Episode 3  生まれくる願望 変わりゆく日常

楽しい日々、というのは得てして突然やってくるものだ。
ほとんど人間は、それに終わりがあると知らず、或いは知りながらにして、
その日々が永遠に終わらないものと"仮定"して楽しむ。

俺も、そうだった。

                     Episode 3
               生まれくる願望 変わりゆく日常
                   "Change of life"


タイニーがうちにやってきてから2週間。
ハイハイだったタイニーは、1週間もしないうちに立って歩けるようになった。

とはいえ、さすがにバイトに連れて行く訳にもいかず、その時は家で留守番をさせる。
初めはぐずっていたが、最近では手を振って見送ってくれるようになった。
食べ物は十分に用意してあるし、帰ってきたら存分に遊んでもらえると理解したらしい。

しばらく一緒に生活していると、タイニーのことが次第に分かってきた。

まずは、食べ物。
初めて食べたレモンは、酸っぱさに口をすぼめながら相変わらず食べている。
今ではお代わりするほどである。
その他にも、リンゴやトマトなど、酸味のある「実」が好みらしい。

それに、遊び。
フリーマーケットで買ってきたオモチャをいくつか与えてみた。
タイニーはお絵かきが気に入ったらしい。事あるたびにクレヨンと画用紙を取り出し、遊んでいる。
また、水遊びも好きなようだ。だが、残念ながらアパートには風呂は付いていない。
そこで、他人に見えないのをいいことに近所の銭湯に連れて行ったりする。

起きて、飯を食って、適当に働いて、家に帰って寝る。
今まではそれだけの生活だった。だが、今は違う。
もはや、タイニーの居ない生活など考えられなくなっていた。


そんなある日、タイニーの色が黒ずんできたことに気がついた。
初めは気のせいかと思ったが、そうではないらしい。
汚れかと思って拭き取ろうとしても、落ちない。
そして、その色は毎日濃くなっていく。

成長した証なのだろうか………とりあえず、そう言うことにした。

その数日後、バイトから帰ってくるといつもとどこかが違うことに気がついた。
ドアの開く音が聞こえるや否や、タイニーが駆け寄って来る筈なのに、今日は来ない。

不思議に思いながら部屋に入ると、部屋の真ん中に白い繭のようなものがあった。
不思議に思って見ていると、その繭はだんだん薄れ、その中に黒っぽい生物が座っていた。

一目でタイニーだと分かったのは、今まで共に暮らしていたからだろう。
しかし、その姿は出かける前に見た物とは大きく異なっていた。
頭の球はトゲ球となり、尻尾は"⇒"の形。その姿は、小悪魔という印象を与える。

ペットは飼い主に似る、というが………。
「俺って、そんなに悪どい奴だったっけ?」

そう思い悩む俺だが、そんな俺の足下にタイニーがすり寄ってきた。
これは抱っこしてほしいときの仕草。
迷いながらも抱き上げると、タイニーはいつもと変わらないハートマークをだした。

悪魔っぽい外見になっても、タイニーはタイニーであったことは救いである。
相変わらずレモンを嬉しそうに、そして酸っぱそうに頬張り、お絵かきに興じる。
その姿は、今までと全く変わりがなかったのだから。

繭に入って成長したのだろう。
心なしか、少し以前より賢くなった気がした。
今までは一見無意味な絵を描いていたのが、その絵が段々意味を持つようになってきた。
たまに行く銭湯の風景、タイニーの自画像、等々。
だが、未だに俺の似顔絵は描いてくれない。それだけは、少し歯がゆかった。

それからも、バイトとタイニーの世話の両立生活という構図は変わらなかった。
そして、それはこれからもずっと変わらない物と思っていた。

いや、寧ろそうあってほしいと願っていたのだろう………。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第118号
ページ番号
3 / 6
この作品について
タイトル
TINY ~devil-looking ANGEL~
作者
NORIMARO
初回掲載
週刊チャオ第118号