三章 わくわく!街へ行こう!5
あれから逃げるようにあの場を離れたけど、あのすすり泣く声は頭から離れない。
シェア・・・あいつまだ泣いているのかな・・・
歩いてきた道を振り返っても今思っている人の姿は見えない。
この人込みがなくても相当歩いたからな・・・見えるわけないな・・・
本来ならシェアにこき使われながら、更にたくさんの荷物を持たされてさ。
文句を言いつつも結局ここに運び込むんだよな。
・・・いつの間にか街の中でもひときわ目立った建物を俺は見上げていた。
まるでおとぎ話に出てくる王子様が住んでいるような城・・・
外見は控えているからそうでもないが、中はすごかったな。
庭で圧倒されるのだがそれ以上に室内は豪華で整備も行き届いてるから、更に圧倒される。
荷物運びの時にはこの緑に満ち溢れた庭を通って中への扉を叩く。
入れば赤い絨毯とシャンデリア・・・そしてたくさんの使用人から歓迎されて・・・
使用人の人たちからはもう様付けで呼ばれて落ち着きにくかったんだが・・・二人の部屋は特別で・・・
こんな無駄に金を使ったとこなんて嫌いなはずなのに二人の部屋に招かれたらすごく落ちつくんだ・・・
最後に入ったのはいつだっけな・・・
曖昧な記憶を遡らせて・・・俺は思い耽っていた。
少しでも眺めてたら何か答えが浮かぶような気がしてさ・・・
「ミディ君じゃないか!」
聞いた事のある声・・・
振り返ってみるとその疑問もすぐに吹き飛んだ。
「お・・・お久しぶりです・・・ポルダー・リミットさん。」
ポルダー「はっはっは!そう固くならなくてもいいよ、今は娘たちの親として話しているのだからな」
ミディ「・・・調子狂うな」
ポルダー「うむ!」
今、俺の目の前に立っているのがさっきまで俺が眺めていたあの豪華な自宅の保有者、更にこの街の大地主であり・・・シェアとパラディの親父さんでもあるポルダーさんだ。
この港町シリウスの貿易を土台に様々な商売を成功させていくことによってここまでのしあがってきた。
街の発展に一番関わっているのはいうまでもないこの人である。
十年前の面影も見えないくらい・・・ここまで立派な港町にしてくれたのだ。
しかしこのおじさんは自分の資産を自慢するような周囲から反感を買うような事なんてしない。
その人柄は俺も嫌いじゃないんだ、この街の大半の人だって俺と同じだろう。
しかし唯一反発しているのが・・・・シェア。
ポルダー「ところで・・・ミディ君 シェア達とは一緒じゃないのかい?」
ミディ「いや・・・そのぉ・・・」
俺は言葉を濁らせた。
ここから足掻いたところで・・・このおじさんには通用しそうにもないんだよ・・・
あの優しそうな目にはどんな抵抗も皆無だ・・・
ミディ「あいつとさ・・・喧嘩したんだよ・・・」
ポルダー「・・・」
さっきと変わらない目・・・
優しく・・・続きを催促している目だ。
ミディ「それで・・・」
それから俺は今までにあった事を話した。
つい怒りに身を任せてあいつの気持ちがこもった贈り物を地面に叩きつけた事・・・
捨て台詞を吐いて・・・泣いているのに置いていった事も・・・
いつもの喧嘩なら・・・お互い譲らずの口論で誰かが止めてくれるという流れなのに・・・
泣かれてしまった事でどうすればいいのかわからないという事も・・・
全て。
今までの出来事と今持っている悩みを全てぶつけた。
ポルダー「そうか・・・・言いたいことはそれで全部かね?」
俺は頷いた。
全て言う事は言ったんだ・・・
ポルダー「うちの娘は・・・食べ物にはうるさくてな・・・」
ミディ「は?」
ポルダー「小さい時から食べさせるのには苦労した。好き嫌いが激しく・・・特に野菜はだめだった・・・」
ミディ「はぁ・・・」
ポルダー「しかし・・・新鮮なお魚は昔からよく食べた。お刺身やグリルなんかを特に好んでな・・・」
このおっさんは何を言い出すのか・・・
好物がさかな・・・!
なるほど。
お魚ねぇ。
ポルダー「それと・・・レディーを待たすのはマナー違反だ。 覚えておきたまえ。」
・・・・・親父さんらしいな。
頭の中では次の道筋が照らし出される。
それと同時にさっきまで硬かった俺の表情が一気に楽になった。
ミディ「ありがとうな! 急いで行ってくるよ!」
ポルダー「うむ!いい返事だ」