№10
「そうか。今回動いているのは常識派。恐らく……」
思わずさきほど思考を働かせていた『常識派』という単語にピクリと反応したのだが、シャドウはそれには応じず、またも無線機を取り出し始めた。
「こちらシャドウ。恐らく今回の常識派の目的は、先週事務所に入所した新入所員の奪取だと思われる可能性を見つけられた」
は?
『新入所員の奪取だと? どういう事だ?』
うんうん。
「彼女は所員のように常識、非常識の両思考と能力を持ち合わせている訳ではないらしい。どうやら常識的な思考と能力を持っている」
本日3回目になろうとしているが、あえて言おう。は?
『そうなのか? だとすればチャンスだ。奴等は隠密行動に出るはずだ。少し突付けばすぐに相手の体制は崩れる。何か大掛かりな行動を取れ。どんなものでも良い、私が許可する。OVER』
「了解した。現状の装備を利用し、破壊工作を取る事とする。OUT」
さて、本日4回目にしてやろうと思ったのだが、あえて言わないでおこう。言ってる暇もない。シャドウは今なんと言った?
「あの、破壊工作って……」
「言葉の通りだ。ココを爆破する」
待て。待て待て待て。
「待ってください!」
「所員の事か? 大丈夫だ、俺達は奴等が死なれちゃ困る立場にある。殺すつもりはない」
あ、あぁ。それなら安心だ。
「探しに行こう。今の状況くらいは報告すべきだろうな」
さっきから聞きたい事ばかりだというのに話が進みすぎて話が分からなくなってきてしまった。
そのまま歩いていくシャドウの後を追いかけようとした。……って、あれ?
「あの、さっきからどうやって無線連絡してるんですか?」
「はぁ?」
後ろを振り返ってポヨを疑問符に変えた。
「無線機を使ったんだが」
それは私にもわかる。そうじゃない。
「確か、この辺でチャフが働いてるって……」
「あぁ、その対策用に広域の周波数帯の強度補助のアンテナを使っているんだ」
そういえばアンテナのようなものが付いていたような。……という事は?
「貸してください」
「何故だ?」
決まっている。
「連絡を取りたいんです」
何も言わず、無線機を取り出して渡してくれた。
私はそのままカチューシャを取り外して裏側を見た。そこの機械部分の一部に数字が書かれている。その数字と同じ数字を無線機で指定して、使う。
連絡相手はただ1人。
『こちらゼロ。誰だ?』
繋がった。声も間違いない。本物なハズだ。
「どうやって無線連絡したんだ」と、チャフが働く中にふと思ったような声色だ。
「所長ですか? ユリです」
『ユリか!?』
当然の如くか、驚きの声が無線機から響いてきた。
『ミキはまだ帰ってきてないだろう。どうやって?』
「臨時の協力者のおかげ、とでも言っておきます。それよりも一つ連絡します」
シャドウに苦笑混じりの表情が浮かんだ事を確認しつつ、言った。
「もうすぐこの館を破壊しようと思います。私が一応全員に連絡を回します」
『破壊? なんで?』
さきほどのシャドウの無線連絡を思い浮かべつつ言った。
「えっと……常識派? っていう組織の狙いは、確か、私……です。私を連れ出すのが目的です。だから、その一派の隠密行動を崩す為にです」
そのハズですよね、とシャドウにアイコンタクトを送る。それにシャドウはコクリと頷いて答えてくれた。
『……なんで知ってるんだ?』
間が抜けたような声だ。まぁ、そうだろう。
「臨時協力者からの情報です。とりあえず、そういう事で――
『了解だよ。聞こえる?』
――この声は。
「パウ!」
どうやらミキと共にヘリ搭乗で戻ってきたらしい。
『おいおい、さっきから騒がしくしちゃって、蚊帳の外はイヤだよ?』
『あぁ、ゴメンねヤイバ。それより、本当だねユリ?』
どうやら総員無事らしい。ひとまず安心できる。
「本当です」
笑って答える。
『ココに来る時には気付かなかったけど、どうやらココって山の山頂らしいよ。酷い森だったからなかなか気付かなかったけどね』
そうだったのか。
『破壊工作の実行の場合、ヘリ使用の上空避難を行わなければ生還は困難。付近にヘリを停滞させているので、至急戻って欲しい』
パウさんに代わってミキさんが丁寧に説明してくれた。
『そう。だから、とりあえず先にその館から出たら連絡して。そしたらヘリを起動させるから!』
『わかった!』
ヤイバさんが先に応じて、総員通信を切った。
「シャドウさんは、どうしますか?」
さっきから苦笑混じりした顔で無線連絡を聞いていた人物にそう問いかけてみた。
「独自の脱出経路を用意してるつもりだったんだか、少し変更を加える必要があるな。同乗させてもらおう」
その言葉を聞き終わりつつ、すぐに行動に出た。階段を駆け下りて、私は館の外へと向かう。