№5

ココで私の脳内答案用紙を公開しよう。そこに私が記したのは「宇宙人」「未来人」「超能力者」「異世界人」「幽霊」「魔術師」などなど、アホらしい事が書いてあった。
それを大きく空振りしている物が正答と知った。人間? 地球上の代表的存在の、私達と最も身近に接している、あの。
「何があったんですか?」
「へっへっへ、ちょっとした好奇心って奴だよ」
今頃「へっへっへ」なんてわざとらしい笑みをする人がいるか。

訊くと彼は、とある日の帰りに「ヒカル」という名の女子生徒と一緒に家路を辿っていたという。
が、その途中で見つけた二匹のチャオを追いかけ、向かった先で誰かに殴られ、意識を失う。気が付いたら……。
「この体に、ね」
その体はその日見つけた二匹のチャオのウチの一匹のモノらしい。もう一匹はヒーローのヒコウとヒコウ二次進化。
「この事務所には、僕を含めて4人は人間がいるよ。そのヒカルは、今はお使い中」
それでは、後の2人は?
「その2人が例外なんだよ。元人間のチャオなんだけど、その体、試作体なんだよ」
試作体? つまり機械?
「とは違うかな。ちょっと難しい話だけど、チャオの体をいじって安全に意識を移せるようにしたらしいよ」
詳しい事はあんまり調べてないけどね。そう言って苦笑を浮かべたカズマさん。
「で、後の2人は誰なんですか?」
「さっきのハルミちゃん」
なるほど、灰色の理由が理解出来た。しかしあんな幼い子がチャオになったと?
「数年前にあの体なんだよ。今もまだ、人間で言ったら小学5年生だよ。僕は一応6年」
「はぁ……で、もう一人は?」
「所長室にいたでしょ?」
「え、ゼロさんしか」
「いたでしょ、一人」
「いなかったと思いますけど」
「いたってば」
「いないです」
しばらくポヨの疑問符合戦が続いていたのだが、突如彼が微笑を漏らした。
そこまで言われると少し不安になり、所長室にいた時の状況を再生した。……あれ?
「いたでしょ、灰色のテイルスチャオが」
「……いたと思います」
そう答えると、「ははは」と崩れた顔でカズマさんが笑い出した。
「影薄いなあ、ヤイバって」とか呟いて、微笑に抑えた。なるほど、ヤイバさんか。しっかり覚えておこう。忘れたらヤイバさんが泣くかもしれない。

「あ、そうそう。同じ試作体のチャオで人間じゃない子がいるんだよ」
「え? どういう事ですか?」
「試作体のチャオに意識を入れたらしいよ。人間で言ったら人造人間かな。元々監視役でココに送られたんだよ」
「元?」
「うん、今はそんな事する必要はないからね」
その必要性を失った事も訊いてみたいが、別にそこまで好奇心が働く私ではない。
「で、今はどこに?」
「そこ」
そう言って彼が指差した先には、ヒーローのオヨギタイプ。机の隅で椅子に腰掛け、物音一つたてないほど動かない無表情のチャオが一冊の本を読んでいた。
――全く気が付かなかった。気配というモノが無いんじゃないのか。
「ミキちゃんだよ。空間捻じ曲げ技と光学的超能力と機械分野が得意科目」
空間の捻じ曲げ? まるであのシャドウのようなモノだな。
「じゃあ、何かしてもらってください。その、空間捻じ曲げ技を」
「うーん……ま、いいかな。ミキ?」
そう呼ばれ、ようやく顔をあげた。そして、私の方向へ手を向けてきた。
次の瞬間、彼女の口が動いた。何かを呟いているらしい。が、聞き取れない。そして1.2秒程で手を下げ、読書に戻った。
「あの、何を?」
「じゃあ、試しにそこの本を取ってみて」
私の二席ほど隣にある本を指差した。言われるまま手を伸ばす。

「あれ?」
私の手が壁にぶつかったような感覚を伝えた。だが、壁などない。
「さっき、何か呟いてたでしょ? あれってパスワードを入れてるみたいだよ」
パスワード、って。どのような。
「ちょっと法則性があるんだ。何かの数字だったっけなぁ」
そう言って彼は明後日の方角を向いた。私はもう一度本を見る。何も見えない。だが、確かにそこに壁はある……らしい。
「取っていい」
その声の方角を見る。ミキさんだった。こちらには顔を向けず、ただ本を静かに読み続けていた。
言われた通り手を伸ばす。何の抵抗もない。そのまま本に手が届く。顔を上げると、やはり本を読み続ける彼女がそこにいた。
「後は、所長さんとその他かな。その人達は、まぁ何だ。魔法使い、とでも言おうかな」
魔法使いか。先程の答案用紙に寂しい点数が上昇した。
「僕達は見た事ないけど、昔はいつ殺されてもおかしくない世界にいたってさ」
「へぇ……」
「話しても意味ないだろーって言って、詳しい事を話さないんだよね」
ある意味興味をそそられる話である。話さないなんて言われたら聞いてみやがれと挑戦状を叩きつけているのと同じである。

その日、平和に時を過ごし、私は帰宅した。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第263号
ページ番号
5 / 6
この作品について
タイトル
小説事務所 「ユリ の 始まりの日」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第262号
最終掲載
週刊チャオ第263号
連載期間
約8日