№7

『そうか。ならミキ、一旦事務所に戻ってくれ。大至急だ』
そうです、ミキ様、大至急、急いで……何? 何ですって? 何ですと?
『何故』
ミキが代わりに問いかけてくれた。いや、私だったら問いかける前に即刻却下を申し上げる。もしここが法廷で尚も所長が意見を貫き通すなら間髪入れず有罪判決を下すに違いない。いや、今下してやりたい。
『恐らく常識派に属する奴等の罠だ。10分以内で事務所に戻って、ヘリを持って来い。接近したらチャフ効果を出来るだけ制御してくれ。俺が無線で合図するタイミングで……いいな?』
『了解した』
『それなら、僕も同行させてもらっていいかな?』とパウさんが名乗り出た。
『それはミキしだいだが、どうだ?』
『進路上の空間を真空に変更し、移動を行う。所々の休憩を挟み、10分以内での行動は可能』
『じゃあパウ、頼んだ。他の奴等は用心しながら最上階へと進もう。いいな?』
『それじゃあ、ミキが帰ってくるまで無線連絡はお預けか』
と、ヤイバさんの呟きを最後に、無線は切れた。
ふむ、事務所の地下に恐ろしい大金が眠っているのは既知であるので、ヘリがあってもおかしくはない。驚きはするが。
が、もっと考えるべきは別の単語、謎の固有名詞だ。所長が発した言葉の一つである。




 ――常識派――



名の示す通り、常識的思考の派等とか何とかの意味合いなのだろうが、一体何の事だろうか。
謎が謎のまま、時が経つのを待つしかないのだが、私は不眠症になるのは嫌いだ。よって、考えよう。
常識派。普通に考えて、派等というのは対立する関係があってこそ派等である。よって、非常識派や反常識派なんて名前をつけたのがいるに違いない。または妄想派とか。
で、先程の通信では所長が常識派を敵とするような言葉を発している。まず、敵だ。恐らく非常識派(仮名)に属しているのだろうか。

……予想終了。これ以上は私の想像力では続かないようだ。
ここはおとなしく助けを待つしかないようである。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第272号
ページ番号
8 / 17
この作品について
タイトル
小説事務所 「山荘の疑惑狂想曲」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第266号
最終掲載
週刊チャオ第287号
連載期間
約4ヵ月28日