傷心

「…おい。」
「…ここは…?」
「目覚めたか、『冬』」
「冬…私の名前ですか?」
「そうだ。」

冬は上目遣いで、自分の声を呼んだ主を見ていた。
そして、その男を見た瞬間、
それは「某」という名前と言うことに、気が、ついた。

「某…。」
「そうだ、私は某。お前を創造した、主…だ。」
「某…俺は何をすればいい…。」

冬は感情を持っていなかった。
と、いうより、持たされていなかった。

某は「何をすればいい」という冬の問いにゆっくり答えた。

「お前は、地球という星を侵略するために、生まれた。」
「侵略…。」
「そうだ。お前に感情はいらない。ただ命令に従え。」
「はい、分かりました。」

某はふと、自分の手を、
いつから居たのだろう、目の前の瀕死の人間に、
そっと、手をかざす。

刹那、冬はその身体から青い光が出てきたことに気がついた。
某は言った。

「これが人間の『魂』だ。
 その人間の知性、感情、性格、…全てが入っている。
 お前は、これを取り出す能力を持っている。」

「…そして、取りだしたら、どうすれば…。」

「お前と共に「ろっど」が参加する。
 そいつがその青い光を採集する。
 ただ…お前は、決して青い光に触れてはならない。 
 その人間の性格が…全て反映されてしまうから。」

某は彼に手をかざす。
すると、冬の視覚がどんどん歪んできた。

「さぁ、行け、お前は殺すためだけに生まれた男だ…」



「…ここは…」
「来たか、冬。俺がろっどだ。」

そこは一面草原の、きれいなところだった。
むろん、それが感情の無い冬に取っては「ただの草原」だが。

「俺は人間から敵視されていて、動けない。
 この近くに人間の村があるらしい。
 おまえは、その場所を伝えろ。あした、殺戮を実行する。」
「分かりました。」

冬は、静かに答えた。
ろっどの居たところを見ると、彼は既に消えていた。

「…この近くに…村…か。」

冬は適当に当たりを見渡していた。
と、草原の向こうの森から煙が上がっている。
何かを料理しているようだ。

「そうか…。あそこか…。」



冬は歩き続ける。
森を抜けると、大きな広場があった。
みんな料理の支度に忙しそうで、
誰も冬には気づかないらしかった…が、

その時、一人の女の子が歩いてきた。
まだ、5才くらいの、小さな女の子だ。

「うわぁ…お兄ちゃん、誰?」

その女の子は冬に話しかける。
冬は気づきはしたが、しばらくは相手にしなかった。
が、その女の子は動じず。

「ねぇ、お兄ちゃん!ちょっと丘へ来てくれない?
 いつもは友達と行くんだけど…今日はお祭りがあるから…。」
「…。」

冬は最初は行く気がなかった。
だが、冬は場所を確認したあと、
その村の位置を知らせるということもしないといけなかったため、
仕方なしに彼女についていくことにした。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第279号
ページ番号
1 / 2
この作品について
タイトル
傷心
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第279号