2つ目の話 偽りの出兵
─召集状─ 2つ目の話 偽りの出兵
今日も、二匹は、元気よく青空の下へ出かけていきました。
気持ちのいい朝です。
青空は、今日は良い事しかない、と言っているみたいで。
なのに、奈美のもとに、二匹はもう帰ってきてしまったのです。
まだ、空は青いのに。
まだ、出て行って、数分しかたっていないのに。
なのに、ドアは二匹によってまた開かれたのです。
「いない、いないよぅ!」
陽斗があわてて駆け込んできました。
それにつづいて、羽月もです。
「ソルト兄ちゃんも、レイナ姉ちゃんも、いないの!!」
「え?いない?─って、公園に?」
「いないの!」
奈美の目を見上げて、二匹はあわててうろちょろかけまわりました。
「うーん、寝坊したんじゃない?」
奈美は、表情と口先だけは、そう思っているように見せました。
でも、内心では、もっと不吉な予感がしていたのです。
─そうよ、寝坊しているだけ─そう言うことで、奈美は自分をそう思い込ませようとしました。
「寝坊?」
「うん・・・」
「そうなの?」
「多分・・・」
「本当に?」
「きっと・・・」
ぼーっと返事をするだけの奈美の返事を真に受けて、幼い二匹は、
「じゃあ、おうちのほう、行ってみようか」
と、顔を見合わせました。
「いっちゃった・・・」
ドアは、半開きのままです。
本当に、寝坊しただけだったら、どんなにうれしいだろう。
別々に住んでいるし、奈美は家に上がったことも無いけれど、
もし本当に寝坊しただけだったら、あの2匹を、だきしめちゃうかもしれない─
奈美は、そう考えながら、玄関に座り込んでいました。
目頭がちくちくします。
でも、そんなようじゃ、あの子達が帰ってきたときに、びっくりしちゃうかもしれない。
あっ、ちがうちがう、寝坊しただけなんだから、起きてきたら、ここに戻らずにそのまま公園の方へ行っちゃうでしょう、まだ帰ってこないのよ─
それでも、恐ろしい考えが、奈美の頭を離れませんでした。
もしかしたら、あんなにあの子達に優しくしてくれたふたりに、「召集状」が出されたんじゃあ・・・と。
この戦争では、民間人が住んでいる町への攻撃は、条約で制限されていました。
つまり、戦いが行われるのは、戦場だけ。
この「ジパング国」では、世界の人口は増え続けているにもかかわらず、
少子化が進み、人口は国内のみで減っていきました。
つまり、兵士が大人の人間だけでは、足りないのです。
それで、男女15歳以上の人々の中には、強制的に戦場へつれて行かれる人々もいました。
それでも兵士はたりません。
しかし、ジパング国は、チャオの数は他の国より圧倒的に多かったのです。
そこで、ジパング国が取った選択肢は─
スキルが全て2000以上の、転生した分も含めて10歳以上のチャオは、出兵すること─「チャオ徴兵令」だったのです。
奈美は、小さいころに重い病気で入院したことがあるので、対象にはなっていませんでした。
それに、うちの子は大丈夫。だって、まだ7歳なんだもの─
でも、この町には、ソルトとレイナという、徴兵対象のチャオがいたのです。
そんな奈美の願いもむなしく、今日は、出兵の日。
奈美は、目を伏せながら、チャオたちの部屋へ向かいます。
もう、遊んでくれるあの二匹は、今日でお別れだけれど、起こさなきゃ─
目頭だけがうずいて、涙は出ません。昨日の晩の分で、もう枯れてしまったのでしょうか。
でも、ドアを開けたとたん、その部屋は、いつになく片付いていました。
いえ、荷物自体が減っているのです。
そして、あのチャオ達の姿も、ベットの布団をどかしても、ありませんでした。
奈美は、呆気にとられていました。
状況が、さっぱり理解できません。
奈美は、まだなにがどうなっているのか分からないうちに、ベットのそばのランプが乗ったテーブルに、小さな封筒がおいてあるのに気がつきました。
この前、羽月が奈美にねだってかってもらった、あのレターセットのものでした。
奈美は息を落ち着かせて、テーブルのほうに歩み寄りました。知らない間に、呼吸まで荒れていたのです。
奈美は、封筒を手にとって、そっと開けました─