第五章 おサムライにはご用心!?3

ミディ「あれこれ言ってくれた割には助けが要るようだな」

この状況・・・決して楽観できるわけではない。
土地勘に詳しい自分ならこの場をやり過ごす事もできるけど、この二人はそうもいかないだろうし・・・

「・・・・別に刃を振るう気が無いならそこで突っ立っていろ、微塵に変えてやる」
不吉な毒舌が返ってくる。
一瞬でもいい奴と思った俺が馬鹿だった・・・
冗談で済まないから・・・やめてください。
刃を突きつけないで。

リンネ「危な・・・」
この状況も読めずに一人突撃してきた敵・・・
先制攻撃を狙っていたようだったが簡単に受け止められた。
サムライと俺と二人同時に。

ミディ「じゃま・・・だぁ!」
その声を合図に得物をはじく。
そして流れるように胴体中心に斬りつける。
何か・・・サムライの時と比べたら・・・
こいつら・・・皆。

ミディ「弱い!」
一人、二人と続いてかかってくるけど動きも遅いし・・・
何ていうか・・・武器にキレがない。
まるで何かに操られているかのように相手の動きを事前に察知してよける・・・
そして・・・隙だらけの一人に殴りつけるような痛恨の斬撃をお見舞いしてやった。

「こ・・こいつ・・・強いぞ!」 

「おい!こいつも防人の一人じゃねぇのか?」

ミディ「見くびるなよ、俺だってこういう時の為に普段から鍛えているんだからな!」
どうやら・・・予想外の出来事にあわてているな。
さっきよりも勢いが無くなったし内輪もめして足並みも揃ってはいない。
ついには子どもを目の前に大人数人が怖気づいている妙な光景になった。

ミディ「来ないならこっちの番っ?!」
何かが俺の右腕をかすめた。
草の生えた地面に一つだけ場違いに刺さったもの・・・

ミディ「矢…くっ!」
戦場となっているのはこの木々溢れる雑木林。
木の上から弓兵がいたところで何もおかしくない!
このままだと狙い撃ちにされる・…

「奥に逃げたぞ!!」

「追え!必ず仕留めろ!!」
―今の俺はさながら狩人に狙われている野兎ってところか・・・
こっから連中にばれずに抜け出すのは簡単なんだがそうなると二人を置いてけぼりにする事になる。
サムライに怒られそうだな・・・
狩人に追われるよりよっぽど・・・達が・・・・?

ミディ「リンネさん?」
さっきから姿が見えないと思ったらこんな奥に逃げ込んで・・・
しかし逃げたのは良いとしてこの状況で幹に生えている枝を丁寧に折って集めている姿は理解しがたかった。
そしてこっちに手招き 何かいい作戦でもあるのだろうか?

リンネ「少し離れてて下さいね」
こちらに優しくニコッと微笑むと手荷物から魔法石をとりだす。
そしてそれを手に取ると透明に輝きだす。

リンネ「お願い・・・癒しを彼等に・・・」
やがてその輝きはリンネさんの身体からも発せられて周囲の木々へと吸い込まれていった。

ミディ「・・・えっ ってうわ?!」
あまりの光景に目を疑う。
さっきリンネさんが折った枝やツタが元通りいや、それ以上に長く大きく成長し始める。
茂みの草や地面に生えた雑草までがそ俺達の背を超えそれこそ木々並に成長する。
見えなくなった向こう側は俺の頭の中以上に大混乱になっている。
様子こそ見えないが相手の慌てている声からはそれが明らかだ。

「ぐわぁぁ?!」

「た・・・助けてく・・ギャアア!」

ミディ「え!?」
様子がおかしい、相手の悲鳴しか聞こえてこなくなった。
命を乞う声もそれはすぐに悲痛な叫びに変わる。
ものの数分でその悲鳴は止んでしまった。
まさか・・・
リンネさんは気まずそうな顔で俯いている。
俺ともできるだけ目を合わせたくないという意識も働いているだろう・・・

「ただ襲撃目的だけだったか・・・」
茂みからは所々紅い姿で染まったサムライが現れた。
カタナと呼ばれる武器と赤い羽を手に持って。

ミディ「全員殺したのか・・・?」

「確かめればわかる事だ」
確かめる?
あの悲鳴を聞いたんだ、確かめるまでもない!

ミディ「ふざけ・・・っ」
何だ・・・?
身体が・・・痺れて・・・うごかなっ・・
感覚もわからなくて立っていられず地面に倒れる。
な・・・何で?これって・・・・・毒・・・?
意識が朦朧とする。
目も開いているのか自分ではわからない。
ただ会話ははっきりと聞こえていた。
五感のうちこれだけがまともに機能していた。

「赤い羽・・・確たる証拠を手に入れた」

「・・・それよりも・・・本当に・・・本当に・・・」

「・・・・・相変わらず甘い考えだな・・・お前も」

「ぇ?」


「やはり慣れないやり方は難しいのでな、思ったより時間がかかった」

そこで一度会話が止まった。
枯葉の上を歩く時に発するサクッという音。
その音だけが周囲に響く。
そしてしばらくして残りの会話は再開された。
一言だけしか残っていなかったけど・・・しかし彼女が一番望んでいた一言であった。

「ありがとう」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第292号
ページ番号
38 / 63
この作品について
タイトル
剣と石と・・・
作者
キナコ
初回掲載
週刊チャオ第281号
最終掲載
週刊チャオ第313号
連載期間
約7ヵ月13日