第2話−1

 ステーションスクエア、チャオ幼稚園から始まったこのお話。
 ダメチャオのレイト君は、ヒロインのエーテルちゃんをいけ好かない金持ちチャオのロルファム君の魔の手から救うために立ち上がりました。
 ……というのは正確ではありませんね。
 漢(おとこ)としてそうせざるをえない状況に追い込まれた、というところでしょうか。


<第2話:カオスドライブ>

 所変わって、ここはチャオによるチャオのための占い館。
 錆びた剣、ひからびたコウモリの羽根、ガイコツのレリーフ、血のように赤いロウソク……。
 まるで黒魔術でも始めようかという薄暗く怪しい部屋の中に、一人ぽつんと年老いたチャオが腰掛けています。
 年老いたチャオは脚が弓状になった椅子に背もたれながらギイギイと床を鳴らし、ホコリをかぶった古文書を読んでいるようです。
 そこに、「ドゴォォォォン!」とけたたましい音が鳴り響きます。
 なんとまあ、閉めてあった入口のドアが内側に倒れ、汚いながらもきちんと並べられていた棚の中の品物が棚ごと床にぶちまけられているではありませんか。

【老チャオ】「おやまあ、何かと思えばレイト坊やでないかい」
【レイト】「ごめん、レクプロンおばあちゃん」

 騒ぎの主は、前回勢いよく転がっていったレイト君だったようです。
 レクプロンと呼ばれた老チャオは読んでいた古文書を閉じてテーブルの上に置き、気だるそうに体を起こして入口で倒れているレイト君の元へとやってきました。

【レクプロン】「びっくらこいたねえ。あたしゃてっきりタマゴ男の作った機械が攻めてきたのかと思ったよ。で、レイト坊やはなぜにあたしの占い館に突っ込んできたんかね? 宴会芸かえ?」

 どうやらレイト君は、前回つまづいて坂を猛スピードで転がり落ち、その突き当たりにあるレクプロンの占い館に突っ込んでしまったようです。
 レイト君はそのことをレクプロンおばあちゃんに説明しました。

【レイト】「わざとじゃないんだ。ごめんね、おばあちゃん」
【レクプロン】「そうかえ。だったら別に責めはせんがね」

 言いながら、レクプロンおばあちゃんはレイト君の傷口にバンソウコウを貼ってあげました。

【レクプロン】「どのみちこんなさびれた占い館になんかに来るのはレイト坊やぐらいなものさ。実の息子夫婦だって遠くへ引っ越して行ったっきり顔も見せやしな……ゲホッ、ゲホッ!」
【レイト】「だ、大丈夫? おばあちゃん」
【レクプロン】「ああ、たいしたことはないさ。年取ると体のあちこちが融通がきかなくなってねえ。レイト坊やにもいずれわかるときがくるさ。まあ、そうならないうちに青春をいっぱい噛み締めるんだね。ところで……」

 レクプロンおばあちゃん、よろよろした足取りで先ほど腰掛けていた椅子に座り直したようですねえ。

【レクプロン】「レイト坊や。何か悩み事でもあるのかえ?」
【レイト】「ええっ、よくわかったね」
【レクプロン】「そりゃそうさ。占い師ってのは人の表情を読み取ってなんぼの商売だからねえ。それで悩みってのは……例えば自分のドジさ加減にうちひしがされたとか?」
【レイト】「ええ、なんでわかるのそんな事」
【レクプロン】「そりゃあ、今しがたあたしの店に突っ込んできたからねえ」
【レイト】「ゴメン。出世したら弁償するから。でもボクの悩みは正確にはそういうことじゃなくて……」

 レイト君は、幼稚園での出来事をみぶりてぶり、時々前転しようとして首からヤバい音が聞こえたりしながらも説明しました。

【レクプロン】「なるほど、そりゃレイト坊やのようなおマヌケさんにはレースで勝つことなんて難しいだろうねえ。それにしても『タキオン2世』なんてあだ名、昔を思い出すねえ」
【レイト】「レクプロンおばあちゃん、タキオンを知ってるの?」
【レクプロン】「知ってるも何も、あたしゃ実物をこの目で見てるから。坊やも話ぐらいには聞いたことあるだろ」
【レイト】「あるよ。ただのドジでしょ?」
【レクプロン】「ただのドジじゃ語り継がれはしないさ」

 どこか遠くを見るような眼差しで、レクプロンおばあちゃんは言いました。

【レイト】「ボクなんかじゃ想像もつかないような大ドジとか?」
【レクプロン】「ああ、そうさね。けどそれだけじゃなかったさ」
【レイト】「どんなだったの?」
【レクプロン】「おっと、これ以上はいくらレイト坊やの質問とはいえヒミツさ。占い師というのは何でもべらべらヒミツをバラせるような安全な職業じゃないんだよ」

 「冗談だけど」という小さなつぶやきはレイト君には聞こえなかったようで。
 何事もなかったように、レクプロンおばあちゃんはテーブルの引き出しからタロットカードを取り出し、それをテーブルの上にポンと置きました。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第98号
ページ番号
5 / 7
この作品について
タイトル
『The Fool(ザ・フール)』
作者
RYO助
初回掲載
週刊チャオ聖誕祭記念特別号
最終掲載
週刊チャオ第98号
連載期間
約26日