№13
「じゅ……っぷん?」
えーっと、何が十分と言ったのだろうか。
「爆弾が爆発する残り時間」
どの爆弾ですと?
「ここの」
カップ麺3個食べた後は何をしろと言うのですか?
「それこそバカだ」
所長にことごとくカウンターされて終わる。
「少なくとも、たった十分なら十分だ。五分でも済む」
その台詞は一種の駄洒落という奴なのだろうか。軽く鼻で笑いつつ、所長の銃は敵へと向け……てない。向けるつもりはないらしく、軽い態度で所長は言い放った。
「目的を、言え」
その一言の重みに、軽い沈黙を感じたが、気のせいだろうか。
「だから、その子に興味があったから」
こおりまくらのクセして私を堂々とその子呼ばわりしないでいただきたい。冷凍庫よりタチが悪い。
「バカ」
私がカウンターされたように、軽くカウンターを喰らっている様子。さて、実際のところはどうなのかいい加減にしてもらいたい。
「興味だよ。キョウミ。漢字はわかるよね?」
「漢字はわかるがお前の目的はわからん。だから言え」
ダメだ、しばらく終わりそうにない。うっかり爆弾の事を忘れ去りそうに……ってうおいっ。
「……ふう」
観念でもしたのか、こおりまくらは深くため息をついた。オモチャオって息するっけ?
「君達の内部情報だ」
内部情報? それと私との関係性とは一体……って、一応私も所員か。
「つまり、この新しい所員を連れ去り、情報を聞き出そうとした、というのか?」
ズバリ、シャドウの言う通りだというように手をひらつかせた。
「まだ一週間しか所属してないコイツからか? やけに薄い情報を頂こうとするんだな?」
全くもって。というか、大した事は知らないんだが。
「それでも、僕達には大小なりとも価値はある」
多少なり口が変わった。
「君達も以外と大胆な行動をしてきたけど、それだけじゃあ分かりやす過ぎる情報しか取得できない。内部の情報がほしいんだ」
そんな重要性を感じる情報を私から?
「スパイを置いといてもあまり効果がなかったしね」
え、いたのかスパイ?
「あぁ、そういやハルミが黒服着た人間が事務所の裏にいたから骨を二本くらい折ってやったとか言ってたっけ……」
え、ハルミちゃんが? そんな事するんですか? 全然理解できませんです所長。
「あぁ、そういえばあいつ等、コドモチャオに骨折られたとか。間違いなかったんだね」
……末恐ろしい。
「こうなったら他に方法がないと思ったんだけど、おととい情報が入ったんだ。『極一般的なチャオが約1週間前に小説事務所に入った』ってね」
はぁ。
「僕等が目につけたのは『極一般』だ。僕等に対して戦力となりそうにないチャオが事務所の情報を取得している可能性を持っている。これ以外に内部情報を知る方法は無いと思った」
あぁ、それは簡潔に言えば『カモがネギ背負ってる。待ってられないから捕まえる』とかいうのだろうか。悪いがネギなんてほとんど持つ機会はない。
「……なんでウチに入って来たんだよお前」
いやいやいや、あんたが簡単に入れたんでしょ。
「あ、ゴメン。後5分くらいだから。んじゃ」
え?
その台詞を聞こえたと思ったら、すでにこおりまくらは消えていた。
あと、5分?
「結局、俺たちは釣られただけに終わったようだ」
シャドウの声が聞こえた気がした。が、知らん。今、奴はなんといった? あと5分って爆弾の事なのだろうか?
「やれやれ、さっさと帰るしかないよな」
所長の声まで聞こえた。それよりあと5分って、
「死にたいならここにいていいんだぞ、ユリ」
「却下しますっ!」
言うが早いか、私はさっさと走り出していた。
外へ出ると、さっきから嵐のように酷い雨が降り注いでいた。というか、嵐だ。
当たると痛いほどの雨を切り抜け、私は屋敷の敷地内を抜けて走り出していた。後ろを見ると、所長達も私の後ろを走っている。なんか怒ってる気がしなくもないが。
あたりはかなり暗いが、道は何とか見えている。パウさん達はどこにヘリを止めていたかを必死に思い出す。確か、付近としか聞いていない。まぁいいか。
それと、外に出たら連絡をよこせと言っていた気がする。頭にあるカチューシャ型の通信機を利用して……って、マイクが壊れてたんじゃないか。
『こちらゼロ。爆弾設置完了、ユリと共に脱出をした』
……手間が省けた。
『ありがと、ゼロ君。君だけだよ、連絡よこしてくれたのは。他のみんな、急いでたから連絡よこさないでコッチに付いちゃったよ』
どうやら全員無事らしい。これなら先に館を出て行ってもよかったんじゃないだろうか。
『あんまり安心してられない。思ったより爆薬の量は多い。お前達、今どのあたりにいるんだ?』
『館から推定50m以内』
ミキが勝手に答えたあと、しばし沈黙があったが、
『わかった』
そこで通信は終わっ――
突如として、爆音がした。