№4
「の、前に。パウ」
所長がパウさんに目配せをする。それに肯定するように、リュックの中身を取り出し始めた。遠足用具じゃなかったのか。
私が心の中で微笑を漏らすウチに、2つの物体が現れた。一つはトランシーバーのような物。というか、正にそれ。それがヤイバさんの手に渡る。
ならばもう一つもそれなのだろうなと見ると、これは違った。パウさんが持ったままである。暗くてよく見えないが、四角の物体を模っていない。
「通信手段だ。なんかあったらそれに知らせろ。わかったか」
そういって所長が頭にある白帽子を手にとり、点検でもするかのように手を動かす。まさかそれがゼロさんの通信手段なのだろうか。
私はミキさんに目を向けてみた。やはり生物ではないかのように動かない。
「ミキさんがいれば、なくてもいいと思うんですけど……」
「それじゃ超能力じゃん。ミキは違うって」
笑顔でカズマさんからのツッコミ。まぁ、それは超能力に該当するのだが、いっその事何でもアリが嬉しい気がする。
……で。
「私達は?」
何気ない小声を隣に飛ばす。パウさんはこちらに笑顔を見せつつ、私のカチューシャを外した。そして先程リュックから出された四角を模らない……三日月の形に似た物体を私の頭に飾った。
「コレでいいかな」
三日月通信機の正体はカチューシャだった。一旦外して、試しにチェックをしてみる。
どうやらカチューシャの内側にマイクとイヤホンが仕込んであるようだ。邪魔にならなくてとてもいい。実用性までありそうだ。
そのまま笑顔でパウさんに返事を返す。笑顔と言うより、もうニヤケ顔だ。面白い発明をしてくれた物だと、誰だって思うだろう。
「面白い」
率直な感想を述べてみた。
さて。
その後適当な討論を済ませ(雑談並に意味が無かったが)、私達はそれぞれの場所へと向かった。
流石に温暖化の影響で少し暑い毎日を送っていたが、そんな物は欠片程の意味も無かった。背筋を固めつつ、歩を進める。
「肝試しなら、良かったんだけど、ね」
そう何気なくパウさんが喋りかけてくるのが凄く嬉しいのだが、それさえも苦い顔で返す事となる。
一つ一つの部屋を確認する度に互いに顔を見合わせ、解体屋よろしくジェットコースター10割分の力で勢い良く扉を開く作業を繰り返す。もう気力が持たない。
それなりに部屋の確認数は多いハズなのに、奥に壁が見えない。ココまで大きかったっけ。正面しか見てないので小さいとも大きいとも確認し辛かったが。だが大きい事に否定はしない。というか、出来ない。
背中が死後硬直並に固まる。それなのに足が容易に動くとはどういう事か。
「……怖い?」
虚を突かれた。いきなり低めの声、しかも真顔でパウさんが声をかけてきた。
「え、別に、その」
とりあえず、偽証。これが法廷なら検事あたりにノックアウトされる事だろう。
――バキッ
「きゃっ!?」
誰かが奇声を発した。
気が付くと私は床に尻餅をついている。目線の先に見えるのは……壊れた床に埋まった足。
「だ、大丈夫?」
斜め上からパウさんの声。周りを見渡すが、誰もいない。今の奇声は私の口から発せられたようだ。そういえば背筋がやけに冷えて固まっている感覚がする。
パウさんには苦笑で返しつつ、床にはただ怒りの念だけをぶつけておいた。何の反応も帰って来ないのは百も承知だが。
ゆっくりと足を床から抜いていく。少し穴が開いてくるが、何とか大丈夫そうだ。
「ゴメンね、驚かせ――」
――私は目を疑った。