No.5

 探偵少女、未咲。日本人。
 とある政治家の娘だったらしいが、家族とは折り合いが悪かったらしく、母の古い知り合いであるアンジェリーナ・ワトソンを頼り実家から逃亡。元警察官であるアンジュさんの指導を受け、幼い頃からの夢であった探偵になる。
 元々探偵事務所はアンジュさんの物であったが、未咲は類稀なる才能を発揮し難事件を解決、程なくしてアンジュさんが直々に探偵事務所を譲った。

 未咲が姿を消したのは、ほんの二年くらい前の事だ。
 彼女は依頼を受け、ある人物達の行動調査をしていた。その依頼自体は滞りなく遂行し、依頼人からの報酬も受け取って仕事は問題なく終了したのだが……何を思ったか、後日未咲は独自に調査を再開。事務所には顔を出さなくなり、それっきり――だそうだ。
 彼女が何を調査していたのか、助手のアンジュさんにも知らされていない。当然捜索は行ったが、未咲が見つかる事はなかった。


____


『はいもしもし。あなたのヤイバです。オーバー』
「げ、予想だにしなかった人物が出てきた」
『いやぁんユリちゃんったら辛辣ね! そんなにオレちゃんの事が嫌いかしら!』
「少なくとも好きではない」
『嘘でもいいから嫌いじゃないって言ってくれ……最近カズマの奴が妬ましくて仕方ないんだ』
「モテない男は辛いですね、まる」
『言うなぁぁぁぁ!』
「はいはい。ところでなんでヤイバなんかが出てくるの? この通信機って誰に繋がるようになってるの?」
『ぐすっ、基本的に指定した周波数内にコールをかけて、気が向いた誰かが応答した後は普通の電話と一緒だよ……ううっ』
「ふーん……じゃあ私側から頻繁に使用すると気取られるわけか……」
『おっおっおっ。ひょっとしてなんか忙しいですか?』
「忙しいね。ヤイバの出る幕がないくらい」
『お前オレをどんなキャラだと思ってるんや』
「個性なら知ってるけど長所は知らないね」
『自慢じゃないけど、友達が多いかなっ!』
「へぇ。どのくらい?」
『そりゃもう、実況板からオカルト板までオレのコテハンを知らない奴はいないくらい』
「凄くよくわからないけど、実用性がなさそうな印象は受け取れたかな」
『疑うのは、こいつの凄さを知ってから! 一度体験してしまえば、もう後戻りはできませんよ!』
「胡散臭い通販番組みたいで信用できない」
『ネタにマジレスカコワルイ』
「ネタなんだね、君の友達」
『あーもうわかった。何か調べたいというなら言ってみるとよい。我が情報網を持ってして徹底的に調べてやろうではないか』
「そういうのはカズマが専門じゃないの?」
『ネットの上ではな。だが、ネットに載らない情報を探しだすのなら人の力が不可欠だぞ。オカ板にいるとよくわかる』
「ふーむ……ヤイバ、口は堅い?」
『ポスターの政治家の口にキスして回ったのは誰にも言えないヒ・ミ・ツ☆』
「…………」
『うそですごめんなさい』
「……未咲って人を調べてほしいの。字は未だ咲かないって書いて未咲」
『厨二クセー。で、特徴は?』
「写真は今度持ってくけど――中学生くらいの女の子」
『女の子キター!』
「しね」
『ごめんなさいくちがすべりました』
「某政治家の娘で探偵。二年前にある調査を独自に行っている最中に行方不明になった、と」
『具体的になんの調査をしていたのん?』
「チャオ関係の裏組織の調査かな。仮説だけど」
『なんというハイスペック少女。これは流行る』
「……なんでもいいけど、本当に調べられるの?」
『安心しろ。湧き出る情報量だけなら保証する』
「そういうのは普通、信頼できる情報を保証するものじゃないの?」
『そんな事言うなら大金持ってそれっぽい探偵社でも探してけれ。タダで請け負う分には安すぎるぐらいだぜ』
「はいはい、あんまり期待しないからよろしくね。おーばー」
『うむ。みょうにちに会おうぞ。あうと』


『はい、未咲探偵事務所』
「あ、アンジュさんですか? 私です」
『待ってたわ。どう? 目処はついた?』
「いちおう……」
『随分と自信の無さそうな声ね。大丈夫?』
「いちおう……」
『……こういうのは嘘でもクライアントを安心させとくものよ』
「ごめんなさい、アテにしてた情報網とは別のを使う事になってしまって」
『そんなに信用できないの? その情報網』
「胡散臭い通販番組並みです」
『……つくづく理解に苦しむわ。協力を要請したのは同じ職場の人でしょ?』
「はい」
『そんな胡散臭い人のいる職場で、よくあんな大金を稼げるわね』
「別に仕事で稼いでるわけじゃないですからね」
『じゃあ何で稼いでるの?』
「なんて言ったら信用しますか?」
『え? うーん、株とか?』
「あー、株はやってたかなあの人……」
『で、結局どうやってるの?』
「平たく言えば、ギャンブル」
『……それ以上聞くのが怖くなってきたわ』
「あはははは」
『何はともあれ、お願いね。未咲の事を突き止めるには、あなたに協力してもらうしかないんだから』
「タダ働きの身として、程々に頑張ります」
『いいじゃないの、こっちもタダで未咲の情報を教えたんだから』
「それってイーブンなんですかね?」
『考えるのは野暮ってものよ。それにこれは私事なんでしょ? 所長さんの事を調べるついでだと思えばいいのよ』
「はぁ……それじゃあ、一応情報が纏まったら連絡しますね」
『わかったわ。期待してるわよ』
「しないでください」
『はいはい。頑張ってね、小さな探偵さん』

このページについて
掲載日
2011年5月27日
ページ番号
7 / 12
この作品について
タイトル
小説事務所 「Repeatを欠けろ」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
2011年5月27日