【初日・後半】
今日は父親が帰るのが遅い事もあり、喧嘩は夜遅くに始まった。
”ドン ”と壁が揺れ、部屋にあったコーヒーの水面も揺れた。
「深夜なら早く終わりそうだな・・・。」
彰は机に向かい宿題を片付けていた。フライは何も考えず床でごろごろと転がっている。
「そう言えば、母さんと父さんに飼った事言ってなかったな・・・。」
多少言いづらい気分も合ったが、覚悟を決めて階段をゆっくり降りる。
丁度リビングの所では両親の口喧嘩が続行中だった。
ドアの閉じる音に気付き、両親がじろっと彰を見た。
「何時まで起きているのよ!早く寝なさい!」
喧嘩の最中と言う事もあり、母親のイライラした声が彰に突き刺さる。
父親は邪魔だと言うかのようにじろっと彰を睨む。
「あ、あのさ・・・。実はね。ちょっとペットを飼ったりしたんだよね・・・。」
しばらくの間沈黙が続く。ずいぶん時間が過ぎた後、父親が急に切り出した。
「で・・・、それは許しを貰ってか?」
(し、しまった・・・。)
彰の背中に冷たいものが流れるのを感じた。「どうなんだ」と言いながら父親が近づいて来る。
「で・・・どうなんだよ!」
近くにあったテーブルに父親は拳をぶつける。この状況ではまるで刑事が容疑者を脅すようだった。
「も、貰ってません・・・。」
「そうか・・・。」
父親はそこまで言うと無言になった。
(助かった・・・。)
そう思った次の瞬間、父親の右手が彰のほおを思いっきり叩いた。
リビングの中で叩く音が響く。母親はその光景を唖然と見ているだけだった。
「ふざけてんじゃねぇ!さっさとペット屋に戻して来い!」
「・・・、結局は八つ当たりじゃねーかよ!ふざけんな!」
彰が我慢するのも限界に達したのだろう。
父親にそう言うと彰は怒った様子で階段を上り、一目散に部屋に入った。
リビングでは、あんな事を言われると思わなかった父親と、ただ呆然と見ていた母親が立っているだけだった・・・。
叩かれたほおの部分は赤く腫れ、目からは涙が流れていた。
「何で俺がこうなんなきゃ行けないんだよ・・・!」
そう言うと、彰は力任せに机に掛けてある写真立てを殴った。
パリン、と写真立てのガラスが割れ、写真にも傷がついた。
その写真は仲が良かった頃の両親の写真だった。その真ん中には幼い彰が居る。
傷は偶然にも彰を半分にして縦に付いていた。まるで、バットエンドを記すかのように。
「・・・どして、泣いているチャオか?」
会話に慣れていないのだろう。彰の後ろに居たフライが話し掛ける。
「家族の関係さ・・・。フライ、本当に君は家族を幸せにしてくれるのかい?」
泣きぐしゃり、手で涙を拭きながら彰はフライにそう言った。
フライは彰に近づき、座っている彰に寄った。
「もちろんチャオ。僕に幸せに出来ないものは無いチャオ!」
そう言うと、フライは彰の腕にほおをくっ付け、スリスリと撫で付けた。
(本当に、幸せは来るのか・・・?)
彰は半信半疑だったが、フライの笑顔を見るうちに、段々と信じ始めていった。
今は深夜。不貞寝のように彰は部屋の床で寝ていた・・・。