九話 飾り

 ぺーことメンメが対峙する。メンメは今大会では初めての試合だ。同じく二回戦からのスタートであった俺よりも試合開始が遅いのは、トーナメント表に於けるメンメのいるブロックの進行が遅かったからだ。接戦が多かったのだろう。ぺーこは二回戦を待っている間、他の試合を見ながらもあくびを連発し、眠そうにしていた。だがそんなぺーこも、メンメの前ではさっきのヨシトモと同じような表情をしている。メンメはさっきの俺と同じようなことを感じているのだろうか。
 ふと、メンメの右足に違和感を覚えた。包帯が巻いてあるように見える。一度そう思うと、ニュートラルオヨギタイプであるメンメの緑と黄色の体に、その白が際立って見えるようになった。右足はメンメの利き足だ。練習で痛めたのだろう。だが、それでもメンメの勝ちは揺らがない。ぺーこは手負いのメンメ相手にどう立ち回るか。
 ぺーこが先に動いた。メンメの右側へと回り始めた。メンメの右側とは、つまりメンメの左足側だ。怪我を負っていない足側へ動くことで、メンメの左足による蹴りを可能な限り防ぐ。練習通りの正しい判断だ。
 ぺーこがメンメを中心に回りながら機を伺っていると、メンメは素早いステップでぺーこの行く先を遮った。その一瞬、ぺーこは硬直した。硬直したぺーこの顔に、右のハイキックが入る。綺麗なノックアウトだった。試合はあっけなく終わった。
 試合終了が宣言されてから間もなくぺーこは体を起こした。まあぺーこくらいの子供相手であったら当然と言ったところだが、メンメは手加減をしてくれたようだ。立ち上がろうとするぺーこにメンメは手を貸した。二人は何かを話しているようだった。なんとなく見栄えが良いシーンだ。何を話したのだろう。
 やはりメンメは強い。いくら加減をしているとは言えど、平気で怪我をしている方の足を使ってくる。仮に、あれがただの見せかけだったり、ほとんど完治しているような状態だったりしても、ぺーこの動きを遮ったあのステップは本物だ。もしこのまま勝ち進めば、決勝戦は俺とメンメが戦うことになるだろう。メンメの本気を見てみたい。
 二回戦もそこそこに進行し始めて、地衝道のメンバーも何人か出始めた。二回戦と一回戦では決定的に違うところがあって、当たり前だが二回戦にいるやつは誰かに勝ってその場にいるやつだ。地衝道のメンバーのレベルでは、がくんと勝率が落ちるだろう。実際、次々と地衝道のメンバーは負けていった。ボロスやニジラ、他にも身体能力の高いテールやバートといった限られたメンバーだけが勝ち残った。あと、まだ試合待機しているメンバーが五名だ。そこで体育館のチャイムがなった。12時のチャイムだ。正直、試合の妨げになるのでこの会場だけでもチャイムを鳴らないようにしてほしいのだが、どうも運営陣はチャイムが気にならないらしい。
 とはいえ、お昼を意識すると空腹を自覚する。もうすぐ試合が始まるであろう待機中の五名を除いて、観客席でコンビニ弁当を食べる。食べながら、みんなで午前中の試合を振り返る。
「ニジラはどうだった?」
「俺は特に問題なしですね。実力差があったからすぐに試合終わっちゃいました」
「そうか。次あたりからかな、そこそこのやつが上がってくるのは」
「そうですね。大体、三回戦か四回戦あたりになると手強くなってきますね」
「ボロスは?」
「私は二回戦で苦戦しましたね。任誕道のモンと言う相手でしたが、重いパンチに反応の速さ、これだけで強いと呼べる相手でした」
「ボロスが強いって言うんだから本当に強いんだろうな。ニカの相手も任誕道だったよな」
「モリさんでしたっけ? 正直勝てる気がしませんでした」とニカ。
「任誕道って初めて見たところだけど、どこにある道場なんだろうな」とニジラ。
 そこそこ大会に出場しているニジラでも任誕道は知らないようだ。俺も今日初めて見る道場だ。
「確かに、モリを見る限りでは強い道場なんだろうな。あれだけ強いならもう少し有名になっていても良さそうだけど」
「ニカさんの試合は私も見ていました。モリも十分強いように見えましたが、モンとはかなり戦い方が異なります。モリは蹴り主体のテクニシャンのようですが、モンはパンチ主体の、どちらかと言えばパワーで押していくタイプでした。指導者が複数いるような大きな道場か、強いものを寄せ集めて作った臨時のチームか、優秀なものばかりがずっと水面下で力を蓄えていたか。いずれにしても要注意ですね」
「任誕道で一番強いやつはどいつなんだろうな」
「そこがわからないのもまた不気味ですね」
 もしかしたらどこかにジョーカーが潜んでいるかもしれない。数多く大会に出場していても、実際そんな場面に出くわすことはほとんどない。今回の大会は地衝道の大会デビューくらいの思いでいたが、もっと大きなイベントになるかもしれない。メンメが食われたりするようなら、ここらでは大事件と呼んでいいレベルの珍事だ。
 と、そこでメンメとぺーこの試合を思い出し、
「そういえばぺーこ、試合のあとメンメと何話したんだ?」と尋ねる。
「えーっと」とぺーこが言う。
「メンメさんの足はヒビが入ってるって言ってました」
「ああ、やっぱり怪我してたのか」
「でも飾りだって言ってました」
「ん? よくわかんないな。怪我してるフリをしてるってことか?」
「よくわかんないんですけど、そう言ってました。あと、私が回り込んだときのぺーこちゃんは飾りじゃないヒビだよ、って言ってました」
「気取った表現だなあ。何言ってるのか全然わからん。他には何か言ってたか?」
「チャオ☆って言ってました」
「そうか、チャオか」
 そんなこんなで昼飯を食っている間に地衝道の待機中の五名は次々と二回戦を戦い、ことごとく敗北した。まあ、そんなものだろう。残念ではあるが、大会の空気感を知ってもらえただけでも嬉しい。
 地衝道のメンバーの二回戦が終わったので、トーナメント表を確認して任誕道の選手が出場しているエリアを見ながら次の試合を待った。モリを見つけたが、ニカの時と同じような勝ち方をしていた。他にも何名か見つけたが、余裕を持って相手を倒していた。まあ強いのだが、今のところ爆発的な強さは見受けられない。手を抜いている可能性もあるので、まだ何とも言えない。
「こんにちは」
 と突然後ろから話しかけられた。振り向くとメンメがいた。
「おお、びっくりした」
「すみません、許してくださいね。わざとなんですよ」
 試合をしているメンメはかなりクールな印象だったが、ぺーこから聞いた話からしてもこの話しぶりからしてもかなり変わったやつなんだろう。馴れ馴れしいというか陽気というか、まあでも悪い気はしない。
「じゃあ許す」
「ありがとうございます。それにしてもマックルさんが出場するなんてびっくりです。決勝で戦えたらいいですね」
「ああ、俺も楽しみにしてるよ」
「マジですか。嬉しいです。今度ラーメン食べに行きませんか?」
「ああ、いいなあラーメン。ちぢれ麺のしょうゆラーメンがいいな」
「おー、いいですね。おいしいところ紹介しますよ」
 そういえば、このままメンメが勝ち進んだら五回戦でニジラと当たる。ニジラは一見気が強い男のように見えるが、こういう女は苦手だ。面白がってニジラを呼んでみる。
「ニジラ、このまま行ったら五回戦でメンメと当たるぞ。折角こんな強い相手と戦えるんだから楽しみにしとけよ」
 ニジラはばつが悪そうな顔をして俺とメンメの方を向く。
「胸を借りるつもりで戦わせてもらいます」
 コンマ三ミリもそんなこと思っていない癖に、何が胸を借りるつもりだ。普段こんな態度を見せないニジラに、地衝道のメンバーがニヤつく。
「貸せる胸なんかないよ。所詮ただのチャオだし」
 ニジラは必死に次の言葉を探している。
「チャオ☆」
 そんなニジラを尻目に、メンメはどこかへ行ってしまった。
 そうか、チャオか。

このページについて
掲載日
2017年12月19日
ページ番号
9 / 20
この作品について
タイトル
ステンドグラス
作者
ダーク
初回掲載
2017年7月11日
最終掲載
2018年8月16日
連載期間
約1年1ヵ月6日