№3

……はぁ?
この第一声を押さえ込み、改めてその別荘とやらを観察する。
一体どれほど苦し紛れの金を叩き出したのだろうか、恐ろしい程のボロ家だった。
まず、雨のせいで詳細は語れないが、周囲が殺風景である。雨のせいで荒れたとでも言い訳するのだろうか。
当の建物はと言えば、やはり雨でよくわからないが腐った木造家とでもいうのだろうか。雨漏りどころか水溜りが出来ていそうである。
ただ、無駄に大きな建物であるという事には異議を唱えられなかった。大きさがよければボロ家でも構わないのか?

と、古い扉を開く音が聞こえた。その先を見ると。

「早く入ろうよー」
チャイムやノックどころか、グッモーニンもハローも、私達が議論を交わす間も入れずにカズマさんが扉を開けていた。もう足が一歩家の中に踏み込まれている。
……うーむ、この時はどうコメントすればいいのだろうか。
「先に行くなよ、待てって」
「ボロ家だねー。本当に別荘なの?」
「うわ、ホコリだらけだぁ」
「古い洋館みたいですね、ココ」
……入って良いらしい。間髪入れずに全員ボロ家に入り込む。仕方なく私もその集団の後ろにつく。
入り際に軽く扉を蹴飛ばしてみる。
――外れた。よくこんな別荘に出かけていったものだ。肝試しでもしたいのか。夏はまだ先だというのに。
折角だから足で扉を粉々にしてから彼等を追いかけた。ココは立ち入り禁止と伝えるメッセージだ。誰も解読出来ないだろうが。





この山荘の家の構図を簡単に調べた結果、階層は3階建てと地下があり。そして、見る限りでは恐ろしく広いボロ家という簡潔報告があった。
玄関近くの棚に入っていた設計図がそれを示している為。間違いは無い。しかし、本当に広い。
「ところで、この建物はいつ建てられたのか、わからないかな」
地図を発見した、というより勝手に取り出したカズマさんに訊ねる。
「うん……って、おおー」
思わずポヨを感嘆符へと変えたカズマさん。その目線を追いかけると、このボロ家の正体は築15年の洋館だった。
掃除はしたのか? 間に合うのならば清掃の一つでもしておけばよかったものを。扉を蹴ったら壊れましたじゃ手遅れどころか掃除なんざ知らんじゃないか。
「そりゃボロい訳わなー……」
ヤイバさんがが呟き、近くの棚を蹴る。


バキッ


「…………」

バキッ、バキッ――


突然壊れた棚を見て、ヤイバさんが呆れた顔で棚を足で壊し始めた。先程の私と同じ心情であろう。ココは立ち入る場所なんかじゃないのだと。多分。
その小さな解体作業を私達は心行くまで見守り、10秒という長い時間を終えて話に戻った。

「ひとまず、4組に分かれて探索しようか」
所長がそう切り出し、話が進んだ。階層に合わせ、4組に分かれる。最初は所長とカズマさんとヤイバさんは選択権を放棄。
ヒカルさんの為に、とりあえず一緒になった(というよりそれ以外に選ぶ選択肢など見当たらないので)カズマさん。それに念の為としてミキさんが付き、3人の選択肢は消えた。
次にパウさんから誘われ、私はパウさんと組んだ。後は流れるように話が進み、所長とリムさん、あとはヤイバさんとハルミさんというちょっと理由が理解し難いコンビを結成。
その次は階層の担当であるが、ココはどういう基準で選べばいいのか迷った為、全員が選択権を放棄していたので、私の提案でひとまず私とパウさんのコンビは3階と決定した。
理由と言えば、私は下の階であるほどに危険ではないか、と考えたのである。ただでさえココまでのボロ家だ、上から木の板の嵐でも降られたらノックダウンである。
それに階段が崩れ去ったとしても飛び降りるでもして脱出可能だ、と踏んだ。完璧に私の偏見である事は間違いない。が、まぁ適当に考えればこうなる。
それからは次々に私が提案し、カズマさん達には地下を担当させた。ミキさんがいれば大丈夫じゃないのかと言い放つと、
「…………」
全員が表情だけで肯定を述べた。
ヤイバさんとハルミさんは1階担当。唯一戦力(誰と戦うかは知らないが)にならなさそうな為、すぐに脱出出来るようにといった理由。
あとは所長とリムさんを残った2階行きと決定した。ココからようやく調査が始まる。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第266号
ページ番号
4 / 17
この作品について
タイトル
小説事務所 「山荘の疑惑狂想曲」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第266号
最終掲載
週刊チャオ第287号
連載期間
約4ヵ月28日