十六話 カオスエレメント

 事務所のカオスガラスが光った。今度は緑と赤だ。
 今までの傾向として、複数の反応が出た場合は少し危険な事案になる。特に、緑と赤の反応が含まれていると、よりその傾向が強い。
 でも、それも今となってはあまり参考にならない。何の生物から何色のカオスエレメントが出るのかわからないからだ。
 反応は遠い。東の方向に反応があることはわかるが、かなり光は小さい。
「だいぶ遠いな。こんな遠くで反応が出たのは初めてか?」とロースト。「位置の特定を急げ」
 ヒコウ員が屋上へ飛び出て、横方向へ大きく広がる。首にぶら下げたカオスガラスをメモリと針のついた透明な小箱に入れ、それを東の方へ向ける。隊列の真ん中にいるフェニーが手を真横に伸ばすと、防具の袖からワイヤーがまっすぐに飛び出る。ワイヤーの先端は真上に立ち上がっていて、その立ち上がった先端にに、横に広がったライザとバードが小箱をカチリと装着した。小箱の底面にワイヤーが装着できる穴が空いているのだ。ライザとバードは少しずつ小箱の向きを内側へと向けていき、少しするとピタリと止まった。
「10」
 とライザとバードは言う。
 これは、均等な距離に置かれた三点から対象物の方向を向き、その向きの角度で距離を割り出す方法だ。
「東へ約100kmだ」とフェニーが言う。
 三名が距離を割り出す間に出動の準備を済ませたロースト、ロック、私は屋上にいた。
「フェニー、良いか」とロースト。
「了解」
 今回のヒコウ員はフェニーだ。フェニーはヒコウ員の三名の中で一番ヒコウ速度が速い。それでも、さすがに100kmとなると到着する頃にはエレメントがガラスの中に入れられ、カオスドライブとなってしまっているだろう。それを見越して、先に対象の位置を割り出したのだった。
 バスケットの中で縮こまること三十分、私たちは目的地へと着いた。来たことがない場所ではあるが、見た目は普通の小さな田舎町だ。田畑はあって、新築の家が並んでいるような地域もあって、あんまり店がない。国道沿いまで出ると、やっと店が立ち並ぶ。そのほとんどがチェーン店で、一部個人経営っぽい名前と雰囲気の店があって、大きな商業施設はない。発展途上というよりは、飾ったと言った印象を受ける町だ。
 不思議なことに、エレメントはガラスに入れられていると思っていたが、依然としてエレメントの反応は残っている。今回もまた、この間と同じように興味本位でエレメントを抜き出したパターンかもしれない。
「遠出したのに、なんだかなあ」
「確認して回収するまでが仕事なんだから、まだガッカリするな」とロースト。ローストの中でも、多分同じ結論が出てるんだろうなと思う。
「あの太陽光パネルが付いてる緑の屋根の家の辺りだな」とフェニー。
 フェニーが周りを見渡しながらゆっくり降下する。私も周りを見渡す。ダークヒコウのチャオとダークハシリのチャオが周りを見渡しながら道を歩いている。クロの可能性はあると思うけど、エレメントの反応が出ているところとは違うところにいる。一応、カオスガラスを持っていないか観察しているときに、ローストが驚いた声をあげた。
「なんだと」とロースト。「動いている」
「反応が?」と私。
「動いているな」とフェニー。
 私もカオスガラスを通してみんなが見ているところを見る。確かに、赤と緑の反応がふよふよと浮きながら動いている。まず浮いているのもおかしいし、独立して動いているということもおかしい。
「こんなことあるんだね」
 私たちは反応が動いている道へと降り、反応を回収しようと回収用ボトルの蓋を開けた瞬間、反応が消えた。
「訳がわからないな」とフェニー。
「そっちだ」とロック。カオスガラスを覗きながら左斜め後ろの方を指している。
「そっちはクロっぽいダークチャオが二人いたから、ちょっと急いだほうがいいかも」
 フェニーがすごい勢いで10mくらい飛び、獲物を見つけたようにロックが指さした方へ急降下した。
 ローストが「行くぞ」と走り出し、その後ろを走った。途中、エレメントの反応が消えた。さて、消えたという表現は正しくなるのかな?
 フェニーがいるところへたどり着くのに二回道を曲がらなければいけなかったが、割とすぐ着いた。そこには、銃を突きつけているフェニーとさっきのダークチャオの二人組がいた。エレメントの反応は、もうどの方向にもない。カオスドライブを使われた、で間違いない。
「二回目だ。両手を上げろ」
 フェニーがそう言い終える瞬間、ダークチャオの二人はすごいスピードで逃げた。しかも、すぐに二手に分かれて細い道へ入った。逃げるのに慣れてるのかな。
「フェニー、ロック、ヒコウ。メンメ、俺とハシリ」とローストが言い、私たちも追い始めた。
 フェニーはロックを抱え上空へと飛び上がり、ローストと私はハシリタイプの方が曲がった道へ入った。
 私たちが道に入る頃には、すでにハシリタイプは見えなくなっていた。100mくらい先にはT字路がある。
「面倒だな」とロースト。
「T字路の先じゃないね」と私。
「なんで」
「あいつが使ったのは赤のカオスドライブ。ハシリは元々の自力のスピードしか出せない。私たちがこの道に入るまでに100m走りきるなんて有り得ない」
 寧ろ、自力のスピードで逃げ切ったのならその方が面白いけど、まあないと思う。
「なるほどな。ここらに潜伏してるか、家の間を縫って動いているか、と言ったところか」
「そうそう。というか、私はもうあたり付いてるんだけどね」
 私は右手側に並ぶ家の三軒目と四軒目の細い隙間まで走った。ローストもついてくる。そして案の定、身をよじらせながら奥へと進んでいくハシリタイプがいた。
「マジかよ」とハシリタイプ。
「私目の淵の色がよく見えるんだよね、残像みたいに」
 防具の手首にあるいくつかのスイッチの内の一つを押すと、防具の袖口からワイヤーが飛び出て、ハシリタイプの腹に巻き付いた。さすがにハシリタイプも観念し、ゆっくりと隙間から出てきた。出てきたのを確認すると、ワイヤーを防具の中に戻した。
「おい」とロースト。
 その瞬間、ハシリタイプは私の顎を狙って殴りかかった。だが、私はその手を掴んで止める。
「カオスドライブの効果を試したかった? でも、そんなにいいものじゃないよ、それ」
 今度こそ、ハシリタイプは諦めた。今度はローストがハシリタイプにワイヤーを巻きつけ、私たちが降り立たった場所へと戻った。フェニーとロックはとっくにヒコウタイプを捕まえて、私たちを待っていた。そりゃあ、フェニーには追いつかれるだろうな、と思う。
 その後、バスターの事務所へと連行し、話を聞き出したあと警察に引き渡した。
 二人の話によると、公園の池にいたザリガニとカエルからカオスエレメントを抜き出したらしい。まあなんとも可愛らしい。だが、抜き出したエレメントが動き始め、見失ったので辺りを探していたとのことだった。今までにない事例だ。
「さすがにおかしいな。情報を整理して分析しようか」とロースト。
 事務所のホワイトボードに縮尺の違う地図を二枚貼って、カオスエレメントとその生物の種類が一致しなくなった頃から発見されたカオスエレメントの場所に印をつけていった。資料の数が多くて、机の上に引っ張り出すとすごく汚くなった。また戻さなきゃいけないことを考えるとちょっとげんなりする。
 そして、すべての場所に印を付け終わり、その印をすべて覆うように円を縮尺が小さい方の地図に書いた。
「正確な位置は特定できないが、この中心辺りを探ろう」
「どうやって探るんだ?」とリング。
「我々の拠点を移動する」

このページについて
掲載日
2018年5月2日
ページ番号
16 / 20
この作品について
タイトル
ステンドグラス
作者
ダーク
初回掲載
2017年7月11日
最終掲載
2018年8月16日
連載期間
約1年1ヵ月6日