№8

「君に問う。君はどんな存在だ?」

――真っ白い空間。買ったばかりの自由帳のように。

「君は何がしたいんだ?」

――そこに、ただ無邪気な世界が広がっていった。

「君の望むべき結果とはなんだ?」

――だが、それはすぐに止まってしまった。

「君の思う道とはなんだ?」

――しかし、変化があった。

「君の運命はなんだ?」

――そこに、希望が書き込まれていった。

「僕は、君の生き様を見届けよう」

――そして、それは形として形成されていこうとして――

「君の思う未来を辿れ」








「いッ!」
痛い、頭が痛い。非常に痛い。
「たたた……」
どうやら額を壁にぶつけたらしい。

――君の思う未来――


「夢……」
だったらしい。というか、いつの間に寝ていたのだろうか。
顔を天井に向ける。いまだに狭い一室にいるらしい。今頃助けられてもいいのだが、誰も来ていないらしい。そう長く眠っていたわけでもないようだ。
頭がズキズキする。とりあえず状況確認をするため体を起こすと、体の節々が痛む。チャオに関節云々があるかというと、とりあえず人間とは異なる形で存在すると言っておこう。とりあえず痛い。
伸びをするとちょうど良い具合に肩だか首だかがポキポキと音を鳴らす。もう一眠りしたいぐらいにダルいが、次に起きたら体が起きなくなるかもしれない。
さて、と。さっきの夢がいつまでも頭にこびりつきそうな程に頭に残っているが、それを考えるのは忘れるくらいにどうでもいい。まずは、だ。
チャフとかいう妨害電波が働いている為、最上階以外の詳細な場所はわかっていない。そして、ここはボロいくせに広い。故に少し時間がかかる。少しは脱出というものを考えよう。
生き物は水を溜めたらどこかに漏れ出すように、いかなる状況でも脱出の方法はある。チャオの水はどこへ漏れ出すかはともかく、何か脱出できるキッカケを探すのが――


あった。


「…………」
ミキ並に沈黙し、
「私は馬鹿か」
ウマ・シカと書いて馬鹿と読むか、それがどういった理由で生まれた単語かは考えるのはさきほどの夢並にどうでもいい。
私はこのボロ家に来てから「ボロ」という単語を何回発言しただろうか。
数える気もないのに数えてしまった。今の発言を含めて、10回以上だ。正確ではないから、数えるのは他人任せだ。
という訳で、キーワードはボロ。そこの鉄製の扉はボロくはない。壁もボロくない。天井も……ボロくない。が、何故か床だけが木製だった。いわく、ボロ。
ここまでくれば私の行動はおわかりだろうか。下が針山で無い事を祈ってかかと落としをクリーンヒットさせるだけだ。
苛々、今までの思考力の浪費率、体の節々の痛さ、いらぬ夢、ついでに延滞料金分も含めて――



バキッ

「いっ!?」
さっき起きたよりもマヌケな声を出してしまった。やばい、さっき頭をぶつけたよりもはるかに痛い。木が足に刺さったんじゃ。
むやみに八つ当たりしては良くないというどうでもいい教訓を頭に浮かべつつ、下を見た。
うむ、大丈夫なようだ。針のはの字もない。高さもヒモなしバンジーを安全に楽しめる程だ。

というわけで。
「とおっ」
少し遊び気分を混ぜ合わせてダイビングした。見事に着地。ギシとか言った気もするが問題はない。
周囲も問題はなさそうだ。誰もいない。ミキさんあたりがいれば嬉しいのだが、探せばいい。一応、個室という訳でもなく廊下のようだ。やっぱりボロい。
ちょうどこの位置から階段が見える。さっきの無線会話で所員総員で最上階へ向かっているのは確認済みだ。
案外早く合流できそうだ。期待で背中を固めつつ、急ぎ足で階段へと歩を進める。誰かが階段で待機しているくらいはしてるだろう。
と、階段が詳しく見え始める頃に誰かが階段からやってきているのが見えた。……黒い。
どうやらダークチャオらしい。後ろ姿だ。赤いラインのようなものが数本見える。ダークのハシリ、ハシリ二次進化のシャドウチャオと言ったところだ。……って。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第277号
ページ番号
9 / 17
この作品について
タイトル
小説事務所 「山荘の疑惑狂想曲」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第266号
最終掲載
週刊チャオ第287号
連載期間
約4ヵ月28日