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その日の夜。
真っ暗で、何も見えない、暗く冷たい闇の中で、チャオは泣いていました。
ぺたんと座り込み、うつむいています、
自分の手で、頭の上のたてがみに触れてみます。
『ユー君…』
鼻をすすりながら、涙をぬぐいながら、チャオは友達の名前を呟きます。
もう会えない友達の名前を呟きます。
――泣かないでおくれ。
声が聞こえました。
聞き覚えのある声です。一番、聞きたかった声です。
『ユー君!』
チャオは立ち上がり、周りを見渡します。
見つけたかった姿は、見つけられませんでした。
『ユー君、どこにいるチャオ?』
――ここだよ。ボクは、君の中に。
どこからともなく、声は聞こえてきます。
ただ聞こえるのではない、心に直接響くような、不思議な声です。
チャオは、園長先生の言葉を思い出しました。
ユニコーンは、ボクの、中に。
――急にいなくなって、ごめんよ。でもボクは、いずれいなくなる運命だったんだ。あのままだと僕は、一人ぼっちで、寂しく消えちゃう所だったんだ。
『チャオ…』
――でも、キミが。キミがいてくれた。キミはボクに名前をつけてくれた。キミは、ボクを必要としてくれた。ボクはキミに、とっても感謝してるんだ。ありがとう。
『チャオ…どういたしましてチャオ』
――あははっ。――最後に、ボクの頼みを聞いてくれないか』
『チャオ。なにチャオ?』
――ボクは、走るのが大好きだ。でも、もうボク一人じゃ走れない。だから、キミに、ボクの分まで走って欲しいんだ。ボクの分まで、いろんなコトを見て欲しいんだ、聞いて欲しいんだ。ボクの分まで、ずっと生きて欲しいんだ』
『チャオ…。わかったチャオ、約束するチャオ!ユー君の分まで、いっぱい、いっぱい走るチャオ!」』
チャオの言葉はとても力強く、そのの目は未来と希望に溢れている。ユニコーンは、そう感じました。
ユニコーンはきらきら輝くその瞳を見て、とても安心しました。
ー―ありがとう。約束だよ。
『チャオ!約束チャオ!………えと』
それまでの、決意に溢れた笑顔を急に崩し、チャオは悲しそうな目をしました。
訊いてはいけないのかもしれない。訊いてもしょうがないのかもしれない。――聞いても結果は変わらない。
『もう、会えないチャオ?』
それでも、訊かずにはいられませんでした。
――大丈夫だよ。
『チャオ?』
――僕は、ずっとキミの中にいる。ずっとキミを見てるんだ。ずっと、ずっと一緒だよ。だから――
――だからもう、泣かないで――
…
…
チャオは、目が覚めました。――泣きながら起きたのは、初めてでした。
頭を触ってみます。そこには、立派なたてがみがあります。
チャオは、短かった、友達と過ごした日々を思い出します。
そして、元気よく駆けていきました。立ち止まっている暇はありません。コレからいっぱい、いっぱい走らなければならないのです。
ユー君はいつも、チャオのコトを見守っているのですから。
…
…
チャオは、毎日毎日チャオレースに参加します。
立派なたてがみを風になびかせ、毎日毎日、走り続けます。