第四話 Butter-Fly

 チャオを失い、アーティカに乗れなくなった僕が求めたのは、やはりチャオだ。
 新しいパートナー。
 それがどのチャオかは、もう決まっていた。
 たぶんこれが運命なのだった。
 GUNのチャオガーデンに入る。
 そして見覚えのあるヒコウチャオ――つまり僕が幼い頃一緒に暮らしていたチャオの姿を探す。
 そのヒコウチャオは、ガーデンの池で仰向けに浮かびながら、きらきら星のリズムでほにゃほにゃと歌っていた。
「ロヴ。久しぶり」
 僕はそう声をかけた。
 ロヴ。
 死んだ兄の、テスクのパートナー。
 僕の兄のチャオで、そしてエースアーティカに乗っていたこのチャオなら、新しいパートナーになれる。
 まるであの嫌味なカオスチャオの言うことに従ったみたいなのが少し癪だけど、だけどこれ以上にふさわしいパートナーなんてどこにいる?
「チャオ?」
 ロヴは首を傾げた。
 僕のことがわからないみたいだ。
 そりゃそうか。
 何年も会ってない。
 そして僕はその間にだいぶ成長した。
「僕だよ。タスク。タスクだよ」
 そう自分の顔を指して名乗る。
「タスク……タスク!」
 思い出したというふうに頭の上の球体をエクスクラメーションマークに変えた。
 僕の方へ泳ぎ、池から上がったロヴを抱き締めてやる。
 服が濡れてしまうのが気にかかったけれど、それよりもとっととロヴと仲良くなって、アーティカの操縦者に一秒も早く舞い戻らなくてはならないと僕は思っていた。

 ロヴは凶暴なチャオだった。
 スケヤ君に頼んで試しにチャオバトルをしてみたら、ロヴは勝手に動きたがった。
 僕はスイッチングをやってみようと、制御を諦めてロヴに任せてみた。
 流石はエースアーティカに乗ったチャオだ。
 結局僕はロヴを操作することなく、ロヴは自分の力だけでスケヤ君に勝ってしまった。
 心のあるチャオをこれまで操縦したことのない僕は、下手に手を出さない方がいいみたいだった。
 本的にロヴが動いて、スイッチングやデュランダムのために時折僕が操作する。
 その戦い方でロヴも納得したようで、僕たちの間に協調性の壁は生じなかった。
 そして僕は操縦者候補の中で再び一位となり、すぐに操縦者に舞い戻った。
 原因はライオンとルウにある。
 ルウがカオスエメラルドごと機体を回収されてしまったせいで、エースアーティカは一機減ってしまった。
 その上、これまでの小動物とは一線を画すライオンが猛威を振るうので、戦死者が増えたのだ。
「おかえり、ロヴ」
 マキナが姿を見せ、僕を見ながらそう言った。
「僕はロヴじゃないよ」
「チャオに頼り切って戻ってきたんだろ?」
「違う」
「違うもんかよ」
 僕には、心を持たないクリアと勝ち上がってきた実力がある。
 だからこそロヴをうまく扱うことができる。
 そう自信があったけれど、マキナにそう言い返すのはなぜだか躊躇われた。
 マキナの、無表情の嘲笑にこれ以上晒されていたくなかった。
 なら戦いで証明してやる、と思った。
 ロヴだけで戦っているなら、これまでの僕の戦いと同じことをしているに過ぎない。
 だけどそうじゃない。
 僕たちこそが最強のペアであることを見せつけてやろうと思った。
 マキナにも、そして他の操縦者たちにも。

 待ち望んだ小動物の襲来。
 僕はアーティカを、前と同じようにナイフでの戦闘だけを意識した装備にしていた。
 とにかく撃墜数を稼ぐ。
「前に。前に出るぞ、ロヴ」
 初めに僕が操縦権を握って、小動物に向かって走った。
 ロヴが戦場でどのような戦い方をするのか、僕は知らない。
 だから撃墜数重視で戦うのだということを教えるために、まず無理やり僕が操縦をした。
 それでロヴが従ってくれるかどうか、ということはあったけれど、幸いロヴは従順だった。
 僕に完全に操作を任せ、そして僕が撃墜数のためにとにかく前に出ているのだということを理解すると、もっともっと前に出たいという意思を見せた。
 それで僕はロヴに操縦権を明け渡してみる。
 ロヴはぐんと前に出て、被弾するが、それでもナイフを振って次の小動物を目指す。
 危険を顧みない。
 そうか、と僕は納得した。
「エースアーティカを目指すなら、死ぬ覚悟が必要ってことなんだな」
 死に飛び込み、それを退けてみせた者がエースアーティカの操縦者になれる。
 ロヴにはその経験があって、それでロヴは僕にそれを見せているのだと思った。
 僕はロヴに操縦を任せて、周りに気を配る。
 そして見つける。
 ライオンだ。
 剣を振うその凶暴な小動物を倒すために、エースアーティカが集まり、普通のアーティカはライオンから離れて雑魚に専念する。
 僕はそのライオンの存在をロヴに教える。
 するとロヴはライオンの方へ向かった。
 そうだ。
 ライオンを討ち取れば、エースアーティカの座はぐっと近づく。
「うあああああ!!」
 ロヴは絶叫しながら、ライオンに向かった。
 泣きそうな叫びだった。
 そしてロヴはライオンに正面から戦いを挑み、僕たちのアーティカは瞬く間に破壊された。

 目覚めると、医務室だった。
 僕は助かったらしかった。
 だけど重傷で、体を動かすこともままならない。
 そしてロヴは死んでいた。
「お前が弱いから、ロヴは死んだ」
 最初に見舞いに来たのはマキナだった。
 というか、マキナ以外誰も見舞いに来なかった。
 スケヤ君さえも。
 僕には人望がなかったのか。
「お前がロヴを殺したんだよ」
「そうかもしれない」
 ライオンの強さをロヴは知らなかった。
 だから僕が制御するべきだったのだ。
「どうしよう、ロヴを死なせてしまった。もうエースアーティカに乗れない」
 希望が断たれた。
 エースアーティカに乗ったことのあるロヴこそ、クリア以上の可能性だった。
 その最大のチャンスを僕はこうも簡単に手放してしまった。
 後悔が押し寄せる。
「罪の意識はないんだな」
 呆れたようにマキナは言った。
「ならお前は、僕がロヴにすまないと泣けば満足なのか?」
「そうか。お前はチャオの命をその程度にしか見ていないというわけか」
 死なないカオスチャオが、命がどうこうなんて、変なことを言う。
 僕はそう笑ってやろうと思ったのだけど、それよりもカオスチャオが死なないというところに可能性を見出した。
 こいつこそが僕の最強のパートナーなのか。
「まあ、いいさ。ロヴは死にたがっていたからな」
「え?」
「パートナーを失い、そして戦いに恐怖を持ったあいつは、死に囚われていた。そしてお前があいつに死ぬチャンスをくれてやってしまったというわけさ」
「じゃあ、自殺だったのか、あれは」
 あの叫びは、死の恐怖と、その死に抱かれるためのものだったのか。
 マキナは、そうだ、と答えた。
「お前が死のうが生きようが、ロヴは自分が死ねればどうでもよかった。そういう意味じゃ、お前も犠牲者だな、今回は」
「死ぬことを望むチャオか……」
 パートナーとしては最低だ。
「死なないチャオがいいな……」
「あ?」
「お前、僕のパートナーになってくれないか」
「はあ?」
「だってお前、死なないだろ」
 マキナはたぶん渋い顔をしている。
 体を動かせなくてマキナの方を見れないけれど。
 それにカオスチャオだから表情は全然変わらないけれど。
「お前、馬鹿だな。狂ってるって方が正しいか?」
「そうかな。どう考えても、合理的なんだけど。死なないチャオなら、ロヴみたいにライオンに突っ込んでも大丈夫だろ。いくらでも勝負ができる。ライオンを倒せる」
「その前にお前が死ぬかもしれないんだが?」
「死んで星になれれば簡単なんだけど、エースアーティカに乗るには生も死も手中に収める必要があるんだろうな」
「お前、大怪我して頭もおかしくなったのか? 言ってることの意味がわからないぞ」
「僕はいつだって本気だ」
 マキナは少し考えてから、
「わかった。いいだろう」
 と言った。
「望み通り、俺がお前を殺してやる。おんぶも抱っこも」
「それでこそだよ」
 こうして僕たちは組んだ。
 すぐに操縦者となって、僕たちは誰にも真似できないくらい、自分たちの安全を考えない戦い方をした。
 毎回毎回ライオンにやられた。
 だけど僕は生きていた。
 当然マキナは死ななかった。
 ライオンへの対策は徐々に固まり、僕以外の犠牲は出なくなって、そのせいで僕がエースアーティカの操縦者に選ばれるまでに、十年もの年月が必要となってしまった。
 それでも僕はとうとうなった。
 エースアーティカのパイロットに。


<<次回予告>>
ついに次回、カオスエメラルドの真の力が覚醒!!
タスクとマキナが発動させる、カオスコントロール!

その力ははたしてタスクたちを英雄へと変えるのだろうか?
今、タスクとマキナの運命が動き出す――!

次回、覚醒の星物語(スターストーリー)第五話
Escape from the City
お楽しみに!

このページについて
掲載日
2017年8月21日
ページ番号
6 / 16
この作品について
タイトル
覚醒の星物語(スター・ストーリー)
作者
スマッシュ
初回掲載
2017年4月7日
最終掲載
2017年8月29日
連載期間
約4ヵ月25日