第6章 とてもとっても長い一日 7
ミディ「何か騒がしいよな・・・?」
パラディ「何だろうね?」
どうやら豪邸前で使用人と誰かが会話しているようだ。といってもその光景は会話というよりただ訪問者の一方的に話しかけているだけである事を理解する。
「せやからめっちゃお買い得でっせ!」
「いえ、結構です」
「あんさんみたいな大金持ちにはコレ必須でっしゃろ!」
「先ほどから何度も申し上げている様に・・・」
「初めは皆そんなモンや!せやけど次第にやなぁ順応するって!」
「弱りましたねぇ・・・」
この家の使用人がそう簡単に会話で押される様な事はなさそうだが、正直しんどそうだ。
パラディ「どうしたんですか?」
「おかえりなさいませ!おぼっちゃま!」
おぼっちゃま・・・明らかにお金持ちの家の子にしか使わないこの言葉 訪問者はこれを聞くや一瞬、目が妖しく光る。直後使用人は自分の失言に後悔した。
訪問者の標的が使用人からおぼっちゃまへと変わったのだ。
「どうですか おぼっちゃん?これこそお買い得ゆーものや!」
パラディ「え?え?」
「これ一つあればどんな計算もちょちょいのちょい!めっちゃ便利でもう二度と手放せへん!東洋から仕入れた計算器具の【ソロバン】どうでっしゃろ?」
パラディ「いや、僕は・・・」
「そないなこと言うて~欲しそうな目ぇしてまっせ!」
パラディ「ぁの・・・」
ミディ「わかった!俺が買う買う!」
この言葉でようやく一連のマシンガントークが収まった、それにしてもこの周囲の静まり様には驚くものがあるよ・・・最早長々と聞いていられる程余裕はなかっただろう。俺もパラディも・・・。
「えらいおおきに!」
なけなしのお金を払いどうにかこの騒動を治めることができた。
予想外の出費ではあったものの毎回タダで食料を分けてもらいに来ている事を考えればこれも当然の報いかな・・・。帰りに手にしていたのは商人から買ったソロバンとリアカーに積んだ食料と・・・
「本当にありがとうございますミディさん おかげで助かりました」
ミディ「へへっ」
食料と・・・信頼だろうか?
帰路も俺とパラディ二人の会話の間中も頭の中ではこの事が頭に離れなかった。
そして思い出す度に励まされている気がしていた、重たいリアカーも少しだけ軽くなっているような気がした。
【自宅】
夕焼けを追いかけるようにゆっくりと歩を進めていた俺達は家へとたどり着いた。
これだけの食料があれば相当豪華な夕食を振舞える そう思うと作り手である俺の気分も上がってくる物だ。
ミディ&パラディ「ただい・・・・!?」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だった。
家の中一面に散らかっていたのは真っ赤に染まった羽。
まるで殺人現場の様・・・いつも見慣れたはずの家が不気味に映っていた。
パラディ「な・・・何なの?!」
サムライ「完全に敵の標的となった という事だ。」
リンネ「赤い羽・・・里でも見かけました・・・・」
サムライ「赤い羽は奴らの証、標的を血にまみれた肉片に変えるための予告・・・やり口は変わらないな・・・」
ニァ「やばいニャ~」
シェア「こんなのって・・・こんな事って・・・」
レア「どうしよう・・・?お兄ちゃん・・・」
初めて俺達の敵が牙を剥いた。
赤い羽は奴らの証、標的を血にまみれた肉片に変えるための予告・・・
やり場の無いこの恐怖を共に過ごす事で何とかごまかそうとした。
少しでも一緒に・・・少しでも明るく・・・
楽しく迎えるはずだった食事の時間もこの重苦しい雰囲気が変わることはなかった。
ミディ「ふぅ・・・」
いざ寝ようと思えない、訓練もきつかったし正直精神的にかなりまいってる。
しかし寝首をかかれるという事が頭から離れない。
・・・少し外へ行こう。