to you ~がらくたの街
・・・。
いつかはこのがらくたも撤去されて、
新しいきれいな何かが誕生する。
街はそれでも穏やかなんだね。
運命という風に流され、
がらくたという大切な宝物が消えていく。
思い出がまた一つ消えていく。
傷心が少し見え始めたときにまた思い出したよ。
あのときのこと。
風邪が気持ちよい堤防から下を見渡すと、
きゃっきゃと私の息子が友達と一緒に遊んでいた。
彼は自分が私のおなかの中から生まれてきたと思っている。
でも、実はチャオから生まれてきたんだよ。
その言葉を思い出したその時、
鞄の底の方に何かの日記が入っていた。
私のあのとき書いた手記がそこには映し出されていた。
to you
洗濯物がゆっくりと揺らめきながら、
私はこの文を書いているんだよ。
誰かに見て欲しくはないんだけどね。
あなただけには見て欲しいな。
あなたに、言いたいことがあります。
私が悲しいときも泣きたいときも、
あなたはいつもへらへらと笑うんですか。
なんで私もそれにつられてしまうんですか?
私は子供が出来ない、そう言う身体だと知っていたのに、
いつも帰ってくると「一人にさせてごめんね」って、
謝ってくるんですか。
あなたはいつもお小遣いが少ないとぼやいているのに、
私が「寂しい」とベッドで漏らした次の日、
チャオをうれしそうに抱いて帰ってきたんですか。
どうして公園で遊ぶ子供を見て少し悲しそうな顔になるのに、
私を見ると「おまえだけで十分だよ。」って
バレバレの嘘を付いてごまかそうとするんですか。
そして優しく抱きしめてくれるんですか。
なんで私を好きになってくれたんですか。
なんでこんなに私を元気づけてくれるんですか。
なんで自分を犠牲にしてまで私といてくれるんですか。
なんで・・・。
チャオで人工授精しようと決めた次の日、
私の卵子が私たちのチャオに拒絶しないんですか。
なかなか見つからないと言われていたのに、
なんであなたはこんなにも私に奇跡をくれるんですか?
チャオの中で人工授精は出来るが難しいと言っていたのに、
どうしても一度で成功してしまうんですね。
あなたのおかげなのに、「よく頑張ったね」と、
私の髪を撫でてくれるんですか。
そして、あなたはいつもうれしいときも悲しいときも、
そうやって笑ってくれるんですね。
変な笑い声を出すのがいやだったけど、
もう慣れましたよ。
だから、折角慣れたんですよ。
あなたの笑顔なしの生活なんて考えていませんよ。
どうしてもあなたは私の目の前から消えてしまうんですね。
意識不明の重体ってなんですか?
交通事故ではねられたなんてまたバレバレの嘘を付くんですか。
どうして起きないんですか。
どうして脈数が0になってしまったんですか。
私が悲しいときはいつも笑ってくれたのに。
笑ってください。
また私に奇跡を運んでください。
子供の顔が見たいなぁって、チャオの中で成長する子供を見て
毎晩うれしそうに飛び跳ねて、
下のマンションのおばさんが怒ってきて、笑顔で巻いていたのに、
どうしても起きてはくれないんですか。
インターホンを鳴らして、
黒っぽいぼろぼろの鞄を持って、また帰ってきてください。
抱きついてください。
いつもみたいにいやがりません。
キスしてください。
風邪ひいているからなんて嘘は付きません。
ベッドで一緒に寄り添ってください。
シャワーしていないあなたのことを臭いなんて言いません。
いつものようにドアをくぐり抜けて、
私を笑わせてください。
・・・そうして5ヶ月がたちましたよ。
医者から聞いたことがあるので報告させてください。
私たちが大切にしていたチャオなのに、
なんで赤ん坊の命を引き替えに破裂してしまうんですか。
あなたという思い出から何故私を遠ざけるんですか。
赤ん坊が日に日に大きくなっていくのに、
なんで私はそれを素直に喜べ無くなってしまったんですか。
あなたが消えていくのを感じなくてはならないんですか。
あなたが消えてからは本気で泣いたこともありません。
本気で笑ったこともありません。
本気で人を愛したことがありません。
こんな時、あなたならいつも寄り添ってくれたんですよ。
笑わせてくれたんですよ。
どんな芸人よりも、落語家よりも、面白い話で、
どんな芸能人よりも、モデルよりも、きれいな笑顔で。
そうやってあなたを思い出すたびに、
空想の中のあなたの笑顔は私を泣かせてきましたね。