ささやかに輝くAFTER

 所長室に入った途端、私達は固まってしまった。


「おう、お前ら揃いも揃ってどこにいたんだ?」

 なんかくせぇ。
 私達の第一印象は、恐らくそれで統一されていたと思う。
 何事かと思ってよく見てみると、拷問料理生産の為に活動していた鍋で所長が何か作っているのだ。
「あの……なんですか、それ」
「あぁ、それ」
 所長の指差す方向に一同が注目し、思わず目移りしてしまった。
 そこにあったのは、様々な種類のカップラーメンだった。しかも全部、すでに蓋を開けてある。
 まさか。
「いやな、なんかムシャクシャしたから兄貴の鼻っ面でも蹴り上げに行ってやろうと思ったら見事に返り討ちにされたんだよ。しかも塩の代わりにこいつら貰っちまったから、どうしたもんかなーと思って」
「……思って?」
「まぁ、遠慮せずに食っていいぞ」

 SHIT!!

 思わず汚らわしい言葉が漏れそうになったのをなんとか堪えつつ、しかし予想が的中してしまった事に私は落胆した。
 こいつ、全部ぶち込んで煮込んでやがる。なんとも言えない臭いの正体はカップ麺だった。
「うおーすげー、激苦お鍋に勝るとも劣らないレベルのグロさだ。新メニューだよこれ」
「ちょっと、これ時間置いたら麺がふやけて不味街道まっしぐらじゃないの」
「うーむ、カップも積もればなんとやら」
 こういう類には慣れているのか、みんな好奇心の目でもって鍋の中身をじろじろと観察する。
 私も意を決して鍋の近くへとやってきて、ムンムンと漂う煙に負けずに鍋の中身を見るべく顔を近付けってくせぇ!
「……うわぁ」
 としか言えなかった。
 チョコポテトチップスなんて物がコンビニに並ぶこの時代だ。カップ麺の種類なんて全世界を渡り歩けば腐るほど種類がある。まぁ基本的にカップ麺に外れはないと思うけど、それでもこんな事をしてしまえば当たりだろうとなんだろう外れに化ける。
 ちなみにチョコポテトチップスは食ってる内に吐き気がしたからすぐに食べるのをやめた。じゃがいもとチョコは似合わない。閑話休題。
「これ、食べるんですか?」
「お前はこれが食い物に見えないのか?」
 ゲテモノにしか見えねーよ。
 蛮勇の持ち主たるカズマとヤイバは戦地に赴くが如く「うおおおぉぉぉぉぉ!」と叫び、なんか知らないけどハルミちゃんが「すごいおとこだ」と台詞を返した途端にヒカルが怒ってカズマをぶっ叩いた。またなんかのネタなんだろうか。
 パウは私と同じように苦い表情をしていたが食べるつもり。かの究極の舌を持つリムさんもすでにお箸を持って臨戦態勢。ミキは我関せずと言った顔で椅子の隅に座って傍観……おいィ? なんか右手に箸持ってるんだが?
「え、えーっと」
 これ、私も食べなきゃいけないのか?
「ユリー」
「え、な、何?」
「はい、箸」
 SHIT!!
 いかんいかん、また漏れそうになってしまったわ、HAHAHA。逃げていいですか、私。
 つーかなんで所長の机の中に割り箸ストックしてんだヤイバてめぇ!

「おーい、誰かいるかー!」
 ふとその時、開け放たれた窓の外から誰かの声が聞こえた。
 すわ、救世主の声か。私は脱兎の勢いで窓に飛び付き、すぐさま窓の外を見回す。そこには意外な顔があった。


「ホーネットさん、生きてたんですか!?」
 これまた脱兎の如く所長室から逃げ出した私は、昨日私を護衛してくれたアルファチームと再開を果たした。
「おいおい、あんなので死ぬ俺じゃあないぜ。お陰様で、酒と餅はご馳走になれなかったんだがなぁ」
「とかいって、結局勝手に食べてたじゃねぇかよ」
 アースさんが遠慮せずに怪我人の足を小突き、その場に笑いが生まれた。
「それで、一体何をしにきたんですか?」
「お宅の所長さんとの約束でな。昼頃まで捕虜を好きにしていい事にしたんだ。殺したりはしない事を条件にな。あの嫌味なヒーローチャオはどうなってる?」
 そういえば、あのヒーローチャオの事をすっかり忘れていた。あれからずっと黒髭危機一髪状態だ。
「多分、顔を真っ赤にして泣き腫らしてると思いますよ。いろんな意味で」
「どういう意味だ?」
 マスカットさんのその疑問に、私は苦笑を返すしかなかった。
「まぁいい。とにかく捕虜は回収させてもらう。所長にもよろしく伝えておいて……」
「おーい、アルファさーん」
 私達の会話に、上から割り込む声が聞こえた。見てみるとそれはヤイバだ。
「宴会するんだけど、一緒に如何っすかー?」
「おお、参加させてくれー!」
「待てコラ怪我人、俺を差し置いて先に行くなー!」
 言うが早いか、真っ先に事務所の中へと入っていったのはホーネットさんだった。アースさんもそれを追いかける。
「まったく、遊びに来たんじゃないんだがな……。酒の類は出るのか?」
「多分出ないと思うけど……その、もっと酷いのが出てくるので、やめておいたほうが」
 私の口振りに、マスカットさんはまたも首を傾げるばかり。あんなゲテモノ、血を流すよりも苦痛なんじゃないだろうか。

「おーい、新人さーん!」
 そこへ、またも新しい声が風に乗ってやってきた。
 声のする方へ顔を向けると、凄いスピードで迫ってくる人影が一つあった。
「あれ、ミスティさん?」
 確認ができた頃には、もう目の前で着地していた。風圧に吹き飛ばされそうになりつつも、なんとか踏ん張る。
「おっと、失礼」
 謝りながら、ミスティさんはリュックの中のフウライボウさんを地面へ降ろした。
「昨夜以来だね。気絶したって聞いたけど、大丈夫?」
「ええ、特に怪我もないですから」
「そっか、よかった。そうそう、これをパウさんに届けに来たんだ」
 そう言ってフウライボウさんが私に手渡したものは、一冊の単行本だった。裏表紙には二人の名前が記されている。
「ほら、報酬だよ。また新作ができたから」
 本当に一冊の本で仕事を引き受けてたのか。私はただ、パウのサービス精神に驚くばかりだった。
「ところで、みんなはどうしてるの?」
「所長室で鍋パーティ中、なんですけど」
「あー、なるほどね。じゃあ、私達も早めに帰らないと」
「おや、あなたがたは参加しないのですか?」
 マスカットさんが慣れた様子でミスティさんと会話を交わす。この人達、知り合いなのかな?
「生憎、私達の舌は一般人レベルだから」
「ん? ……ははぁ、なるほど」
 それを聞いたマスカットさんが、理解したような声を出した。「こりゃ早めに連れて帰らないと、軍医がうるさいな」と付け加えて。
「それじゃあまたね、新人さん」
「また何かあったら来るから、その時に」
「あ、はい。お気をつけて」
「ぬわーーっっ!!」
「まずいな、急いで救出に向かってやらないとな」
「不味いだけに?」
「ああ、全くだ」
 そんな楽しい言葉を交わし、私達は笑い合った。


 日差しは、私達の笑顔のように輝いていた。

このページについて
掲載日
2010年10月15日
ページ番号
18 / 18
この作品について
タイトル
小説事務所 「can't代 Therefore壊」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
2010年6月12日
最終掲載
2010年10月15日
連載期間
約4ヵ月6日