で頭を殴られたような衝撃が、チャオを襲いました。
ユニコーンは、もう戻ってはこない。もう会えないのです。
その現実を突きつけられた瞬間、チャオはわんわん泣き始めました。そして、さらに悪いことを考え始めます。
「そんな…それじゃユー君は…僕のせいで…」
「それは違います」
全てを言う前に、園長先生がいいました。
いつもと変わらない優しい声色でしたが、そこに込められた想いは、とても、とても強いものでした。
「あなたのせいではありませんよ。小動物は元々体が弱く、長くは生きられません。――ユニコーンはきっと、あなたとともにいるコトを望んだのでしょう」
「え…」
「ユニコーンは、自分の死期を悟っていたのでしょう。だからユニコーンは、一人で死ぬコトより、あなたとともにいるコトを望み、選んだ」
「…いっしょに、いる?」
「そう。ユニコーンは、あなたの中に。常に、あなたとともにある」
チャオは、涙をぽろぽろこぼしながら、自分の胸に手を当て、呟きました。
「ユー君と…いっしょに…」
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