The Endless Winter:2

チャオについて、分かった事をヤナギは書き連ねた。
体の色は水色、先の方は黄色っぽい。羽に尻尾もある。
食生活は人間と変わらない。
甘いもの(特に果物)が好きなようだったが、食べ物の好き好みが偏っているといえば、そうでもない。
キオク(と、ヤナギは呼ぶ事にした)はどちらかというと体育会系だった。
外で遊びたいと、何度も言っているからだ。
だが、もうすぐ冬休みなのだから、と静止をかける。
四日経てば冬休み、十二月の二十一日―……、



あと、七日。



声。
誰の声で、何の意味なのか、ヤナギには分からなかった。
なぜ声がするのかも、分からない。
「ヤナギ、トランプしよう」
可愛げに首を傾げて、キオクは言った。



1:七日間の音色



終業式というものは、それだけで盛り上がる理由にはなる。
しかしながら、ヤナギは一人だけ深刻な顔つきをしていた。
懸案事項がいっぱいある。
声の事。チャオの事。〝守られた記憶〟とは何か。
自分の身に何が起こっているのだろう。
それが分かれば苦労はしないか、と、ヤナギは納得した。
「暗いわよ」
仁美が気さくに話しかけてくる。
普段は友人と談笑しているはずのヤナギは、なぜか今日、深刻だった。
いや、今日だけではないと仁美は思う。
昨日も一昨日も、同じだった。
「七日……七日、一週間、曜日一周」
その彼は、妙な事を口走っている。
さしずめ、思い当たったキーワードを連ねているのだろうと仁美は考えた。
「三日後、クリスマスイヴよね」
「ん? そうだ、イヴだな」
反応は薄かった。
さらに仁美は疑問に思う。
「予定とか、あるの?」
「特には無いよ。いや、あると言っちゃあるんだけど」
「彼女とデート?」
なんとも付かない表情で仁美が訊ねると、初めてヤナギは彼女の方を向いた。
幼馴染ともなると、その人物のおかしいそぶりをすぐに察知できる。
ヤナギはさきほどの彼女の声を聞いて、どこか震えている感覚を得た。
「女かどうかは不明だな」
「は? それって……」
「そもそも人間じゃない」
「ぞんび?」
予想外の返答に、ヤナギは呆れた。
「見せようか? たぶん、キオクもその方が喜ぶと思う」
「記憶?」




どこまでも抜けている仁美のために、ヤナギはキオクを見せてやろうと思った。
普段は彼女の家に向かうのだが、今日は直接自宅へ向かう。
母親はいるだろうか。
今日ばかりは病院に行っていて欲しいものだ。
「親戚の娘がいるの?」
「らしい。俺も良くは知らないけど、何でも記憶喪失とかなんとか」
「へえ……記憶喪失といえば、いつだったかヤナギがそんな事を言ってたわねえ」
彼女の何気ない一言に、ヤナギは驚く。
「いつ言ってた? どんな事を?」
「なになに急に? んー、小学生の頃だったと思うけど、よく憶えてないわよ」
まるで暗闇を模索している気分だった。
ヤナギにはそんな記憶は無い。では一体、何がどうなっているのだろう。
記憶喪失とは、いかんせん事が事であるがゆえに、誰にも話していないはずだった。
そもそも親戚の娘がいるという事自体、幼馴染ながらも初めて言ったはずだ。
それぐらい、親戚の娘などという話題は出なかった。


どころか、その記憶すら欠陥していた。


家の前に行くと、キオクが手を振っていた。
「母さんには見付からなかったか?」
「うん。問題なしだよ」
「紹介するよ、俺の幼馴染の、仁美……どうかした?」
仁美が唖然としている。
いや、唖然としている表情でヤナギとキオクを交互に見ているように、ヤナギには見えた。
それは驚くだろうが、その驚き方はどこか違って見える。
「……何かいるの?」
「ごめんね、言うの忘れてた。私、ヤナギ以外には見えないと思うよ」
ヤナギはキオクの言葉を聴くより先に、仁美を見ていた。
その首を傾げる仕草が、感覚が―……。
「ヤナギ?」
「……見えないのかよ」
何よりも、ショックだった。
しかしそれは、誰の責任でもない。そのことが一層、ヤナギを責めた。
「ごめん仁美、わざわざ来てもらって何だけど、いや、まあいいか。上がってく?」
「……う、うん」
控えめに頷く仕草も、どこか。




家にはオルゴールの音が鳴っていた。
キオクのお気に入りが、オルゴールらしい。
といっても、どこにでも売っているオルゴールで、正直に言って安物だった。
だが、そのオルゴールを見た仁美は、ひどく懐かしがった。
「わあ、こんなの取ってあったの? ヤナギ、どっちかというと捨てるタイプだと思ってたんだけど」
「机の上に、置いてあった」
捨てようとは考えなかった。
そこにあった事自体、忘れていたような、そんな感覚だった。
「ヤナギ、あと三日だね」
「三日?」
「そう、三日だよ」
何の期限なのか、オルゴールを弄ぶ二人の〝少女〟をみて、
ヤナギは、薄々感づいていた。




仁美が帰宅した後も、キオクはオルゴールを弄んでいた。
そこでやっと、ヤナギは母親がいない事に気が付いた。

「キオク、明日は外で遊ぼう」
「うん」
キオクは頷いた。
段々とその体は白に色づいていく。
その日眠って、翌日起きた時も、ずっとオルゴールが鳴っていた。



土曜日は公園で雪を遊んだ。
キオクはすっかりオルゴールに夢中だったが、ゆきだるまにも夢中になった。
日曜日も同じように過ごした。
夜も、朝も、昼も、そのオルゴールが鳴っていた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号
ページ番号
3 / 6
この作品について
タイトル
The Endless Winter
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号