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レクプロンおばあちゃんはテーブルの引き出しからタロットカードを取り出し、それをテーブルの上にポンと置きました。
【レクプロン】「そうそう、レイト坊や。せっかく来たんだから占いぐらいやってくだろ?」
【レイト】「ええーっ、でも……」
【レクプロン】「心配せんでも、坊やからお金なぞ取り上げやせん」
【レイト】「そういうことじゃなくて、またいつものカードが出てくるんでしょ?」
【レクプロン】「それは坊やが不幸の星のもとに生まれてきたからじゃ。あたしの占いは間違っとりゃせん」
何を思ったか、レクプロンおばあちゃんはタロットカードを空中にばらまきました。
するとどうでしょう。
一見でたらめにばらまかれていると思われていたソレは、それぞれがジグザグに落ちながらもきれいにテーブルの一カ所にまとまっていくではありませんか。
【レクプロン】「さあ、どれでも好きなカードをお引き」
【レイト】「しょうがないなあ。えーと……」
やがてレクプロンおばあちゃんの手によってずらりと並べられたタロットカードを見て、レイト君は手を左右に動かすしぐさを見せながらもようやく一枚のカードを引きました。
レイト君が表を見る前にレクプロンおばあちゃんがそれをかすめ取り、テーブルに置いて表に裏返しました。
【レクプロン】「ザ・フールの正位置。『愚者』という意味さね」
【レイト】「げげ、やっぱり。またいつもの『オロカモノ』のピエロの絵柄だよ。おばあちゃん、やっぱりインチキしていつもこの絵柄ばっかり出るように細工してない?」
【レクプロン】「バカ言っちゃいけないよ。あたしのタロットカードは真実を指す。レイト坊やが変わらないから、出てくるカードも変わらないのさ」
【レイト】「かわらない……から?」
【レクプロン】「今度のレース、勝たないとますいんだろ? だったらまずは強くなることさ」
【レイト】「そんなに簡単に言わないでよぅ。強くなれないから困ってるんじゃないか」
【レクプロン】「ほら、当たってるじゃないのさ。努力もしないであきらめるなんて、まさに『愚者』そのものさね。あのタキオンだって、そんな時は動物集めに行ったものだよ」
「ま、失敗してダサチャオになっちゃったけどさ」と付け足すレクプロンおばあちゃん。
【レイト】「けど、ボクには動物を買い集めるお金なんてない」
【レクプロン】「誰が買い集めろと言ったね」
【レイト】「お金も無しにどうやって集めるの? ぼく、みんなが一生懸命可愛がっている動物を盗んでくるなんてできないよ。エッグマンのロボットを壊して助け出すのもチャオにはムリだし」
【レクプロン】「ところが、たったひとりでそのエッグマンのロボットを倒して動物を集めようとしたチャオがいたのさ。ちょうど今のレイト坊やのような状況でね。誰だか、わかるかい?」
【レイト】「『ひとりで』ってことはチーズさんは違うよね。じゃあ、えーとぉ……」
レイト君はううん、と首を振りました。
けれど突然思いだしたように声を上げます。
【レイト】「あっ、ロルフィーヌおじいちゃんでしょ」
【レクプロン】「違うね」
【レイト】「じゃあ、チャクロンさんとか……リージュさんとか……竜庵さんとか……きょ…じゃなくて、名前忘れたけどバルカさんの弟子の地味なチャオ?」
【レクプロン】「全てハズレさね。おっと坊や、チャオ事典で調べようとしてもなかなか思いあたらんだろうて。答えはねえ、タキオンさ」
【レイト】「ええーーーーっ!?」
おやまあ、レイト君ったらビックリしすぎて頭の!マークで天井を突き破っちゃいました。
表情はかの名画『ムンクの叫び』のようです。
【レイト】「そんなぁ。それじゃあレースをまともに戦おうとしないでいつもロルハムが使っているティーカップに下剤を塗っておこうかなー、不戦勝になっちゃおうかなー、とか少しでも考えちゃったぼくが一人だけいくじなしみたいじゃないか」
【レクプロン】「それは『いくじなし』というより『ヒキョーもの』だねえ。レースってのは実力で勝ってなんぼのもんさね」
【レイト】「あのね、おばあちゃん。話を蒸し返すようで悪いけどぼくには実り……」
レイト君が全てを言い終わらないうちに、レクプロンおばあちゃんはテーブルの上に何かを乗せました。
それはクリスタルのような容器に入っていて、緑色にきらきらと輝いて見えます。