第6章  とてもとっても長い一日 2

空は何故こんなにも晴れ渡っているのだろう・・・
雲一つ見つからない空、自宅の庭でくすぶっておくには勿体無い。
そう勿体無い、勿体無いというのに・・・


サムライ「よそ見をするな!」
最初に声、続いて衝撃が俺を襲う。耐えられずに握っている武器から手を離してしまう。
ただ単にしたかっただけなのか、戒めなのか、腹に強烈な蹴りを喰らい自身の武器と同じ様に宙を舞う。そして芝の一部が禿げて出来たむきだしの土の上に倒れこんだ。
土は固く衝撃が全身に響くが痺れる程度でそこまで痛くはなかった。

地面に仰向けに倒れこんだまま、空を眺める。
変わらぬ青空・・・いや遠くから真っ白な雲が一つふらふらと流れてきていた。
あの雲に乗って遠くまで飛んで行きたい。王都とか華やかな場所に赴くには絶好の天気。
だが、あいにくそんな予定はないのが現実。
苦笑いをしつつも体勢を立て直そうと身体を起こす。

サムライ「・・・随分とゆっくりだがいいのか?」
目の前に突きつけられたサムライのカタナ。
脅しの為に突きつけたのか・・・と思ったのもつかの間。
躊躇なくその剣を俺の身体に振り下ろそうとする。

ミディ「ちょ・・・ちょっとタンマタンマ!」

パラディ「ミディ!」
間一髪パラディの盾が庇ってくれた。
体勢を立て直している俺の前で激しい斬り合いが繰り広げられる。
片手剣と盾を扱うパラディに対してあのサムライはカタナ一本で防ぎ、攻撃する。
一見互角の様に見え、いい勝負を繰り広げている様に思えるのだが、気迫等の精神的な面も混ぜこぜにして比較しても
・・・・力の差は歴然。

パラディ「うわ?!」
圧倒的だ・・・・!

ミディ「今度こそ!」

サムライ「来い」
全身に喝を入れてまたサムライとの激しい斬り合いに持ち込む。
今までなら精々相手の太刀を五回位受け止めるだけで精一杯だったが、始めてから二時間はゆうに経って少しは目も慣れてきて身体も追いつく様になってきた。
五回、六回・・・七回、次は・・・
七回目の攻撃に耐えきると、サムライのカタナと俺との間にわずかながら距離が開いた。
―突きが来る!
瞬時に身体をカタナの軌道から外し超接近戦へと持ち込む。
―今だ!
この時の為に温存しておいた力を全て出し尽くす様に手持ちの剣を右に左に斜めに上にと振り回す。時折聞こえる剣と剣がぶつかり合う際の衝撃音、それが俺の心と身体を更に奮い立たせてくれる。
―右の腰が隙だらけ!

ミディ「そこだ!」
今まで以上に力を込めて剣を振るった。狙うは胴を横に真っ二つに斬る軌道(コース)。
これで止めと思い気が緩んだ瞬間だった。

ミディ「・・・っっいってぇ!」
やられた 激痛と同時にわかる苦い結果。腰を真っ二つに斬るという俺の軌道より更に上に位置する首を狙ってカタナを振るったと気づ

く・・・とはいっても気づいたとは首にみねうちを喰らいその威力を充分に噛み締め終えてからの事だが。

ミディ「はぁ・・・はぁ・・・・疲・・れた・・・」

パラディ「もう・・・三時間は経ったよ・・・・」

サムライ「この程度か?」

ミディ「・・・・うるさい」

パラディ「くやしいけど・・・かなわないや・・・」
この言葉を聞いてようやくカタナを鞘に収めてくれる。それと同時に救急隊が駆けつけてくれた。

ニァ「また派手に遣らかしたもんニャ 後ハイ」

サムライ「すまんな・・・」
と水を運んできてくれたニァ。カラカラに乾ききった喉を何杯も飲んで潤わせる。

レア「もうお昼時なのにね~って事でこれが前菜♪」

パラディ「甘い前菜だね」
次にレアは飴玉をくれた。やや解けかけだがそんなの気にならないほど甘かった。

シェア「二人掛かりでもコテンパンね。」

ミディ「じゃあお前戦え」

シェア「あたしそっちは専門じゃないから さっさと手ぇ出して」
と救急箱から消毒薬、ガーゼ、包帯をとりだして処置してくれるシェア。
ありがたいのはありがたいけど・・・ちょっと不器用だな・・・。
傷もガーゼからはみでてるし・・・でも下手ともいえないし・・・・。

リンネ「シェアさん私がやります」
そういって半ば強引にシェアを俺の前から引き離すと手持ちの魔法石に魔力を注いだ。
その直後光が俺達を包みだす。その光は目を傷めるような刺々しい光ではなく柔らかい光だった。
まるで母親の胸の中で抱かれているような・・・そんな光だった。
そしてその光が消え去った時、傷は完治していた。

パラディ「うっわ~すごいよ!」

ミディ「便利な魔法だな」
とまるで神が行う奇跡のような魔法に感嘆の声を上げる二人。
周囲もその魔法に対する全員が各々の感想を述べていた・・・と思っていた。
実はただ一人、その光景に対して嫉妬している奴がいる。
気づくにはそう時間は要らなかった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第302号
ページ番号
47 / 63
この作品について
タイトル
剣と石と・・・
作者
キナコ
初回掲載
週刊チャオ第281号
最終掲載
週刊チャオ第313号
連載期間
約7ヵ月13日