№12

さて、前ページ分に配置された銃声の効果音が表現されたコンマ数秒の先、私は本当に硬直させただけの顔になっていた。本当に所長が私に向けて銃を放ったと思ったからだ。
……まぁ、一応生きてるからそれはなかったようだか、じゃあなんだったんだろうね。しばらく思考も止まってたからわからない。
「…………」
やけに沈黙が長い。そろそろ私の頭がはっきりする頃には、生真面目な顔で明後日の方向に顔を向ける所長がいた。後ろを見ると、シャドウも同じ行動をとっている。2人して馬鹿にしているのかと思う。
が、そんな訳ない。私もそれにならって明後日の方向に顔を向けた。そこに答えはある。

第三者だ。


「誰だ、勝手に爆弾を仕掛けたのは?」
そこにいたのは1体のオモチャオだった。
「また会ったね、所長殿と所員殿」
悪いが、オモチャオなんていうのは作る側のお茶目がない限り全て同じ形をしているから区別はつかない。が、ここは勘でわかるところだろう。
「こおりまくら!」
今も覚えている。あのオモチャオのデフォルトニヤニヤ顔が嫌に意味有り気に感じたあの時。ミキが気にしていたのもそれだったのだ。
そのオモチャオは右手にさっきまでシャドウが仕掛けていた爆弾が積み上げられ、左手にはカオスドライブが握られていた。
「あっれぇ~? よくわかったね。一応誤魔化しを入れたつもりなんだけどな」
三流脚本使用の映画に出演した補欠要員みたいな演技だった、という感覚が漂ってきた。
「ま、一応じゃバレるか」
「それより、お前は常識派の1人なのか?」
常識派。所長はそう発言した。また聞いた用語だ。
「ん、まぁね」
「では聞こう。目的はコイツか?」
シャドウが私を指差してそう言った。さっき無線会話を聞いたが、どうやら事務所に入って一週間という私に何か価値でもあるのだろうか?
「よくわかったね」
……まさか。
「ここ一週間のウチに調査してみたけど、明らかに一般的なチャオだ。大したプロフィールも持ってない。それなのに異系視されてる事務所に所属するのはおかしい」
イマイチわからないが、私が事務所に所属したのは偶然所長とカズマと接触した事をうるさい会長に知られてしまったからだ。それがどうしたというんだか。
「だから、何らかの理由で無理矢理所属させたんじゃないかって思ったんだ。で、せっかくだから助けてやろうかってね」
は?
「別にそんなんじゃ……」
思わずポロリと口に出た。
「それに、なんで私を閉じ込めるんですか? 助けるって話じゃないでしょ?」
「いやぁ、随分仲良く行動してるからさ、情でも移ったんじゃないかと思ってね。多少なり荒っぽい方法でも構わないかと」
どういった偏見だ、どういった思考だ。明らかにそんな話はない。常識じゃなくて非常識じゃないのかそれは。
「それに、僕達も随分大人しくしすぎて痺れを切らしてた所だからね。良い機会じゃないかってさ」
「そりゃあいいや。俺達にとっても良い機会だ。少し暴れておきたいんだけどな?」
手をひらつかせて所長が言い放った。やるのか、こんなボロ家で。
「バカかお前は」
いきなり声が響いた。シャドウか?
「いい加減に学べ。体が鈍るのはわかるが、今暴れても何の価値もない」
「うるっさいバカ。やらせろ」
「バカはお前だ」
このご兄弟は随分いい家庭を作っていけなかったようだ。すっかり顔がムカムカになってしまった所長だが、すぐに諦めたのが顔に出た。
「これでよし」
「は?」
いきなり「これでよし」とはなんだ。思わず声を揃えつつ明後日の方向に向き直った。
「あと10分で爆発だ」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第277号
ページ番号
13 / 17
この作品について
タイトル
小説事務所 「山荘の疑惑狂想曲」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第266号
最終掲載
週刊チャオ第287号
連載期間
約4ヵ月28日