№4

「あ、お久しぶりー」
「……はぁ、どうも」
お久しぶりも何も、1時間ぐらいしか経っていない。案内された部屋の先には、あの時のもう一匹のソニックチャオの「カズマ」さんがいた。
「じゃあカズマさん、私出かけてきますねー。後は宜しくお願いしまーす」
「うん、いってらっしゃい」
あぁ、出来れば出かけないでくれハルミちゃん。君みたいな子がいないと私は安心出来ないんだーっ。すっかり思考回路の狂った私はそんな事を考えていたに違いない。
「ふう……やっと男の子が増えたなぁ」
ふっはっは、真っ先の台詞がそれですか。私は女だっていうのに。
「え、違うの?」
「はい、よく間違われます」
「へぇ……まぁ、リボン付けてるもんねぇ」
……実は私は、研究会に入った後、流石にこれ以上男と間違われるのはゴメンだと考え、トゲの横に小さいリボンを付けていた。まるで効果が無いのは今の会話で証明されているのだが。
「カチューシャの方がわかりやすいんじゃない?」とか「ゴム使ったりとかやってみたら?」など、いろいろ言われている私とは一体。でもカチューシャはいいかもしれない。今度試そう。
しばらく面白そうな顔で語りかけてきたカズマさんは、やがて話を切り出してきた。
「君、何でこの事務所に入ろうって思ったの?」
「え」

なんとなーく、私の核心の穴をクリーンヒットさせる辛い質問が飛び出してきた。どうしようか、本音を言うか? 誤魔化すか?
さっきから「あー」とか「んー」とか漏らしている私に何を思ったのか、
「ひょっとして、何も考えてないでしょ」
次のような予想を投げかけた。見事、正解ですと言わんばかりに即座に首肯。そもそも正答は固定されてないから、全てOKサインを出すつもりだったのだが。
「やっぱりねー、それしか無いでしょ。そもそもココの全員何も考えないで入ったからね」
「……は?」
「何も考えてないの。それで事務所入り」


しばらく、私の動力部は「電源OFF」を指定していた。


「どうしたの?」
電源ONの信号がやってきた。すぐさま起動。
「すいません、聞いてませんでした」
この次に「予想外です」なんて聞こえたらハリセン音が響きそうだな。思わず苦しいニヤケ顔を作った。
私の出した言葉形式の答案用紙に記された答えに微笑したまま、変な事を聞かれた。

「で、君って何者なのかな?」
「……は?」
「君の身分。他人に言えないような事とかさ」

それはどういう事だ。とか、何訊いてんだ。などの感情が入り混じったマヌケ顔が勝手に形成された。
それをどう思ったのか「あれ?」というような表情でカズマさんが見ている。
「君、普通のチャオなの?」
「まぁ、普通と言ったら普通……です」
とりあえず、そのように述べた。他に述べられる事項は何だろうなぁ。そんなバカ度満点な思考を形成させ、頭の中で冒険を繰り広げてみる。
――3秒でゲームオーバーになってしまった。くそ。

「珍しいなぁ、普通のチャオがココに来るなんて」
やけに考え込んだ顔で天井を見上げた。そこまで真剣に考え込むだろうか。
「遠回しに来るんじゃねぇって言ってるんですか、それ」
「はは、違うって。君も知ってるでしょ? ココ、常識知らずの集まる事務所だ、とか」
嫌という程聞かされている。誰から聞いたのかはあえて言わないが。
「でもね、常識知らずとかじゃなくって、全員そのままの意味で普通じゃないんだよ。知ってた?」
……会長の雑音サウンドを嫌々脳内に浮かべた。それに該当する音程は聞いた事が無い。はて。
「知ってる訳無いよなぁ。そもそも誰にも教えてないもんね。所員しか知らないよ」
つまり、今の私には知る権利があると。
「いえすおふこーす」
適当な英語で返された。ココは一つ聞き出しておこうか。
「その……誰にも言わないんで、教えてくれませんか?」
「ああ、バラしてもいいよ。」
な、何ですと?
「言っても言わなくても元々おかしい奴等揃いだからね。今更明かしても同じだよ」
「……投げやりなんですね」
みんなそう思ってるって。そう前置きして語られた。
「まず、何から訊きたい?」
「じゃあ……カズマさん、から」
思わず二人で頬の力を緩めてしまった。コレがありきたりなオチというモノである。

「僕はね、元は人間だったんだ」
……コレは、ありきたりに該当するのだろうか。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第263号
ページ番号
4 / 6
この作品について
タイトル
小説事務所 「ユリ の 始まりの日」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第262号
最終掲載
週刊チャオ第263号
連載期間
約8日