第5話 私ね、思うの
「私の名前は未津海 秋野。秋野って呼んでね」
「おれの名前はチャオベエだチャオ。ディカプリオって呼んで欲しいチャオ」
自己紹介を済ませると、お互い手を差し出して握手……というかチャオの手の構造上、秋野が一方的にチャオの手を握りました。
そして先ほどのフルオート射撃の結果、辺り一面ぼこぼこに抉り返された岩場の中から適当に座れそうな岩を選び、そこに二人ともちょこんと座りました。
確か、麻酔銃だったはずですが。
「チャオベエ君、アイツと言い合ってたみたいだけど、何があったの?」
ディカプリオとは呼ばず、秋野がチャオベエに尋ねました。
「実は、友達に無理やり銃を渡されたチャオ。それを持って歩いていたら、さっきの警官に見つかって、銃刀法違反だー、って逮捕されそうになったチャオ」
「まぁ、とんでもない話ね!」
秋野がすっくと立ち上がり、声を荒げました。
「本当に、とんでもないチャオ。銃を押し付けるなんて、大地はどうかしてる……」
「銃刀法なんて法律、どうかしてる!」
「そうそうどうかしてる、ってあなたは何を言っているチャオか」
どうも今日は会う人会う人変な人ばかりです。もちろん自分のご主人がその筆頭であることを再認識し、チャオベエは深いため息を禁じ得ませんでした。
まぁ、アイドルの写真集を人質に取られただけでいいなりになってしまったチャオベエもあまり人のことを強くはいえないと思いますが。
そんなチャオベエの鬱々とした気分と反比例するように、秋野は右の拳を強く握り締め、烈火の如くチャオベエに向かって捲くし立てます。
「私ね、銃刀法っていらないと思うのよ。だって、銃も刀も、人を殺す道具じゃないもの」
「いや、この上なく殺傷能力を有している道具だと思うチャオ」
「威力の問題じゃないのよ。凶器になるかどうかは、使う人次第だって言っているの」
「使う人次第で凶器になり得る道具だから、厳しい法律があると思うチャオ」
「でもそのせいで、私のような善良一般市民も銃を自由に持ち歩けないのよ? ひどい話だわ。私、常に引き金に指をかけていないと落ち着かないのよ」
「一生のお願いだから、他にその指のやり場を探して欲しいチャオ。例えば、ペロペロキャンディー握ってるとか」
チャオベエは岩から飛び降りて、必死に土下座しました。
「あらもうこんな時間。本文が入りきらなくならないうちに、私帰るね。それじゃっ」
秋野はチャオベエに可愛くウインクを残して、すたすたと歩いていってしまいました。
残されたチャオベエは、肌寒い風に吹かれて、一言呟きました。
「っていうか、さっき堂々と銃ぶっ放してたチャオよ……」
そしてチャオベエは、再び迷子のチャオを捜しに、当ても無く歩き始めました。
その、一歩目でした。
カチリ。
チャオベエが右足で踏みしめた地面の下で、小さな音が鳴りました。(つづく、いやつづけてください)