№15

「俺達チャオは、太古の昔から存在していた」
いきなり的外れな話題が出現した。
「それからずっと、この時代にまで生き続けたチャオ。それまでは大した知能や能力の進化もなかった」
……学生時代の頃、授業で聞いたフレーズだ。
「だろうな。人間がこういう文化を作り上げ始めた頃、チャオの進化は人類と同じになったって授業だったろ」
「はい」
「いつしかチャオは人間と何ら変わりない存在となって、人間とチャオの共存が始まった。いつごろだか覚えてるか?」
「……1世紀ぐらい前、でした」
授業しにきたんじゃないんだが。
「1世紀前。確かにそうだけど、それは極一部から始まったわけだ。だけどこの極一部、というより最初にどのようなキッカケで共存が始まったかは知らん」
確か、いまだに謎だったと聞いた。
「今みたいに本格的に人間とチャオが協力しあうようになったのは大体10年前」
私が幼少の頃だ。あの頃は確かにチャオ専門学校みたいな感じだったと思う。
「その数ヵ月後、奴らは動き出した」
「奴らって……」
「裏の世間の話だ。……『常識派』と『非常識派』だ」
「変な名前ですね」
「そりゃそうだ。俺達が勝手に呼び始めたんだからな。シャドウって奴がいたろ? あいつの組織も面倒だからそう呼んでるよ」
なんと投げやりな。
「それぞれの組織にはこういう考えがある。前者は『この人間との協力性をより一層高め、共存を続けるべき』。後者は『我々は人間ではない故に、孤立せねばならない。人類に劣らない文化を築くべき』ってな考えがある。」
「前者が正義に聞こえますね」
「正しい正しくないは決められない。そういうのは時代によって決まるからな。人間だって、戦争の事は今でこそ良くないと思ってて、昔は戦争に集中してたからな」
あぁ、なんとなくわかるような。
「そう、時代が決めるんだ。だから正しい正しくないについては何も言うな」
一段落つけたところで所長が炭酸飲料を一口飲んで、すぐに話を再開させた。
「俺達はそれなりに前からこの事務所で働き始めてたんだけどな。噂は聞いてるだろ?」
あぁ、どこぞのうるさい会長から聞いたっけな。そういえばここに入るキッカケもあの会長が作ってしまったんだったっけ。
「あいつらからしたら、俺達は『人間と共存しているのか、孤立しているのか』って、ハッキリしない存在らしいんだ」
あぁ。
「おかげさまで肩が痛くなってくるよ。年でもないんだがな」
十分年をとっているような行動を見せて、深くため息を付き始めた。ここで疑問。
「たったそれだけの理由で狙われてるんですか」
「ああ。それが?」
「それがって……」
またため息をついて、
「あいつらは、今後のチャオの存在を絶対的に作るつもりなんだよ」
所長は切り出した。
「チャオは1世紀前から進化し始めた。確かにあった過去だ」
はぁ。
「今のチャオと、1世紀以上前のチャオを比べてみろ」
……1秒しか考えていないのに酷い差だと感じた。
「あいつらは過去の自分達に絶望したんだよ。それで、その過去と決別しようって矢先に、今後の方針が決まんなくなったんだ」
そう聞くと政治問題みたいに思える。
「あぁ。確かにあった過去を捨てようと思うほどバカな奴らなんだよ、あいつらは」
「捨てようって……」
「……俺としては、過去を捨てるなんてバカは好きじゃないね」

突如として、所長の態度が変わった。
「現実すら捨てようとしてるんだよ、あいつらは」
現実?
「俺達チャオの過去は、無能だった。それは現実である。それを恥ずかしいから捨てようって話さ」
「極自然な事じゃないんですか?」
「極自然さ。だからいけないんだ」
その頃には所長が炭酸飲料を飲み干していた。
「過去を失う分には問題ない。けど、現実を失えば絶対に後悔する」
何かを思い返すように見えた。
「お先真っ暗になりたくないなら、過去を見つめろ。現実を見つめるのと同じだからな」
その時、また雷鳴が鳴り始めた。




――過去を?
あの館から出たあとに思い出したあの光景がフラッシュバックする。
暗い道路。酷い嵐。轟く雷鳴。あの人の最後の顔が浮かんだ。

――私の、過去。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第287号
ページ番号
16 / 17
この作品について
タイトル
小説事務所 「山荘の疑惑狂想曲」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第266号
最終掲載
週刊チャオ第287号
連載期間
約4ヵ月28日