第六話の続き
「うわーー☆ きれーー。素敵――。」
彼女は無邪気に智樹に背をむけて、反対側の窓を見ていった。
その時、智樹は不思議なものを見た。
彼女の背に・・白い羽。小さいけれど、天使のような・・。
たしかに、それは羽だった。
智樹は声がでなかった。
しばらく彼女の背中の羽を見つめ続けた。まばたきすらせずに・・・。
「どおした?智樹?」
彼女の声で智樹は我に返った。
「いや・・・。」
羽が消えている。
智樹は彼女を抱き寄せると、おそるおそる彼女の背中をさわった。
なにもない・・・。なにも・・・いや、たしかにさっきまで羽があった。見間違いなんかじゃない。
観覧車を降りて、レストランで食事をしている間も、智樹はさっきの後景が頭にやきついて離れなかった。
自分には理解できない・・・。しかし、何となく思いあたる。彼女が普通の女性でないことが・・・。
それは本当になんとなくなのだが・・・。
人懐っこくて、口もけっして上品とはいえない、庶民的な彼女なのだが・・・。実はなにかとても神聖な存在・・のような、距離を感じていたのだ。自分ではどおしようもない違和感を・・・。
つきあって、年月がたてばたつほど、それは強く感じるようになっていった。うめられない・・なにかが、二人の間にあると。
智樹は己の無力さを痛感した。大きなむなしさが、急に彼を覆った。
彼女は気づいていないが、智樹にははっきりわかってしまった。彼女は自分を愛すべきではないのだと。他の誰なのかわからないが、自分でないことは確かだった。
そう、思い知った雨のデートだった。
彼女は元気のない僕を気遣って、プリクラをとってプレゼントしてくれたのだ。
それから、別れをいいだすのに、しばらく日数がかかってしまったが・・・。
このままずるずるとつきあうのは彼女を傷つけると、二日前やっと決心できたのだった。
今、彼女のいない彼女の部屋の中で、智樹は少し後悔していた。
彼女のためとはいえ、どっちにしても彼女を傷つけてしまった。別れの理由も正直すぎて、彼女は納得していなかった様だし。けれど、智樹にはあのセリフが精一杯だったのだ。
どのくらい時間がたったのか、気がついたらもう、日が沈みかけていた。
「僕は・・何をやってるんだ。」
多分彼女は実家か旅行か、とにかく二日間いないくらいでこんな大騒ぎするなんてどうかしている・・・。
智樹はソファにおいてあったメットをつかむと、部屋を出ようとした。その時、
カシャン。
サイドテーブルの写真たてが床に落ち、ガラスがちらばった。
智樹は険しい表情でそれを見つめると、意をけっして彼女の部屋をあとにした。
智樹は大学にもどっていた。もう18時をまわっていたが、運良く親しい事務員の池内が残っていた。智樹は彼にたのんで、麻奈の実家の住所と電話番号を手に入れた。すぐ、携帯からかけてみる。
「この電話は、現在つかわれておりません・・・。」
携帯の向こうでたんたんとアナウンスの声が流れた。
「麻奈、君は一体・・・。」
そして彼は再び彼女のアパートへいった。
すると、さっきはきづかなかったが、玄関に白いパンプスが片方だけころがっていた。
このパンプスは別れた日、彼女がはいていたものだ。
なにか、あった、彼女の身に。
彼はそう確信した。
と、FAX付き電話機に録音メッセージが記録されているのにきづいた。
智樹は再生のボタンを押した。
「麻奈様、ヴァンです。約束の時がきました。ただ今お迎えにあがります。」
「!?」
智樹は何度も繰り返し聞いた。
しかし、彼にはどおすることもできないのだった。
次号へ続く。
あとがき・いやー、センチな大人ムードの第六話でした。ちと
恥ずかしい・・・てれっ☆
第七話はまた本筋にもどります。ではでは、来週ーーー☆