3つ目の話 新しく始まる非日常

─召集状─ 3つ目の話 新しく始まる非日常

─「逆にボクらが感謝します」─
ふたりがそう言って、奈美の家へやって来てから、3日が過ぎました。
さみしいから、家に来てくれるかな、と、ふたりに頼んで、3日。
奈美は、あのあと、ふたりに、
「あの子達に代わって謝るわ─勝手に、ごめんね」
と謝ったのです。
涙がぽろぽろ、止まらないまま。
レイナがそっと、しゃがみこんでいた奈美の肩をたたいて、
ソルトが、かけた言葉が、あの言葉でした。
それから、寝て、起きてをくりかえして、のろのろと3日が過ぎていったのです。

ふたりは、近くの公園を軽く走ったり、木をゆらす練習をしたり、大会に備えていました。
さすがに初日は、なんだか悪い気がして、じっとうつむいて座っていましたが、奈美が、
「気にしなくても良いよ─あの子達の分も、頑張って。」
と、声をかけると、寂しげににっこりして、それでも元気に外へとびだしていきました。
その後姿が奈美には懐かしく思えるぐらい、その日は長い一日でした。

その日、奈美は、小さなメモを握って、パソコンの前にじっと座っていました。
そして、意を決したように、キーボードに手を触れました。
遠く離れた中立国に住む、「彼」に、メールを送るために。
本文の欄にカーソルを移して、ペチペチと文字を打ち込みだします。

─お久しぶり、奈美です。
 チャオの研究は進んでるの?
 訳を話すと長くなるけれど、3日前に、うちのチャオたち─陽斗と羽月が─

そこまで書いて、奈美は手を止めました。
やっぱり、出兵のことは書かないでおこう─・・・
バックスペースのキーを何度か押して、一行だけ消して、こう書き換えました。

─こっちは、いろいろと順調です。─

なんだか、嘘をついているようで、気になりましたが、とりあえず続けます。

─ひとつ、聞きたいことがあるんだけれど、
 そっち、チェリーとは近いよね。
 ・・・チェリーって、出兵したチャオたちは、どんな風にしてるの?
 なんか、ちょっと訓練したらすぐに戦場に送られる、って聞いたけれど、本当なの?
 ほら、こっちでも徴兵されてるから、ちょっと気になって・・・
 それじゃあ、また。─

送信─
奈美は、ふぅっ、と、長くため息をもらしました。

もう、ふたりは寝てしまっています。
いつごろ返事が来るかなんて、見当もつきませんけれど、
なんだか、彼に話を持ちかけたことで、ちょっと一段落ついたような気がしたのです。
でも、実際には、まだソルト達との生活も始まったばかりですし、
陽斗も羽月も、まだあっちでバタバタしているのでしょうか。
本当はまだ7歳なのに、10歳以上のチャオのふりなんて、できるのかしら─
ちょっと前まで、幼稚に遊んでいた二人の姿をまぶたの裏に浮かべて、ベットの上でごろごろ。
でも、数分後には、奈美もぐっすりまぶたを閉じていました。



「ねぇ、陽斗・・・ありえないよぉ、こんなの・・・・」
羽月が、つぶやきます。
宿舎のなかは、ざわざわと話すチャオたちで、いっぱいでした。
二匹がここに来て、3日ぐらいでしょうか。
だというのに、もう、戦場に出ろ、と、指令が出たのです。

確かに、チャオは、人間より物の扱い方の覚えは、いいとされています。
だからといって、たった三日で兵器の使い方をたたきこまれて、戦場へ送り込まれるなんて、とんでもない話でした。
それだけ、よっぽど人材が足りないということを、身にしみて感じます。

不安でした。もう、どうしていればいいのか、わからなくて。
いつ、周りに、自分たちがまだ7歳だということがばれるかも分からないのに、
もう、戦わなくちゃいけないなんて、思ってもいませんでした。
せめて、もっと訓練してから出るもの、と思っていたのに。予想以上に、ジパングは苦戦しているものと思われます。

薄暗い宿舎の中、二匹は、ただ呆然と立っているほか、ありません。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第150号
ページ番号
5 / 9
この作品について
タイトル
─召集状─
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第148号
最終掲載
週刊チャオ第157号
連載期間
約2ヵ月5日