第五話 Escape from the City


「ついにアンデッドタスクのエースデビューというわけだな、おめでとう」
 僕よりもずっと背の高くなったスケヤ君がそう言ってきた。
 小動物が襲撃してきていた。
 これから僕たちは出撃する。
 そしてこれがエースアーティカのパイロットとしての初陣だった。
「アンデッドって、あんま嬉しくない呼び名なんだけど」
 と僕はむくれる。
 その反応にスケヤ君は笑う。
「不老不死様も大変だな」
 不死ってわけではないんだけど。
 なんと僕は、不老にはなっていた。
 どうやらカオスチャオであるマキナとずっと一緒にいるせいであるようだ。
 マキナが年を取ることがないように、僕も年を取らず、少しも成長していない。
 十四歳の時のままの姿でずっと生きている。
 まるでマキナの周りだけ時間が止まっているかのようだった。
 そして数えきれないくらいライオンに撃墜されながらも生き延びているので、不老不死、アンデッドと呼ばれてしまっているのである。
 アンデッドってあんまりいいイメージなくて、嫌なんだけれども、なぜかみんなそう呼んでくる。
 まだ不老不死って呼ばれた方が気分いいんだけど。

 僕たちのエースアーティカは、まだ専用の強化パーツを装着していない。
 どのような機体にするのか定まっていなかった。
 兄と同じ、飛行特化の機体にしたかったけれど、僕とマキナの戦い方は死を厭わない突撃だ。
 それでこれまで同様の、ナイフでの戦闘特化の機体である。
 パーツ自体は過去に作られた、オーダーメイド品を再利用している。
 機体名はビフォーライト。
 夜明け前という意味だ。
「まるでツギハギだな」
 機体を見てマキナが笑った。
「僕たちらしいよ。まるでゾンビみたいで」
「ゾンビか。確かにそうだな。不老不死と言うほどお前の戦いは綺麗じゃない」
「お前の戦いって、お前だって戦ってるくせに」
「知らないね」
 マキナは相変わらず口が悪い。
 だけど十年も一緒にいれば互いのことを知り尽くしてしまっていて、要するにこれは軽口なのだった。
「しかし朗報がある。俺が乗ることでこいつはただのツギハギのゾンビじゃなくなる」
 とマキナが言った。
「え?」
「今の俺には、最新のカオスコントロールシステムが組み込まれている」
「カオスコン……? なんだって?」
 マキナが言うには、カオスエメラルドの真の使い道、それがカオスコントロールなのだそうだ。
 カオスエメラルドは膨大なエネルギーを生み出し続けている。
 しかし人類の技術では、そのエネルギーの一部を取り出して使うことしかできない。
 つまりほとんどのエネルギーは無駄になっていて、そのせいでカオスエメラルドを動力源としてしか使ってこれなかった。
 それがGUNの技術者の努力の甲斐あって、短時間ながらそのエネルギーの大半を一気に使うことが可能になったそうだ。
 桁外れのエネルギー量を用いれば、様々な現象を引き起こすことが理論上は可能。
 そしてエネルギーを制御し、思いどおりの現象を呼び寄せるためのシステムを組み込んだのだとマキナは言った。
「制御の鍵は俺たちの脳だ」
 マキナは自分の頭を指した。
「つまりチャオバトルやアーティカと同じってことだな。カオスエメラルドと息を合わせて脳でコントロールするわけだ」
「なるほど。そういうことだったら、やれそうな気がするな」

 出撃。
 戦闘開始と共に飛来してきている小動物の索敵が行われる。
 そのデータを受け取って最初に攻撃をしかけるのは、ハバナイだ。
 ハバナイの乗る重装備型エースアーティカ、ホワイトナイト。
 真っ白な鎧を着込んで太った機体は大きな砲を装備している。
 カオスエメラルドからもたらされるエネルギーを砲に溜め込み、放つ。
 チャージショットによる広範囲への高火力攻撃。
 これがホワイトナイトの持ち味だ。
 対処できるアーティカが限られる、飛行タイプの小動物の群れを優先してチャージショットで落とす。
 ライオンは撃墜されない。
 チャージショットを的確に避けて、降り立つ。
 僕とシドヤは、ライオンの位置情報が転送されるのを待つ。
 シドヤの格闘戦特化のエースアーティカ、ダンシングビート。
 武器を持っていないのに、ライオンとそこそこ張り合える。
 シドヤのセンスあってのことだ。
 彼はアーティカのパイロットの中で最も戦闘のセンスに長けていて、チャオバトルでも無敗だ。
 ライオンに立ち向かうのはGUN最強の彼と、そしてアンデッドと呼ばれている僕だ。
 これまでとは違い、僕もエースアーティカに乗っている。
 今回こそはライオンを討ち取ってみせる。
 そう息巻く。
 ホワイトナイトは次弾のチャージを行いながら、対空射撃をする。
 しかしチャージショットを撃つ機会はほぼないだろう。
 町中での戦闘。
 ホワイトナイトの射撃は町の被害を拡大しかねない。
 それゆえに飛んでいる小動物の処理が主となってしまう。
 地上の小動物の殲滅は、他のアーティカと、そしてスケヤ君の仕事だ。
 スケヤ君は僕より先にエースアーティカのパイロットになっていた。
 彼のエースアーティカは、盾と銃と剣を装備していて、どんな状況どんな相手にも対応できることを重視しているみたいだ。
 名前はブルースカイ。
 飛行も得意な万能タイプのアーティカだ。
 エースアーティカにしては目立った能力がないが、その器用さを活かして、飛び回っている。
 雑魚を倒しているアーティカがライオンを発見し、僕たちに知らせる。
 僕たち、シドヤ、そしてもう一機のエースアーティカがライオンと対峙する。
「マキナ、あれを使うぞ」
「いきなりか。まあいいだろう」
 僕とマキナは同時に叫ぶ。
「カオスコントロール!!」
 カオスエメラルドから発せられたなにかが瞬間的に周囲に広がるのを感じた。
 世界が遅くなった。
 時間の流れを歪めたらしい。
 動けるのか?
 試してみると、時間の流れの変化に関係なく、僕のアーティカは普通に動いた。
 たぶん周りには、高速で動いているように見えているはずだ。
 ライオンに向かってダッシュし、ナイフで切り付ける。
 抵抗することなく、いや、抵抗が間に合わずライオンは傷を負う。
 剣を持っていた腕を切り落とす。
 残念ながら僕たちが好機のうちにできた攻撃はそれだけだった。
 なにが起きたのか把握するのに時間を使いすぎたのだ。
 ライオンの腕が地に落ちる。
 そしてライオンは慌てて飛び退いた。
「時の流れを操る。僕たちらしいな」
 マキナにそう語りかけると、
「とんでもない力だな」
 とカオスコントロールの強大なパワーに驚いている様子だった。
 とにかくこれで倒したも同然だ。
 そう思っていると、ライオンは残った腕を突き出した。
 その腕はなにかを制御しようとしているみたいに見えた。
 ライオンから発せられて、周囲に広がる濃密な嫌な気配。
 これは。
 先にその正体に気づいたのはマキナだった。
「カオスコントロールか!?」
 そして爆発が起こった。
 無数の爆発が機体を破壊してゆく。
 周りのアーティカから動揺の無線音声が聞こえてくる。
 不幸中の幸いというやつだった。
 僕に対しての一点集中の攻撃だったら、僕は死んでいたかもしれない。
 しかし広範囲への攻撃だったおかげで僕のアーティカは腕や脚を破損しただけで済んでいた。
 周囲を見ても似たような感じで、戦闘能力を奪われた機体ばかりだった。
 ただ一機だけ、僕たちの加勢に入っていたエースアーティカが大破していた。
 そしてライオンはその機体を抱えた。
 これは前と同じだ。
 ルウのシューティングスターと同じように、カオスエメラルドごと機体を回収するつもりなのだ。
 させてたまるか。
「させぇてたまるかああああ!!」
「タスク!?」
「カオスコントロール!!」
 僕は叫んだ。
 そしてカオスエメラルドはそれに応えた。
 戦場が明るすぎる光に包まれて、なにも見えなくなった。
 僕はひたすらに、手を伸ばそうとしていたような気がする。
 かきむしるように。
 握り潰すように。
 貫き破壊するように。
 そしてカオスエメラルドの力が鎮まった時、僕のイメージが凄惨な形で実現されていたことが明らかになった。

 ライオンをついに倒したというのに、僕は戦犯扱いを受けた。
 あのカオスコントロールによってGUNは様々なものを失った。
 まず僕のアーティカに装填されていたカオスエメラルド。
 カオスコントロールによって暴走した果てに、搾りかすのような小石になってしまった。
 もうなんの力も持たない小石だ。
 そしてアーティカを集めていたこの拠点を手放すことにもなった。
 町にはなおもカオスコントロールの影響による異常現象が各所で発生していた。
 もはやここではなにが起こるかわからない。
 住人たちもここから避難をしなくてはならない。
 僕とマキナはこのような被害を出した罪により白い目で見られ、謹慎処分を受けていた。
 噂では、後々なんらかの刑に処される話もあるそうだ。
「俺たちも随分と立派な英雄になったものだな」
 自室で、マキナが笑う。
「笑えないだろ。英雄じゃなくて犯罪者扱いだ」
 奪われそうになったカオスエメラルドの方はちゃんと守れた。
 ライオンだって撃破できた。
 それなのにこの扱いは不当だ。
「英雄にはよくある話だ。いい気分だろ?」
「最悪だよ」
 僕は考えていた。
 噂のとおりに、あるいは別の形でも、僕たちはもうアーティカに乗れないのではないかということを。
 それは嫌だった。
 僕はアーティカに乗り、戦わなくてはならない。
 それが僕の生き方だからだ。
 アーティカに乗って敵を倒すのが、僕にふさわしい人生だからだ。
「マキナ、逃げよう」
「は?」
「アーティカを奪って逃げよう」
「お前、マジか?」
「そうしなきゃ僕たちはもう一生アーティカに乗れないかもしれないんだぞ」
「ううん、まあ、そうなんだけど」
「じゃあ行こう」
 僕は立ち上がる。
「ええっ? おい、マジかよ。おい」
 マキナはそんなふうに言いながら、僕の後ろを走って付いてきた。

 夜。
 拠点を手放すにあたり物資の運搬の準備作業があるため、普段より人が多かったが、構わない。
 奪うアーティカは、ホワイトナイトだ。
 エースアーティカを奪うことは決めていた。
 そして逃走に最適なのはこのホワイトナイトだ。
 僕たちは他の人の目をかいくぐり、ホワイトナイトに乗る。
 すまないハバナイ。
 あなたの機体を頂戴します。
 まずホワイトナイトのチャージショットで基地の壁を一直線に破壊する。
 これが逃走経路だ。
 身を守るために装備している装甲は邪魔なのでパージする。
 鎧を全て捨てると、身軽な黒いアーティカになる。
 これだけ派手なことをすれば、騒ぎになる。
 だがホワイトナイトを発進させ、破壊して作った道を進む。
 後ろから追ってくるアーティカが一機。
 それはシドヤのダンシングビートだった。
 奇しくも向こうもこちらも素手だ。
 相手がそれ用にパーツを作っている分、肉弾戦は不利だが。
 しかしこちらには切り札がある。
「カオスコントロール!」
 ダンシングビートが追いつきそうになったところで、時間を歪める。
 そしてダンシングビートに掌底の連打をみまい、さらに蹴っておく。
 スローに流れる時間の中では追撃が簡単にできる。
 もう追ってこれないように、片脚を念入りに殴っておく。
 そして逃げる。
 ダンシングビートはもう追ってこなかった。
 脱出に成功した。
「これで本当に罪人になってしまったな」
 とマキナは言った。
 それは違うと僕は思った。
「いや、僕たちは自由になったんだ」
 そう。
 僕たちが手に入れたのは自由なのだ。

このページについて
掲載日
2017年8月22日
ページ番号
7 / 16
この作品について
タイトル
覚醒の星物語(スター・ストーリー)
作者
スマッシュ
初回掲載
2017年4月7日
最終掲載
2017年8月29日
連載期間
約4ヵ月25日