【初日・前半】
お約束事は前頁を見てください。URL?それはいずれという事で。
それでは、どうぞ。
彰があの無料お試しキャンペーンを応募してから数週間後・・・。
いつもより早く戻り、彰はまたインターネットを起動していた。
「宅配便でぇーす!ハンコお願いしますーっ!」
大きく威勢のいい声が玄関に響く。彰は急いで玄関へ走っていった。
はんこを押し、宅配員は何事も無かったかのように帰っていた。
階段を上る途中、彰はダンボールのラベルを確認した。
送り主の住所も名前も無く、ただ其処には「水谷 彰様への無料キャンペーン」と書いてあるだけだ。
箱のラベルには【天地無用・ワレモノ・ナマモノ】と書いてある。
「エイリアンじゃねーよな・・・。」
苦笑いをしながら、重いダンボールを自分の部屋へ置いた。
彰は慎重にダンボールのガムテープを切り、中に入っているものを持ち上げた。
それは何と・・・。白色のつやつやしたタマゴだったのだ。
「うわ、なんじゃこりゃ!」
あのラベルにどうしてあんなに注意が書かれていたかをだと彰が理解した。
その条件が合うもの、それはダチョウの卵ぐらいの大きさはある水色の卵だったのだ。
タマゴを慎重に置き、中の説明書のようなものをぺらぺらとめくった。
゛無料キャンペーンをお試しいただき、有難う御座います!
一瞬驚いた人も居るでしょう。そう、幸せにするのは生き物なのです。
その生き物の説明は置いて、先ず一番注意すべき事をご説明します。
お試し期間とあって、この生物は【2週間まで】です。ご注意ください!
他は特にありません、犬を可愛がるのと同じく、愛情込めて育ててください。"
目次はこれだけだった。彰は次のページをめくった。
゛さて、肝心な生物についてのご説明をします。
この生物は日本政府の許可を頂いたお墨付きの生物です。
Call(呼ぶ)Hapiness(幸せ)All(あらゆる) Objext(物体)・・・あらゆる幸せを呼ぶ物体。
略してCHAO、【チャオ】と呼びます。
先ずはタマゴから孵化させましょう。説明書を読んでそろそろ。
その後は名前をつけ、中に入っている餌を上げてください。
次の日はさらに1ページ読んでくださいね。"
彰が振り向いた瞬間、ピキッとタマゴに皹が入った。次第にひびは大きくなり、タマゴは真っ二つに割れた。
其処から出てきたもの・・・。水色のプルプルしたゼリーのような全身。
クリクリとした目、チャーミングポイントの尖った小さい角。その上に浮く黄色く丸い球・・・。
「うわ、って・・・。可愛いなー、お前!」
あまりの可愛さにチャオを頭をスリスリと撫でた。嬉しいからだろうか、黄色い球はピンク色のハートへ変わった。
撫でた後、チャオは部屋の周りをハイハイで歩き始めた。じっくり観察しているようだ。
「これがチャオ・・・。政府のお墨付きって、一体日本もどんな研究しているんだよ・・・。」
国土交通省や内閣府があるが、生物開発省何ていうのは何処にも無い。機密に研究が進んでいたのだろう。
「・・・名前はどうしよう・・・。」
餌上げやトイレの掃除よりも初めに飼い主が悩むもの。それは名前だった。
一生を決める名前であって、ふざけた名前では罰が当たるだろう。
「ロビン、チャタロウ、ラフィン・・・。ダメだ、どう考えてもいいものが・・・。」
そのとき、何故かは知らないが彰はカレンダーを見た。
英語で書かれている曜日の中の「Friday」に目をつけた。
「そうだ、フライって言うのはどうだろう。揚げ物みたいだけど、これでいいかな。」
ハイハイをしていたチャオが彰を見つめた。
考え事をしていたのが不思議に見えたのだろうか。球は?マークへ変わっていた。
「よし、お前の名前はフライだ!」
「チャオ!」
人間が言う「はい!」と言ったのだろう。フライは小さい手を天井に上げた。
外は夕暮れ。あっという間に一日が終わろうとしていた。
フライにも餌を上げ、すやすやと寝始めた頃・・・。彰は机の前で考え事をしていた。
(本当に、このチャオが家庭を幸せにしてくれるのかな・・・。)
確かに、可愛いだけの生物かもしれない。
しかし、あの説明書の文がどうしても離れなかった。
(”あらゆる幸せを呼ぶ物体 ”か・・・。個人の幸せだけじゃないと良いんだけどな。)
窓の外では近所の子供が、楽しく父親と遊んでいるのが外から見えた。
彰が父親と遊んだのは数年前に遡る。
丁度、プールで遊んだのが最後だった筈だろう。それを期に、家庭は崩れ始めていったのだ。
不況によるリストラから、音を立てながら崩れ去っていったのだ。
再就職の道を見つけたものの、以前とは違い肉体労働が多かったのだ。
肉体労働のストレスからだろうか。次第に父親は母親・彰に八つ当たりをはじめたのだ。
(後半に続く)