No.15

 静かな時間だ。
 誰も口を開かず、その視線は同じラインを辿る。
 一人は熱心に。また一人は顔をしかめ。またある一人は呆れ果てて。
 それでも、眼は止めない。
 二人は、そんな私達を黙って見つめていた。
 表情は見なかった。だけど、その顔は憂鬱に染まった笑顔なんだろうと、その場のみんなが理解していた。

 やがて、私達の視線はピリオドへと到達。
 私はボロボロのノートを閉じた。


「感想はある?」
 パウが、私達にそう聞く。
 私達は顔を合わせる。みんなはもう、言うべき感想を一言にまとめ終わっている事だろうけど。
 私はまだ、差し出されたそれの味を深く噛み締めている。

「小学生の駄文」
「子供の妄想」
「焚き火の材料」
「期限の迫った宿題」
 カズマ、ヒカル、ヤイバ、ハルミの順に感想を述べ終えた。ちなみにミキはだんまりだ。
 まぁ、妥当な感想だと思う。私も捻りを利かさずに言えば同じような感想を出す。
 ――ただ。
 ミキはともかくとして、という顔で四人は私へと視線を移す。
 ただ、私はこれが書かれた理由、そして願望をほんの少しだけ感じ取れた。ような気がする。
 だから、私は違う感想を言った。

「……願望の不完全な再現」

 その場の全員が首を傾げた。
「どういう意味ですか?」
 リムさんがみんなの疑問を代表する。
「えっと、確かにこれはみんなが言うように子供が書いたような文章ですけど」
 なるべく伝わりやすい言葉を探そうと唸る私に、みんなが注目した。なんだか口が重くなるような錯覚を感じる。
「それをわざわざ文章に起こした。つまり、えっと、未熟な手で世界を作り出した……みたいな」
 ははは、と乾いた笑いが漏れた。カズマ達はやっぱり首を傾げたが、パウとリムさんは不出来な私の言葉を理解してくれたような微笑みを見せた。
「確かにそうだね。誰にでも望む世界がある。憧れる世界がある。これはそんな物語の一つとして書かれていたに違いない」
 私達の読み終えたボロボロのノートを受け取り、もはや読めなくなったタイトルが書かれた表紙を撫でるパウ。その笑顔には、やはりどこか哀愁が漂う。
「僕達はきっと、そんな世界で神を満足させる為に用意された役者なんだろう」
 その言葉に、私達は確かな重みを感じた。
「役者……ですか」
「ええ。……ずっと、そう信じてました」
 視線を床に落とし、振り返るように語るリムさんの口振り。なんだか、居た堪れない。


「私達はこのノートの世界の住人だった、と」








 所長室に向かった私達を出迎えたのは、所長を除く二人の思い詰めた顔だった。
 意を決し、事情を話してもらおうとやってきた私達に、二人は一冊のボロボロなノートを手渡した。
 それは小説だった。内容は至って単純なもので、週刊誌に載っているような冒険ものの漫画の世界を子供が頑張って書いてみたようなものだ。
 私達の予想を裏切らず、中身はとても上手とは言えない。読み慣れたライトノベルとは遠く及ばないレベルの文章は、書き手がまだまだ年端も行かぬ子供だという事がよくわかる。
 ただ、それでも私達の目を引いた。
 その物語の登場人物が、所長達だったからだ。
 素人の書いた幼稚な世界で、所長達は武器を手にし、魔法を駆使し、迫り来る敵と戦う姿が、確かに書かれていた。
 驚きを心の中に秘め、私達は物語を読み進める。
 そして物語は、中途半端な所で途切れてしまった。


「最初に『ここ』で目が覚めた時は、僕達は違う世界に来たんだと思った」
 私達の半信半疑の様子をよそに、二人は過去を話し始める。
「地下にある再現装置に関する資料を漁りに漁って、それがどんな代物なのかを理解した僕は、全ての理由をその機械のせいだと仮定したんだ。空想再現装置が世界の壁を切り開いて、僕達を呼び出したとね」
「そんな事ができんの、あれって?」
 当然の疑問を吐くカズマに、リムさんが答える。
「私達も最初は疑問に思いました。けれど、私達の知ってる世界とは違うと感じて、そう考える事しかできなかったんです」
「元々あれは普通の人間やチャオに能力を付加させるもの。僕も見つけた資料からそういう機能があるとわかったんだけど、結局は端々の資料だったから過大評価をし過ぎたみたいだ。あの装置は天変地異レベルの事もできる、とね」
 そこで溜息を一つ挟んで、続ける。
「……そんな恐ろしい物が、こんなチンケな場所で放置されている事自体が有り得ない。その事実もわかってたけど、僕達は世界を越えた事を信じた。このノートの中みたいに、何度か経験ならしていたからね」
 ちょっと振り回しただけで破れそうなノートを、彼女は机の上に丁寧に放り投げた。
「私達はむしろ、今まで原因不明だった現象をようやく突き止める事ができると思って、あの機械を作った張本人を探す事に躍起になりました。誰も使わなかったここを何でも屋にしたのも、それが動機です」
「――本の世界より出で、その扉を本に隠す。だから小説事務所だって、ゼロが考えたんだ」
 その事実を聞いて、私達は顔を見合わせた。このタイミングで三人が何でも屋を始めた理由を知る事になるとは思わなかった。
「だけど……今はシャドウだっけ。ゼロの義兄さんは僕達に黙っていなくなって、いろんな組織を転々とするようになった。恐らく、彼だけは可能性を否定したんだろう。僕達は世界を跨いだのではないのかもしれないとね」
 リムさんは来客用の椅子から立ち上がり、活気溢れる人達が見える窓辺へと歩く。
「……気付くのが遅すぎました。きっと義兄さんは、私達よりも早くその事実を知った筈です。だからゼロさん、今頃は義兄さんに文句を言ってるに違いありませんね」
 その遠い目に映る光景は、彼女の心にはどう感じ取られているのか。私には、想像がつかない。
「少し、歳を取ったみたいです」
 私達の心配をよそにリムさんはそう呟いて、パウさんも相槌を打った。
「多分、ゼロも少しづつ気付いてたのかもしれない。この部屋で寝たきりでいる理由も、きっとそれなんだろう」
「理由って?」
 ある意味、所長の寝る姿を一番見慣れているであろうヤイバが反応した。
「たまにね、ゼロが僕達に話すんだ。昔の夢を見たって」
「夢?」
「うん。僕達が冒険している姿を見るんだ。それと、ゼロがまた違う世界にいる時の夢も。それを話してるゼロの顔と言ったら……きっと悲しそう、だったのかな」


 ――変わっちまったな、俺。


 所長が暗い顔で眠る姿が、椅子の上に現れたように錯覚した。

「そんなゼロさんの姿を見て、私達も同じ事を考え始めました。私達はただ、作り出した可能性に縋っているだけじゃないかって」
 リムさんは勝手に所長の椅子に座って、彼が頭を乗せて眠る机を撫でる。その姿が、所長の眠る姿の幻影と重なる。
「その頃に、ゼロはいきなり「魔法を封印する」って言い出したから、僕達もそれに従った。それが最初にあの装置を使った時だ」
 そして先週、私がまだ暗い自宅に閉じこもっていた頃に解禁した。それが二回目の起動という事になる。
「動機はわからなかったけど、今はわかる。ある日入手した情報に、BALに関する記述があったんだ。僕達はなんとも思わなかったんだけど、きっと所長はあの装置とBALの繋がりに気付いて、あの装置がBALにしか適用されないのかもしれないという可能性に至ったのかもしれない」
「それを知らなかった私達は、暢気にも装置は動くんだと確信を得ました。だけど対照的に、ゼロさんは浮かない顔でした。それが何故なのか……今になって知るとは思いませんでしたけど」
 そこまで話を聞いて、私は他の傍聴人の顔を窺ってみた。
 みんな浮かない顔をしている。もう結論がわかってしまったのかもしれない。
 それは私も同じだった。
 信じたくない。きっとみんな、そう思っているのかもしれない。だけどそれを否定する為に手にした事実は、私達を裏切った。

「……僕達は、このノートの世界の住民を模して造られた偽物なんだ」

 そして真実は、私達に鉄槌を振り下ろした。








 本棚のように立ち並ぶサーバー。
 バベルの塔のようにそびえ立つ演算装置。
 私達は、それを見上げていた。
 望んだ世界がある。
 憧れた世界がある。
 その理想は。
 善か。
 悪か。
 どちらに染まったものかはわからないけど。
 この装置はきっと、誰かを満足させる為だけに空想を提供した。
 そしていつしか、誰もがここに足を運ぼうとはしなくなった。


「机上の空論」
 おもむろに呟いたのは、珍しい事にミキだった。
「この装置が演算したのは、全て空想である。全てはその一言にまとめられるということ?」
 更に珍しく、彼女の言葉には疑問符が含まれていた。それに答えたのは、皮肉そうな顔をしたリムさんだ。
「そうかもしれません。思い付きで空想再現装置なんて名付けちゃいましたけど、間違ってなかったんでしょうね」
「そうは思わない」
 真っ先にその言葉を切り捨てた――彼女で言うなら叩き飛ばした、か――のは、ヒカルだ。
「確かに世界を跨いだなんて可能性はないかもしれない。でもリムさん、私はむしろあなた達が偽物であるという事が信じられないわ」
「それは、慰めの言葉?」
 パウさんの言葉は、酷く冷たく感じた。ヒカルの熱のこもった言葉があっさりと冷め、口を閉ざしてしまう。
「違います」
 信じたい。
 ハルミちゃんの凛とした言葉が、それを物語っていた。
「所長さん達がこの世界へと呼び出されたって事を否定する材料は出てきました。でも……でも、所長さん達が人工チャオである可能性を否定する材料だってあります!」
 その顔はとても強い意志を感じた。でも、ちょっと突けばすぐに壊れてしまいそうで、見ているこっちが堪えられなくなる。そんな風にも見えた。
「もし所長さん達が本当にBALとして造られたなら、何もノートの世界の住人である必要はないと思います!」
「わかってるよ、勿論」
 でも、パウは容赦なく突いた。
「もし僕達が本当にBALなら、こんな余計な記憶はいらない」
「それなら――」
「だけど」
 昨日、魔法の爆炎を呼び起こした彼女とは思えないほどにその声は冷え切っていた。その様に私達は圧倒され、精一杯の反論は喉から飛び出さない。
「ゼロが言ってただろ? こんなところに、偶然の産物が三つも集まる筈がない」
 そして、凍らされる。

 奇跡の魔法を操った三人でも、偶然を信じない。
 何故だ。
 起こらないから、奇跡。
 誰も期待しないから、偶然。
 そんな冷たい事実があってたまるか。
 信じるからこそ、奇跡は起きる。
 それすらも信じないから、偶然が助ける。
 昨日私達は、奇跡を信じて戦った。
 奇跡たるこの人達は、世界を渡る偶然を味わってきた。
 それらは全て、後に必然と知る。
 奇跡と片付けるな。
 偶然と忘れ去るな。
 この人達は、そんな言葉と共に安易に葬られるべき人達じゃない。
 この人達は、私が葬らせない。


「……偶然じゃなきゃ、いいんですよね」
 そう決断した時。
 私は一歩を踏み出した。
「どういう意味だい?」
 パウの氷の声が、私の心を撫でる。
 構うな。
 これを溶かす炎は。
 還るべき水辺は。
 そして止まる事のない風は。
 彼らの中に眠っている。
 いい加減起こしてやらないと、このまま永遠に眠り続けてしまう。
 それだけは、絶対にさせない。
「確かにこの装置に偶然は有り得ない。だけど、ノートの世界の記憶を否定する材料としては弱い筈です」
「本当にそう思ってくれるのなら嬉しいですけど……だからってあなたは偶然を信じるんですか?」
 リムさんの声すらも冷え切っている。
 私が、溶かさせてやらないと。
「いいえ、信じません」
「……どういう事ですか?」
「あなた達こそ、どういうつもりですか?」
 猪突猛進の如く、無理矢理言葉に覇気を加えてみせる。二人の顔は、私の言葉に込められたものに気付いてか浮かない顔をあげつつある。
 うまくいってる。口から出まかせでも構わない。この場は、このまま押し切るんだ。
「あなた達は、本当に歳を取ったみたいですね」
「言葉の意味を理解しかねるけど……」
「簡単な話です。考え方が歳を食ってるって言いたいんですよ」
「ユリ、ちょっと……」
 この空気を険悪と感じたか、カズマ達が止めようとする。だけど、ここで止まってはいけない。
「まるでこの世の終わりみたいな顔をしないでください。あなた達は、本当に諦めるつもりなんですか?」
「諦める?」
「このまま歩みを止めて、鬱な毎日を貪るように過ごして、腐ったように灰色の繭の中で一生を終えるんですか?」
「おいユリ、もうよせって」
「みんな、いい」
 私を制止するみんなを止めたのは、パウだった。
「……君の目には、どんな未来が見えているんだ?」
 投げかけたのは、その一言。
 考え込むな。迷わずに答えろ。私が立ち止まれば、この人達も立ち止まってしまう。
「何も見えません」
「それじゃあなんで、君は諦めないんだ?」
「何も見えないからです」
「それ、答えになってるんですか?」
「なっていますとも。むしろ、これを答えに思わないあなた達がお話になりません」
 理解し難い私の様子を見てどう思ったか、二人はだんだんと固い表情を緩め、首を傾げる。
 今なら、この一撃が効く。
「何を知った気になっているんですか? 私達はこの装置が、結局は人工チャオと謎の例外にしか適用されない装置だという事を知っただけです」
「それが事実ではない、って言うの?」
「違います。これは事実の一つに過ぎない」
 この言葉で、二人の眼に小さな火が灯ったように見えた。
「確かにあのヒーローチャオの言った言葉は嘘じゃないかもしれない。だけど、それは事実の全てではなく、ほんの一部です。あいつは例外的に能力の付加に成功した人間やチャオは一人や二人程度、その理由は知らないと言いました。その理由を追及せずに、ここで止まっては無駄足も良いところです」
「それがどう世界を跨ぐ理由に繋がるんです? それこそ無駄足ではないんですか?」
「そんな事は、私には微細もわかりません。だけど、あなた達の記憶を偽物扱いして、世界を跨ぎに跨いだという状況証拠を蔑ろにするべきではない」
「でも、どう希望観測したってこの装置は世界を超えられない。その事実はねじ曲がらない。それは間違いないんだ」
 ――はっきり言って、私はここで限界だ。
 だけど、ここまで啖呵を切っておいて、ここで引いてしまったどうする。
 誰も助けられないまま終わるのか?
 今なら助けられる。
 私なら助けられる。
 私は、助けたい。
 もう私の目の前で、その人の世界が灰色に包まれるのを見たくはない。

 ――彼だって、そう望んでるから。だからこそ。
「じゃあ、あなた達は所長を裏切るんですか!?」
 叫んだ。
 私の声は。
 本棚に残され。
 バベルの塔を駆け上がった。


「……ゼロ?」
「ゼロさんを、裏切るって……」
 もう、理屈が出しゃばる時間じゃない。
 ここからは、心がものを言う時だ。
「ゼロは、諦めた。あの顔を見ただろう?」
「まだ諦めてなんかいません! あの人は、簡単に過去を見捨てる人じゃない!」
「あなたが何を知ってるって言うんですか、あんまり口から出まかせばっかりだといい加減」
「怒りたいのはこっちです! あの人はこんなチンケな事実を目の前にして、自分の信じるものを曲げたりはしない! あの人自身が、私に向かってそう言ったんです!」
 私が過去に足を掬われて倒れたあの日、所長は私の手を取って、立ち上がらせてくれた。
 ただ、私はそのありがたみを知るのが少し遅すぎた。何故なら所長は、私を立ち上がらせただけで手を引いてくれはしなかったから。
 それは何故だ。
 所長は、そんな力を持っていなかったからだ。
 信じるものは自分で見つける。自分のルールは自分で決める。正しい事も、間違った事、それらの絶対はこの世には存在しない。
 この言葉は、彼にとっての真実だ。
 彼は何が正しいか、何が間違っているか、何もわからない。身近にいる人の言葉も、有名なあの人の言葉も、いつ如何なる時も絶対に正しいなんて事はない。
 だからこそ彼は、強大な力を持つ様々な組織に属する事無く、小説事務所の所長として生きる事に決めた。
 縋るべきものがわからないなら、せめて自分の足で進むしかない。彼は間違いなく、そう決めた筈だ。
 だって、もう彼の背中は遠ざかっているのだから。
 ふらつく体を引きずって、今もなお歩いている。
 だから。
「そんな彼を、唯一身近にいる私達が裏切るなんて事ができますか!?」


 ――――……。


 誰も、口を開こうとしない。
 みんなの中でどんな葛藤が起きているのか、私にはわからない。
 沈黙に支配されるというのは、こういう事なのかもしれない。見えない力でも働いているかのように、誰もがどう切り出せばいいのかわからないようだ。
 私にも、続く言葉はなかった。全部吐き出してしまったから。
 待っているしかない。

 ふと、ボロボロのノートを持っていたリムさんがそれに目を落とした。
 それに気付いたみんなの視線がリムさんに集約される。それはある種、重い沈黙に耐えかねた行動だ。

「一つだけ、聞きたい事があります」
 突然の質問だった。だからそれが誰に向けられたものかと認識するのに少し時間がかかって、私は心底焦った。
「何故そこまで、私達の事を信じてくれるんですか?」
 とても簡単な質問だった。
 それなのに、さっきまでの私の勢いはどこへやら。私は言葉に窮してしまった。
 ただ一心に、彼らを見捨てる事ができないと思ったから――そう言えばいい筈なのに、私の理性は空気を読まない。リムさんの問いは、私の声となって再び反復する。
 何故そこまでして信じる?
 確かに短い間にいろいろあったが、果たしてお互いに信頼し合う関係だと、本当に思っているのか? 結局は同じ職場の同僚でしかないんじゃないか?
 いや、それだけならまだしも彼らは私を危険な場所に招いた張本人達だ。ここで情を移してしまえば、私の身の保証はされない。一時の感情に流されて、そんな事をしていいのか?
 そんな囁きが、耳元から聞こえてくるようだ。
 理屈と激情が、私の中で葛藤している。
 なんて言えばいいのか、わからない。

「臭い台詞だけど」
 力強い言葉が響く。
「私達はただの同僚じゃなくて、家族だと思ってるから」
 だけどそれは、私の言葉ではなく。
「拾ってもらった恩だってあるしなぁ。信じないなんて言うほど俺も根性腐ってないよ」
 だけどそれは、私の言葉でもあるのだろう。
「私も、みんなの事を本当の家族だと思ってます」
 だからそれは、私の心にも響く言葉で。
「今更所長さん達を見捨てるには、僕達もお世話になり過ぎた」
 そしてそれは、彼らの心を開かせた。
「……そうだよね、ユリ?」

 今度は私達が、彼らを助ける番だ。

「……ふふふっ」
「はは、ははははっ」
 突然、二人が笑い出した。
「家族……家族か。はは、そうか」
 嬉しそうに笑う二人の姿に、さっきまでの冷え切った表情の面影はなかった。
「ようやくわかったよ、ここがどうしてこんなにも居心地がいいのか」
「ええ、私も」
 心の底から笑っている。その笑みを見ていて、私達も自然と笑みが零れる。
「まるで家族と過ごしているみたいだからだったんですね。今までそんな事、考えもしませんでした」
「そうだよね。僕達は家族も同然だ。だから代わりなんて有り得ない。偽物なんて事も、有り得ない」
 彼女達も、もう迷う事はないだろう。
 自分達を信じる人がいる。だから自分達も、その人達を信じてやれる。
 差し出された手は、誓いの為に。
「ありがとう。僕達を信じてくれて」
「……うん」
 私は、パウと固い握手を交わした。
 なんだか気恥かしくて顔を俯かせたら、カズマとヤイバが後ろでひゅーひゅーと騒ぎ出したもんだからヒカルが容赦なくハリセンで叩いた。
 あんまりにもおかしいから、みんなで笑った。
 みんな、楽しそうに。

このページについて
掲載日
2010年10月15日
ページ番号
17 / 18
この作品について
タイトル
小説事務所 「can't代 Therefore壊」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
2010年6月12日
最終掲載
2010年10月15日
連載期間
約4ヵ月6日