Episode 2  奇妙な生き物との奇妙な生活

雨の日……遭遇<であい>は突然だった。
これが俺の人生を大きく変えるとは、その時は知る由もない。


                     Episode 2
                奇妙な生き物との奇妙な生活
                  "Strange creature"


翌朝、俺は万年床となった布団から出た。
昨日の出来事は、夢だったのか………。
そう思って辺りを見回したが、座布団の上で寝息を立てている、昨日の生き物が目に入った。
やはり、夢ではなかったようだ。

朝飯を作るため、台所に向かう。
こう見えても自炊生活は長い。ちょっとした料理なんかはお手の物だ。

作っている間に、あの生き物が目を覚ましたようだ。
「よく寝た~」とでも言っているかのように伸びをする。
そして、辺りを見回して、俺の姿を見つけると四つんばいでこちらにやってきた。

どうやら、俺を「親」と認識したらしい。

昨晩、コイツが寝静まってから買ってきた果物を与える。
レモンを食べるなら、と思って選んだ野菜や果物だ。

  ――― あぐ……んぐ…………あっぽ……

時々ノドに詰まらせながら、果物に食らい付く。
昨日は食べてすぐ寝てしまったためか、今朝は一段と腹がすいているようだ。
このときはリンゴとレモンをそれぞれ1個ずつ平らげた。
どうやら、昨日食べたレモンがよほど気に入ったらしい。


この日のバイトは午後からなので、午前中はその「生き物」の面倒を見て過ごした。

『まずは、名前か。』
名前を考えないと、何かと面倒である。

………

……………

……………………

そうだ、「タイニー」にしよう。英語で「とても小さい」という意味。
オスかメスかは分からないが、いずれにせよ、身長が40cm位しかないコイツにはピッタリだ。

『決めたぞ。おまえの名前は「タイニー」だ』
タイニー……そう名付けた生き物の頭をなでながら、俺は言い聞かせるように言った。
すると、タイニーは嬉しそうな顔をした。

  ―――ぽんっ

シャンパンの栓が開いたときのような音とともに、タイニーの頭に浮かぶ球が形を変えた。
ハートマーク。普通に考えれば、嬉しい、と取っていいのだろう。
どうやら、完全に俺になついているようだ。

その時、玄関をノックする音が聞こえた。
急いでタイニーを布団の中に隠す。こんな変な生き物、見られたらどうなる事やら。

ドアを開けると、そこにはこのアパートの大家。
その時、思い出した。このアパートはペット禁止だった。
この大家は、大の生き物嫌いなのだ。

タイニーのことが知られないように祈りながら、俺は取って付けたような笑顔を見せた。

大家は言った。
『家賃。アンタ、先月分も払ってないだろ?』

そうか、家賃。今日が支払日だ。
しかも先月は前のバイトをやめたばかりで払えなかったっけ。
そう思いながら、今月のバイト代から取っておいた家賃2ヶ月分を支払った。
今のバイト先は結構羽振りがいいようで、バイト代もそこそこの額なのだ。

その時、足下に何かが触れる感触を覚えた。
恐る恐る下を向くと、タイニーが俺の足にしがみついていた。
  (よりによって………)
俺は、一気に血の気が引いた気がした。この鬼大家に何を言われる事やら……。
しかし………

『どうしたんだい?』
焦る俺と、俺の視線の先を見比べながら、大家が訝しげに声をかけた。
『ゴキブリでもいたかい? 部屋を散らかしてるからだよ。全く、最近のだらしない若者は………。』

相変わらず、聞いていてムカつく言い方だが、それどころではなかった。
大家には、タイニーが見えていないのか………?


『俺にだけ見えるのか………。 いったい、おまえは何者なんだ?』
大家が帰った後、俺はタイニーを抱いて、揺すりながら呟いた。
こうやって揺すっていると、タイニーは機嫌がいいのだ。

気味が悪いし、気が変になったのかとも思った。
だが、自分が感じる限りは至って正常だし、現に、買ってきたリンゴやレモンをタイニーは食べたのだ。

「ま、いいか。」
俺はポジティブに考えることにした。
バイトに行くときも、バレることはないから、迷子にならないよう戸締まりさえ気をつければいい。
そう、見えないなら見えないで、都合がいいのだから。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第118号
ページ番号
2 / 6
この作品について
タイトル
TINY ~devil-looking ANGEL~
作者
NORIMARO
初回掲載
週刊チャオ第118号